059「暴走アナスタシア。その結果」
その後、俺が提案した『消費期限の記載』も採用されるなど『貴族用ポテトフライ』の販売についての話がまとまった。
「いや〜すごいな、アナスタシアちゃんは」
「い、いえ?! そ、そんな、大したことは⋯⋯」
「いいえ! すごいわアナスタシアちゃん! 知識はもちろんだけど喋り方や所作も含めてアナスタシアちゃんと同じくらいの貴族の子でそこまでの子はいないわよ」
「い、いやぁ、そうでしょうか。あは、あはは⋯⋯」
おおぉ、二人から手放しのベタ褒めである。
一応9歳の女の子って俺の周囲では孤児院の子しか知らないので貴族の子供がどんな感じかはわからない。
ただ、カイゼルさんやセリーナさんの言葉を聞く限りちょっとやりすぎたかもしれない。
うん、とりあえず笑ってごまかしとけ。
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「父上。私たちはそろそろ⋯⋯」
一通り、貴族用ポテトフライの話も終わり宴もたけなわといったところで、孤児院長⋯⋯クロフォードが解散の言葉を口にしたその時、
「あ、そういえば、あなた⋯⋯例の⋯⋯」
「ん? ああ、そうだったそうだった。忘れるところだった」
「「??」」
突然、セリーナがカイゼルに声を掛けるとカイゼルが何かを思い出したかのような振る舞いを見せると「おい」と執事に合図。それを見たセバス的執事がサッと動く。
そんなやり取りを「何だろう?」と思いながら見ているアナスタシア。するとカイゼルがニコニコしながら話しかける。
「いや〜実は今日はアナスタシアちゃんのために『おみやげ』を用意していたんだよ〜」
「え? おみやげ?」
「ああ。これはクロも初めて見るものだと思うぞ〜(ニヤニヤ)」
「え?」
カイゼルがニヤけながらクロフォードを煽る。
クロフォードはその父親のイタズラじみた表情に「はぁ」とため息を漏らす。
ちょうどそのタイミングでセバス的執事がその『おみやげ』なるものをトレーに乗せてカイゼルさんの元へとやってきた。
ちなみに、その『おみやげ』は上から布が敷かれて見えないようになっている。これはカイゼルがアナスタシアや息子を驚かせようとワザと見えないようにしたのだが、
(え? この匂いって⋯⋯)
そこでアナスタシアが『おみやげ』から香る匂いに反応するが、アナスタシアの反応に気づく者はおらず、カイゼルがそのまま話を始める。
「いや〜実はこれなんだがこれは《《とても珍しいもの》》でな。ちょうど3日前に我が商会に入ってきた品なんだが、極東にある島国の⋯⋯」
「お、おおおお、おにぎりぃぃぃぃ!!!!」
そう、それはまごうことなき『ジャパニーズおにぎり』。それを見たアナスタシアのテンションが一気に上がった。
しかし、そんなアナスタシアの反応を見たカイゼルが、
「え? ア、アナスタシアちゃんは『おにぎり』のことを知って⋯⋯いるのかい⋯⋯?」
と、驚愕の表情を隠しもせずアナスタシアに質問をする。
いつものアナスタシアならここでカイゼルの反応に気づいていたはずなのだが、しかしまさかの『おにぎり』の出現に彼女はカイゼルの反応を完全に見落としていた。
「はい、《《もちろん》》です! うわぁ、おにぎりだぁ〜! お米があるなんて知らなかった〜! 美味しそう〜っ!!!!」
侯爵という高い身分でさらには『食通』でもあるカイゼルをもって『とても珍しい』と言わしめた『おにぎり』や、《《まだ話してもいない》》『お米』についても《《ありえない》》リアクションをしてしまったアナスタシア。
しかも、彼女の《《暴走》》はこれで終わらなかった。
「え? おにぎりの横に添えてあるものって『たくあん』ですか?! すごい!『漬物』もあるんだぁ!!」
「え? ちょっと待って? もしかしてその蓋をしてあるお椀の中身って、まさか⋯⋯⋯⋯ああ、やっぱり『味噌汁』ぅぅ!!」
「『味噌』があるってことはつまり発酵技術があるってこと? それじゃあ『醤油』もあるんじゃない? ううん、絶対にある! だって味噌があるんだもん! すごい、すごーいっ!!!!」
アナスタシアの暴走をもはや止められないと悟った孤児院長クロフォード・フィアライトはそのままやりたいようにさせた。
というのも、彼にとって《《昨夜の出来事》》はもはや自分だけに留めるのは無理があると思ったから。
とはいえ、本来であればもう少し様子を見て両親に伝えるつもりでいたクロフォードだったので、アナスタシアの暴走は当然『想定外』だった。
(あのバカ⋯⋯今日はかなりきつい説教が必要のようだな)
ぶるっ!
「ん? なんか悪寒が?」




