053座敷童子と化け狸
「終わったな」
「そうだね」
斗真は2人の男たち…いや、2匹の化け狐が逃げるように店から出て行ったのを見た後、楓に終わったことを語る。
闇狐組……恐らく、化け狐の妖怪組織なのだろう。
「皆さん、この度は…本当にありがとうございます!」
「私からも」
店長は誠心誠意、感謝を込めて、お辞儀をする。
それに続いて、家内も頭を下げる。
「どういたしまして」
「今回は斗真に感謝ね」
「相手が化け狐なのは驚いたけどニャ」
斗真は感謝を受け取り、楓は今回のことは斗真がいなければ危なかったと語り、五月は2人は化け狐であったことに驚いていた。
「それは…そうと」
家内はジッと、斗真たち3人を見る。
「どうしたの、家内さん?」
「3人は妖怪だったんだね」
「え、あ…そっか!」
楓は気づく。
そう言えば、まだ自身や五月が妖怪であり、斗真が妖人である事実は店長と家内に伝えていない。
イカサマが発覚するまで、あの2人組は普通の人間の姿であった。
しかし、「姿化かし」の機能を持った指輪を外したことで、化け狐という妖怪になった。
妖怪が「姿化かし」を付けて、人の姿になっている時は、普通の人の目に映るが、「姿化かし」を外して妖怪になれば、通常…同じ妖怪でないと目に見えないのだ。
化け狐になった2人を、斗真も楓も五月も視認出来ていた。
つまり、家内は斗真たちも同じ妖怪だと言う結論になったのだろう。
お互いの顔を見合わせた斗真たち。
楓は耳に着けている「姿化かし」であるイヤリングを、五月は耳に着けた「姿化かし」である装着式のピアスを外す。
すると、楓は頭から2本の角が生え、鬼族に、五月は2つの尻尾が生え、猫又になる。
特に、楓は鬼族になることで、周囲に強力な妖気を撒く。
「私は鬼族」
「私は猫又ニャ」
自身の正体を明かす楓と五月。
家内は楓…その頭の角を見て、特に驚く。
「鬼族………あの鬼族?」
あの鬼族と言うのは、かつて…日本を征服しようとしていた、あの鬼族なのか?
という問いだろう。
家内からしたら、噂で聞いていた鬼族が、まさかクラスメイトだったなんて…という感想だ。
「うん、あの鬼族」
楓は落ち込むわけでも、怒るわけでもなく、淡々と頷く。
鬼族であることに驚かれるのは、慣れっこなのだろう。
「あれ?じゃあ、星原君は?」
家内は、楓と五月が妖怪という事実の中、斗真だけ…そのままということに疑問を感じる。
斗真は頬を掻く、
「ああ、俺は妖怪じゃない。妖人なんだ」
「妖人。妖気を持っている人間のことだよね?初めて見た」
家内は妖人である斗真を物珍しそうに見る。
やっぱり妖人は、かなり珍しいのか。
「それは、そうと……家内さんと店長も」
斗真は聞き出す。
そうなのだ。
妖怪である化け狐2人を視認出来たのは、何も斗真、楓、五月だけではない。
家内と店長も見えていた。
つまり、この2人は、
「うん、もう隠す必要はないかな」
「私も、失礼します」
そう言って、家内は大きな丸眼鏡を外し、店長は喉元に着けていた蝶ネクタイを外す。
家内の大きな丸眼鏡と店長の蝶ネクタイは「姿化かし」だったのだ。
すると、家内と店長の姿に変化が現れる。
家内は先程まで、背が低い女子高生であったが、今は…さらに背が低い。
おかっぱ頭の小さな姿。
可愛らしい人形が立っていた。
これは、
「座敷童子?」
「そう、私は座敷童子」
家内…座敷童子が肯定する。
座敷童子とは、子供の幽霊、もしくは妖気とされる存在。
古い屋敷に現れては、幸運をもたらすものと言われている。
そして、店長だが、今は人の姿では無く、
「狸?………いえ、化け狸」
楓がしゃがみ込み、妖怪になった店長を見下ろす。
人の姿であった店長は今、一匹の狸に変化していた。
さっきの化け狐と同じほどのサイズ。
茶色い毛並みが特徴の動物は、まさに狸。
店長は化け狸だったのだ。
「わあ!可愛いニャ!」
「わわ?!頭クチャクチャにしないで!」
座敷童子となった家内を可愛いと思った五月がじゃれつく。
同じ妖怪でも、座敷童子は可愛いようだ。
斗真たちが通う隗隗高校は、全国から妖怪が集まる高校。
勿論、妖怪でも無く、普通の人間には知らない事実。
楓、五月のような妖怪だけが、隗隗高校の裏の顔を知る。
楓の話では、高校には100体の妖怪がおり、4,5人に1人は妖怪なのだ。
けれど、今の五月の様子から見てわかる通り、例え妖怪でも、その人が妖怪かどうか分からない。
だけど、妖怪の中には自身が妖怪だと言いたくない者もおり、学校では妖怪全員「姿化かし」を付けている。
つまり、自ら正体を明かさないと、クラスメートが妖怪であるかどうか分かりっこない。
「しずっちが座敷童子だったなんてね。縁起が良いニャ」
「し、しずっち?」
「うん。静子だから、しずっちニャ!」
いきなりの渾名に困惑する家内。
そう言えば、五月は楓と友達になった翌日に、楓をかえちん…なんて読んでいたな。
「じゃあ、私は静子かな」
「え?」
「友達だし、名前で呼ばないと。静子も楓と呼んで」
「楓……うん、楓!これから宜しく」
「ええ…これから宜しくね、静子」
そんな楓と家内を見て、化け狸の店長は目尻に涙を浮かべる。
「静子が仲の良い友達が……目出度い」
「店長は五月蠅い!」
「いてっ!」
座敷童子の家内は、恥ずかし気な顔で店長の尻尾を軽く踏みつけるのだった。
たぬき喫茶店には、平和な時間が流れていた。
因みに、この後…斗真たちは普通にコーヒーを飲みながら、勉強をした。
五月は嫌がっていたが。




