052幻術
「イカサマだ?!てめぇ!勝手なこと言ってんじゃねぇ!」
いきなり、イカサマと指摘され、銀色の指輪を嵌めた男…銀吉は斗真に激昂する。
それでも、斗真は気にせず言う。
「いいや、これはイカサマだ!」
斗真は意見を変えることは無い。
「と、斗真!どういう事?」
「え?不正があったってことニャ?」
「店長、イカサマなんてあった?」
「い、いや、私には何とも!」
楓たちは、それぞれ驚いている。
彼らでも、闇狐組側のイカサマは見破れなかったみたいだ。
まぁ…仕方が無い。
相手側はバレないように、巧妙に”魔力を薄く”使っているからな。
「てめぇ、証拠でもあるんか?」
噛み付く銀吉。
それを無視して、斗真はスキルを発動する。
「〈万能眼〉〈魔力眼〉」
斗真のスキルである〈万能眼〉。
その中でも、魔力…ここでは妖気と呼ばれる力を眼を通して、可視化できる。
それによって、テーブル上にある札を見た結果、
「やっぱり」
斗真は納得する。
テーブル上の札には、妖気…もっと言えば、妖術の類が掛かっていた。
3回戦目が始まって早々、異世界でも魔力探知に優れた斗真は札に気づかれにくい妖術が掛かっているのを探知していたので、勘づけた。
もっと正確に言うと、札全体では無く、札の表…数字が見える部分である。
数字の部分に、薄い妖気が細かく掛かっており、精密な妖術となっている。
かなり巧妙な妖術だ。
しかし、こうした巧妙かつ、繊細な妖術は、脆い。
斗真は右手を開いて、相撲の突っ張りを出すような構えを取る。
そして、
「は!」
気合を込めて、開いた右手を前に出す。
右手から出された斗真の魔力が、テーブル上の札に当たる。
それによって、札に掛かっている妖術が強制解除される。
札に掛かった妖術が解除されたことで、
「え?数字が変わったニャ?!」
五月が目を擦り合わせて、テーブル上の妖札を見る。
そう、五月の言う通り、妖札の数字は変わっていた。
さらに言うと、銀吉の得た札の数字は、殆どがペアになっていないもの。
銀吉がペアとして、取っていた札は大体がペアでは無かったのだ。
何故こんな事が起こったのか。
それは、
「こ、これは幻術!」
楓が答えを言う。
幻術…文字通り、幻を引き起こす術。
異世界でも、幻覚を使う魔物や魔族がいたので、斗真は知っていた。
使われる魔力は少なく、精密な技術で幻覚を引き起こしているので、魔力探知に優れたものでなければ、全く気付けない。
けれど、この幻術には弱点がある。
それは大きめの魔力を当てられただけで、すぐに解除できる。
繊細ゆえに、軽く突き飛ばすだけで、無くなるのだ。
「え?じゃあ、つまり…さっきから、あの男がペアを取っていたと思ってたけど、全部幻だったってこと?」
家内の言う通り、今まで銀吉が取っていたのは、幻術によってペアに見せかけた外れの札だったのだ。
明らかなイカサマである。
「ついでに言うと、幻術を引き起こしているのは………は!」
斗真は再び、気合を込めて、右手を突き出し、魔力を強めの魔力を放出する。
放出した場所は、銀吉の隣の場所。
そこには、
「げげ?!」
一匹の狐がいた。
狐と言えば、妖怪である妖狐の琴葉を思い浮かべるが、あれより…何だか、狡賢そうな顔をしている。
琴葉の妖狐の姿は、何だか品のある感じがしたが、この2匹は品性が感じられない。
さっきまで何もいないように見えていた場所だが、実際は幻術によって、隠れていたのだ。
幻術を引きはがされた狐は、明らかに動揺している。
こいつは、3回戦目から幻術を使ってイカサマを引き起こしていた張本人である。
「化け狐!」
楓が狐を見て、そう言う。
化け狐…日本の古くから伝わる妖怪の一つ。
人に化けたり、時には幻覚の類を引き起こして、人を襲う妖怪として知られている。
この化け狐が幻術を使い、自身の姿が見えないように幻術を掛けつつ、テーブルの上の札にも幻術を掛けていたのだ。
3回戦目が始まった時に、斗真が感じた違和感は、この化け狐が幻術を使った時の魔力を感じたからだ。
「次いで言うと、コイツも多分」
斗真は素早い動きで、銀吉に近づく。
そして、指に嵌めてある銀色の指輪を取り外す。
「何をする?!」
すると、銀吉の姿が変わる。
スーツを着た長身の狐顔の男だったが、姿が変わり、今は一匹の狐に変わる。
こちらも幻術によって隠れていた狐と同じように、狡賢そうな見た目である。
つまり、同じ化け狐。
「化け狐が2匹!この2匹って、まさか」
家内が勘づく。
そう、この2匹の化け狐は、店を訪れていた2人の男だ。
金色の指輪を嵌めた方の金吉がトイレから言ったきり、全く帰ってこない。
それは、そのはず…さっきから札に幻術を掛けていたのが、化け狐の金吉であったからだ。
そして、金吉の幻術のサポートを受けながら、銀吉の方が番合わせを行う。
2匹の化け狐のコンビネーションによるイカサマだったのだ。
楓が鬼族特有の角を隠すために使っているイヤリングの「姿化かし」と同じく、銀吉が嵌めていた銀色の指輪と、恐らく金吉が嵌めていた金色の指輪が「姿化かし」となっているのだろう。
斗真は薄々勘づいていた。
闇狐組のことを、噂として楓が知っていること。
3カ月の前から訪れている2人に対して、店長が警察を呼ばないこと。
多分、店長も勘づいていたのだ…この2人が妖怪だと。
「クソ!バレちまった!どうする、金吉?!」
「俺にも分かんねぇ、銀吉?!まさか、幻術がに破られるとは!」
化け狐2匹は幻術を使ったイカサマを破られたことで、大きく動揺する。
そんな化け狐を斗真は素早く尻尾を掴み、持ち上げる。
掴まれた狐たちはジタバタと暴れる。
「おい!」
「離せ!」
「観念しろ!」
さて…この狐たちはどうするべきか。
妖怪関連の事件であるのは確か。
つまり、ここは妖怪を取り締まる退魔士の出番と言う訳である。
いっそ懲らしめるか。
そう考えていた矢先、
「星原さん、放して頂いても宜しいでしょうか?」
店長が狐たちを話して欲しいと言う。
「良いのですか?」
「はい、構いません」
斗真が素直に離す。
この事件の一番の被害者は喫茶店のオーナーである店長である。
店長が離せと言ったのなら、従うのが当然である。
斗真によって、地面に降ろされた狐たちは警戒心を露にして、店長を睨む。
店長は、穏やかな様子で狐たちを見る。
「3回目は、そちらの不正と言うことで、私達の不戦勝で宜しいでしょうか?」
「「は?」」
「この勝負、私達の勝ちで良いでしょうか?」
「「あ!」」
狐たちと店長は、妖札を使った番合わせで、店を掛けて勝負をした。
狐たちが勝てば、店を譲る。
店長側が勝てば、狐たちは2度と、この店に訪れない。
そういう約束になっている。
3回戦目は狐側のイカサマと言うことで、こちら側の3戦2勝1敗。
すなわち、こっちの勝ちだ。
2匹は暫し、悔しげに奥歯を噛み締める。
そして、
「「……………ち…………ちくしょお!!」」
2匹の狐は、一斉に悔し声を上げる。
「分かった!そっちの勝ちだ!」
「俺達の負けだ!」
そして、あっさりと負けを認める。
「潔い」
斗真は、もっと抵抗するかと思った。
銀吉は斗真から「姿化かし」である銀色の指輪を返され、スーツの男の姿に戻る。
ついでに、金吉も金色の指輪を使って、元に戻る。
「「お、覚えてろ!!」」
本当に悪役っぽいセリフを吐きつつ、駆け足で扉に向かう。
チリンチリン。
鈴が鳴る。
そうして、大慌てで、店から出て行ってしまった。
本当に呆気ない。
こうして、今回の化け狐による妖怪の事件は一旦終わるのだった。




