051番合わせ
番合わせ?
一体、なんだそれは。
それに、スーツの男が懐から出して、テーブルの上に置いた数十枚のカードは……………トランプだよな?
パッと見、絵柄はトランプに似てるのだが、トランプではない?
「これは…妖札」
楓がテーブルに置かれたトランプのような物を見て、妖札と言う。
トランプでは無いのか。
「楓…妖札って?」
「表と裏があって、表には数字と模様が描いてある。数字は1から13の札が4つずつ。さらに札のそれぞれには、4種類の模様がある。計52枚の札に、2枚の化け札っていう特殊な札を追加して、54枚の札で構成されているのが、妖札」
「あ、うん。完全にトランプだな」
「まぁ…トランプね」
なるほど、妖札と言うのは、妖怪版のトランプなのか。
「それじゃあ、番合わせってのは?」
「番合わせは、妖札の代表的な遊びの一つ。全ての札を裏にして、セットする。4種類の模様は関係なく、一人ずつ妖札の裏を二枚捲る。捲った表の数字が違ってたら、2枚とも同じ場所に裏にして置く。同じなら、その2枚を得られる。得られた札の数が多い方が勝ち。これが番合わせ」
「あ、うん。完全に神経衰弱だな」
「まぁ…神経衰弱ね」
つまり、これからトランプの神経衰弱をやる訳ね。
何と言うか、シンプルだな。
神経衰弱は概ね、頭の良さと言うか、記憶力に直結する。
「この番合わせに俺らが勝ったら、店を譲る。てめぇらが勝ったら、俺らは素直に引き下がる。どうだ?」
店を掛けた勝負と言う訳か。
だけど、冷静に考えてみたら、その勝負はこちら側にデメリットしかない勝負である。
受ける価値があるとは思えない。
「さあ、どうする?」
「断るんじゃないだろうな?!」
2人は頑なに神経衰弱で勝負を仕掛けようとする。
よっぽど記憶力に自信があるのか。
「店長、どうする?」
家内が聞く。
店長は少し悩む。
「お受けいたしましょう」
2人からの番合わせによる勝負を受け入れる。
「ただし、こちらも条件があります」
「はん?!」
「こちらが勝ったら、もう2度と、この店を明け渡すと言った要求はしないでもらいたい」
「ちっ!分かったよ!」
こうして、喫茶店の明け渡しを掛けた神経衰弱…改め、番合わせの勝負が始まる。
早速、妖札が何度も切られ、裏にされた状態でテーブルの上に並べられる。
「3回勝負だ。先の2回勝った方が勝者だ」
一回目の勝負は、店長と銀色の指輪を嵌めた男である。
先行は店長。
54枚の内、2枚を捲っていく。
外れである。
次は、銀色の指輪を嵌めた男の番。
しかし、こちらも2枚とも外れである。
店長の番に移る。
また外れである。
神経衰弱である限り、始めは外れの連続だろう。
段々と、テーブルの上の札の数字が明らかになっていくのだ。
それを、しっかりと記憶しているかどうかで勝敗が分かれる。
はたして、一回戦目の結果は……。
「俺の勝ちだ!」
「うぐ!」
銀色の指輪を嵌めた男の勝利だった。
残念ながら、店長には優れた記憶力は無かった。
「店長、記憶力低い」
家内は呆れる。
だが、相手の男も中々、秀でた記憶力を持っていた。
とはいえ、こちらが負けてしまった。
あと一回負けると、こちらの完全敗北である。
ここで、前に出る者が現れる。
「2回目は私にやらせて」
ここで、2回戦目は楓が名乗り出る。
「へん!女だからって、手加減しねぇぞ!」
「望むところ」
楓の相手は金色の指輪を嵌めた男だった。
「楓、頼んだ!」
「頑張れ、かえちん!」
「お願い、柊さん!」
斗真たちが楓を見守る中、二回戦目の結果は……。
「うぐ!俺が負けた!」
金色の指輪を嵌めた男が崩れ落ちる。
二回戦目は見事に、楓の圧勝だった。
流石は、学業においても優秀さを高校で発揮する楓である。
記憶力は抜群。
後半は、ほぼ楓の連続ヒットだった。
これで、1勝1敗だ。
残すは、3回戦目。
これに勝てば、こちらの勝利である。
3回戦目を始める時に、
「おい、銀吉」
「なんだ、金吉」
金色の指輪を嵌めた男が、銀色の嵌めた男…銀吉を呼ぶ。
銀色の指輪を嵌めた男も、金色の指輪を嵌めた男を金吉と呼ぶ。
金色の指輪だから金吉で、銀色の指輪だから銀吉。
何とも分かりやすい。
2人は少し話あった後、
「ちょっとトイレに行く」
金吉が喫茶店のトイレの方に行く。
その間に、銀吉が妖札をテーブルに広げる。
今度の相手は、銀吉のようだ。
「始めるぞ」
金吉がトイレから戻る前に、始まってしまう。
………ん?
斗真は何か違和感を覚える。
何かを感じた斗真は周囲を見渡す。
けれど、特に変わったことはない。
3回戦目は金吉と楓。
こちら側は、今度も楓だ。
楓の記憶力の良さは、さっきの銀吉との勝負で分かっている。
勝負は始め、捲っては数の違う札を引き、戻して、捲っては戻すを繰り返す。
けれど、徐々に楓は全体的な札の数字を把握していく。
楓の頭の中には、既にペアになる札は、ある程度掴めてきた。
後は、自身の番になった時に、捲るだけである。
「これと…これね」
楓が2枚の札を捲る。
それは確かに、数字がペアのはずの札同士で合った。
「…………………え?」
けれど、楓は少し驚く。
数字はペアでは無かった。
少し驚きつつも、札を戻す。
きっと自身の記憶違いだったのだろうと、楓は考える。
「俺の番だ」
銀吉は2枚の札を捲る。
その2枚の札は、遠くで見ていた斗真でも、ペアで無いはずの2枚である。
だが、
「よし、ペアだ!」
何と、その2枚はペアだった。
その後、銀吉は次々に札を捲っては、ペアを作っていく。
ペアの数はどんどんと増えていく。
そして、
「俺の勝ちだ!」
「そ、そんな」
銀吉は勝利を宣言し、楓は落胆する。
何と銀吉は、3回戦目にて、半分以上の札を得たのだ。
まさかの、3戦1勝2敗である。
こちらの負けだ。
しかし、斗真は楓の横に来る。
「斗真?」
不思議がる楓の横で、斗真は妖札を指差し、宣言する。
「イカサマだ!!」




