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朧火の意志  作者: 布都御魂
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船乗りとしての意志


「敵潜水艦隊補足!補足数4隻!艦種識別、『251型潜水艦』の模様!」


「対潜ミサイル用意、1隻たりとも撃ち漏らすな。」


襲撃してきた対潜戦闘に当たる駆逐艦『ボリッシュ』の艦橋内は、乗組員の発する言葉以外は静けさに包まれていた。


フォートレスから少し離れた軍港、そこから更に沖合へと離れたこの場所で、戦団は海上基地を建設しており、駆逐艦『ボリッシュ』の所属する護衛艦隊は海上基地の建設を妨害しようと目論む革命派の戦力を迎撃する事を主要な任務としていた。


来ないに越した事はない襲撃ではあるものの、戦団が海上基地という軍事的な拠点を建設するのを革命派の連中が放っておく訳が無い為、今まさに襲撃が起こっているという訳なのである。


戦団海軍の中では古株の駆逐艦『ボリッシュ』において艦長を務める"ラルク・ゼーヴェン"中佐は、各方面から発さられる乗組員達の情報を正確に聞き分け、冷静かつ的確に指示を出し続けていた。彼は元々アメリカ海軍に所属する駆逐艦乗りであったが、家族がフォートレスに移住する際に戦団へと移籍し、駆逐艦『ボリッシュ』の艦長に就任したベテランの船乗りであった。


「右舷ミサイルブロック、乗員の避難完了。」


「目標指定完了、発射口解放完了。」


「対潜ミサイル、トラックナンバー1番から2番の発射準備完了!艦長、いつでもいけます!」


「──対潜ミサイル発射、奴等を海底に沈めてやれ…!」


「了解!──対潜ミサイル、Fire(発射)!」


艦橋の外、左右に2基ずつ搭載された4連装ミサイル発射器の一つから、対潜ミサイルである『シーゲイザー』が発射される。元は対艦ミサイルが収まっていた発射器から放たれた対潜ミサイルは噴煙を噴き出しながら一度飛翔し、敵潜水艦の居る方向の海中へと進路を変えた後、推進部を切り離して弾頭である短魚雷『チェイサー』を海中へと解き放った。


海中へと潜った魚雷は白い泡の線を描きつつ海中を突き進み、敵潜水艦へと一気に距離を詰めていく。高い追尾性により敵艦を補足し続ける『チェイサー』が先頭を航行していた『251型潜水艦』に狙いを定め、的の大きい胴体の側面部に斜めから喰らいつき装甲を破壊しつつ起爆する。船体の底面部からバブルジェットを生じさせての破壊を手法とする長魚雷とは異なり、目標の装甲に直撃して喰い破りつつ水圧で自壊する手法を取る短魚雷は、最新技術により正確に命中するという状況下において、無類の強さを誇っていた。


いくら硬い装甲に包まれている潜水艦とはいえ対潜戦闘を想定された短魚雷の直撃には耐えられないようで、革命派の『251型潜水艦』は短魚雷弾頭の直撃を耐える事は叶わず、海中でありながら爆炎という名の花火を盛大に咲かせる事となった。


内部に搭載していた魚雷が誘爆する事により盛大な花火へと変じてしまった『251型潜水艦』の乗組員達は、ラルク艦長の言葉通り海底へと沈んでいった。


「──敵潜水艦、轟沈!探査装置でも轟沈が確認されています!」


「……ご苦労、良くやった。」


乗組員が報告をあげた直後、再び爆音が鳴り響き海面に水柱が高く上がる。どうやら僚艦が他の潜水艦を撃沈したようだ。


「駆逐艦『カット』より通達!敵潜水艦1隻を撃沈したとの事です!」


報告を聞きつつ窓の外を見やると、『ボリッシュ』の同型艦である5番艦『クーリング』と6番艦『コーティング』が、白い噴煙を噴き出させながら対潜ミサイルを発射する様子が目に入った。どうやら僚艦も順調に敵艦を迎撃できているらしい。


「駆逐艦『クーリング』、敵潜水艦を轟沈!同時に駆逐艦『コーティング』も敵潜水艦を撃沈したとの事です!」


「……皆優秀で何よりだ。」


冷静に振る舞いつつ、たった一言で僚艦への賛辞を終えるラルク艦長。敵艦を撃沈したという戦果への喜びが感じとり難い、短く端的な言葉ではあるが、そんな彼の言葉に対し乗組員達は誰も言及しようとは思っていなかった。


何故なら彼は感情を表に出さないだけであり、内心では仲間の戦果に大喜びしているような人間であると、艦内の全員が知っているからであった。「現代の船乗りである以上、どんな時でも冷静であれ。」という今は亡き彼の祖父の言葉を守り続けているだけであり、現に彼の口元は冷酷かつ厳しい目つきに反してニヤけてしまっていた。


「……艦長、またニヤけてますね。」(ヒソヒソ)


「相変わらずだなぁ……可愛い…」(ヒソヒソ)


案の定乗組員達にはバレており、そんな一面が彼の部下達を惹き付けて止まないのだが、本人は隠し通せていると思っているせいか、乗組員達の内心には全く気付いていなかった。パッと見クールな雰囲気を纏っているだけに、妙な残念さとのギャップが凄いのが彼である。


「そこ、私語は慎め。……今は任務に集中しろ。」


「「……失礼しました!!」」


((((((まだニヤけてるんだよなぁ……))))))


──駆逐艦『ボリッシュ』の乗組員達の心が一つになった瞬間であった……艦長以外。


艦長も艦長だが、乗組員達も何処か緊張感が無いようである。……まぁ艦長本人は至って真面目なつもりなのだが。


「艦長、フリゲート『AZL-003』より通達です!南部方向より敵潜水艦の増援を確認との事、現在対応中との事です。」


「増援……奴さんも本気のようだな。」


革命派の連中も、どうにかして海上基地の完成を食い止めたいらしい…。


「艦長!」


「……今度はなんだ。」


「索敵任務中の『AZL-016』より支援要請です!『本艦所属の無人ヘリが所属不明の艦隊を発見、本艦では対応困難』との事です!」


「所属不明の艦隊だと?……十中八九ドイツ革命派の艦隊だろう。」


「僭越ながら私も同意見です……敵艦隊には駆逐艦クラスが数隻含まれており、更にフリゲートが多数確認されているとの事ですが……いかがなさいますか?」


「……本艦のみでは厳しいかもしれん。海軍本部に増援を要請しろ、敵の潜水艦隊が潜んでいる以上、海上基地の防衛ラインに穴を開ける訳にはいかん。」


「増援の艦に対潜戦闘に対応させるとなると、到着までに時間を要する恐れがありますが…。」


彼の言うとおり、戦団海軍の艦艇には対潜設備が貧弱であるという欠点が存在する。それは此処異空間においての戦闘が水上艦に対する戦闘のみであった事、攻勢時には陸上部隊の支援が主な任務となる場合が殆どであった事等が原因であり、現在必要となる戦力を重点的に揃えた結果が、今の戦団海軍の実情であった。


幸いにも対潜戦闘の構想そのものは存在した為、追加装備としての対潜設備は用意してあったのだが、それらの設備を搭載するとなると必然的に取り付け作業が必要となり、出撃に時間を要してしまう事が大きな障害となってしまっていた。


「……それは最もだが、今は他に手が無い。やれる事をやるしか無いだろう。」


「それは──っ、艦長!スヴェルチームより通信です!」


「何だと?繋げ、私が出る。」


「はっ!通信、接続します!」


少しばかりのノイズの後、スピーカーから男性の声が流れ始める。


『──こちらスヴェルチーム所属、スヴェル2"ヴィンセント"だ。エリア022方面より敵艦隊が侵攻して来ているが、護衛艦隊総旗艦である貴艦の方針を聞きたい。』


「……こちら駆逐艦『ボリッシュ』艦長、ラルク・ゼーヴェンです。本艦とフリゲート数隻で敵艦隊を食い止め、海軍本部に増援を要請しようと考えておりました。」


『ふむ……その増援、代わりに私達が受け持とう。』


スヴェル2の唐突な提案に、ラルク艦長には驚きを隠せなかった。戦団海軍の艦艇に代わり、自分達があの艦隊を相手取ろうというのか…!?


『スヴェル1とスヴェル7が張り切ったお陰で手が空いていてね……判断は護衛艦隊を率いる貴殿に任せよう。』


「……分かりました。護衛艦隊総指揮として、スヴェルチームへ支援を要請します。敵水上艦隊を迎撃し、海上基地防衛ラインの維持にご助力願いたい。」


『了解した──貴艦は引き続き、対潜任務に従事せよ。……我々にはできない事だからな。』


「はっ!お任せを…!」


通信が切れ、艦橋内に再び静寂が訪れる。


「……聞いたな?本艦は引き続き、海上基地周辺の対潜戦闘任務に従事する。『AZL-016』にはスヴェルチームが増援に向かったと通達を送れ。」


「了解です!」


「スヴェル2は自分達にしか出来ない事……つまりは対潜戦闘を我らに任せた。戦団海軍として、なにより軍艦に乗る船乗りとして、恥ずかしい姿を晒す訳にはいかん。──総員、気を引き締めろ……戦団海軍としての意地を見せろ!」


「「「「「「「はっ!!!!」」」」」」」




普段は和やかな彼等も、気を引き締める時は引き締める。その切り替えができるからこその普段の雰囲気であり、彼等なりの船乗りとしての在り方であった。




……自分達の誇りを胸に、任務へと全力で挑む。









それが彼等の、戦団海軍(フォート・ネイビー)としての意志であった。






お読み頂き、ありがとうございますm(_ _)m

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