天駆ける竜と剣士
『よーし!そこで保持しててくれ!』
「了解。」
船体が動かない様にアナライザーで抑えているうちに、モーリスが艦通しを溶接していく。
7隻ずつ並んだ『フューチャー級貨物輸送艦』が船体後部にある艦橋部を背中合わせにするように並び、密集する艦橋部で二分された広い甲板エリアが出来上がる。今は何の加工も施してはいないが、後日この甲板を滑走路とする計画が立案されている。艦橋部の一部は格納庫へと改装し、平時には航空機を格納できるようにする計画もあるそうだ。
そして並んで停泊するフューチャー級の片端に、海上補給艦の『デリバー級海上補給艦』が停泊するフューチャー級の列とは直角となる形で1列に並んで停泊している。デリバー級前部の特徴的な補給部が横一列に並び、遠巻きに見れば軍港の空きドックにも見えてくるような光景が広がっていた。
このデリバー級の部分は海上基地を拠点とする小型艦艇の母港となり、フォートレス軍港付近の海域における最前線の基地でありながら、此処に勤務する船乗り達の帰る場所となるのである。今はまだ横並びになっただけの停泊所でしか無いが、行く行くはクレーンや整備用の設備などの必要な設備を取り付ける予定だ。
『うし、もういいぞ!』
「これで一先ずの溶接作業は完了か…?」
押さえていたフューチャー級の船体から手を離し、モーリスの元へと近寄る。この短時間でかなりの作業を進めている……海上基地の建設は滞り無く進んでいるな。
『あぁ、とりあえずはな。……スヴェル4より計画艦隊艦橋に通達!艦同士の固定は完了した、固定錨の投入を開始せよ!』
『──こちら艦橋、了解。固定錨の投入を開始する。』
停泊中のフューチャー級やデリバー級から次々と錨が降ろされ、艦の位置を固定し始める。この固定錨は通常の錨を巨大かつ特殊な機構が搭載された錨へと換装したもので、通常の錨よりも艦の位置を保持する能力が高い代物である。無論、重量も増加している為巻取りには時間が掛かるのだが、一度錨を降ろした後はこの艦艇達を動かす事は無い為特に問題はないのだ。
『艦橋よりスヴェル4、全艦、固定錨の投入を完了した。既に一次固定は完了しています。』
『よし、では二次固定を開始せよ。』
『了解。『フィックス・パイク』、展開せよ。』
フィックス・パイクとは海底に降ろされた固定錨に取り付けられた、海底に多数の杭を撃ち込んで固定する装置の事だ。装置下部から斜め8方向に向かって杭が撃ち込まれ、海上に浮かぶ艦を海底にガッチリ固定する事が可能となる技術部謹製の固定装置なのだが、艦艇を半永久的に固定するという事がこれまで無かった為に、これまで戦団海軍の倉庫で死蔵されていたものだったりする。
やっと陽の目を浴びたフィックス・パイクは陽の光の届かない海底に沈み、今後海底から海上基地を支え続ける事となる。せっかく陽の目を浴びたのに勤め先は暗い海底とか、人間だったら絶望もんだな……まぁ機械装置だから関係ないんだが。
『──フィックス・パイク、起動完了。無事に固定は完了です、スヴェル4。』
『そりゃ良かった……お疲れさん。』
どうやら無事に作業は完了したみたいだ。敵の襲撃も無いし、後は帰るだけ──
『駆逐艦『ウェルディング』より緊急通達!海上基地南部方面より微弱なレーダー反応を感知!展開中のソノブイにも反応あり!』
『こちらスヴェル1、索敵の手を緩めるな。護衛艦隊は対潜戦闘を開始せよ。敵潜水艦を海上基地に近づけさせるな。』
…………なるほど、これがフラグか。
『アイギスより各位、エリア022国境線より通達が入りました。革命派勢力と思しきアナライザーが小隊規模でそちらに向かっているとの事です。至急、迎撃に当たって下さい!』
続けざまにアイギス──トリシャだ──からの通達が入る。フラグ立てなきゃ良かった…。
「どんどん来やがるな…。」
海から空から……加減を知らんのか、革命派は。
『メルト、此処は良いから迎撃に回ってくれ!俺はこっちで作業を継続しとくからよ!』
「大丈夫なのか?」
『こっちにはジャックやヴァネッサもいるし、それよりも敵の襲撃を防ぐ方が優先だ。機動性に富むお前の機体の方が、迎撃には向いてる筈だ。』
実際、俺の機体は近〜中距離での戦闘を得意とする機動性の高い機体だ。モーリスやヴァネッサは『SB-18』だし、ジャックは中〜遠距離での戦闘を特異とする中・後衛タイプの機体だから、この4人の中では俺が適任と言う事になるのである。
というか作業班である俺達は最低限の兵装しか持ってきていない為、近接戦が可能な俺が出るのは割と必然だったりする。
「了解……んじゃ、行ってくるわ。」
ブースターを噴かせ、ヘンリク達のいる場所まで移動する。兵装は少ないが、まぁ何とかするとしよう。
『む、メルト君か。丁度良い、私についてきてくれ……共に奴等を蹴散らそう。』
「了解した……やるならとことん、だ。」
ヘンリクに続いてブースターを噴かせ、こちらへと迫るアナライザー達を迎え撃つ。望遠システムで敵機をズームし、敵機の情報を探ってみる。
「……ヘンリク、敵は恐らく『ノワールᎷ』だ。フランスが供与した量産機だが……久々に見たな。」
『流石に『アルゲマインA6』では無かったか……まあいい、やる事は変わらん。』
『ノワールᎷ』はフランスで製造された量産型のアナライザーであり、面長な頭部にスラリとしたフレームが特徴的な輸出仕様のアナライザーである。所々に黄色いラインが描かれている為、フランス本国の青いラインが入った『ノワール』との区別は割と容易なのだ。
「『ノワールᎷ』にしては珍しく銃持ってんな……流石に空中で近接戦をする気は無いってか?」
『ふむ……あの機体は射撃補正はあまり高く無かった筈だが……まぁ旧型機よりはマシなのだろう。』
迫り来る『ノワールᎷ』の手には西華連邦製のアサルトライフルである『95式自動歩槍』が握られており、『ノワールᎷ』の得意とする近接戦ではなく銃撃戦でこちらに挑むつもりのようだ。
「それじゃ、行きますか……俺は側面から強襲するから、ヘンリクはそのまま正面から頼む。」
『任された……では行くぞ…!』
機体を加速させ、『ノワールᎷ』の小隊を側面から強襲する。竜爪を展開し、右腕には『オリオン』を握りしめた状態で堂々と突撃を敢行する。
竜爪を振り上げ、斜めに振り下ろして敵機を左腕の円盾ごと引き裂く。金属が軋むような音と共に『ノワールᎷ』の装甲が切り裂かれ、激しいスパークと共に敵機が海へと落下して行く。
近くにいた敵機が慌てた様子で此方に銃口を向けて来るが、銃口から銃弾が放たれるよりも前に右手のメイスでアサルトライフルを叩き壊す。そのまま殴りつけたメイスを右へと振り払い、敵機の頭部を思いっきり殴りつけて破壊する。
「この距離なら銃よりメイスの方が早いんだよ、マヌケ。」
メインカメラを失った敵機を蹴り飛ばしつつ、その横にいた敵機を竜爪で斬りつける。軽く振り回しただけなのもあってか円盾を引き裂くに留まってしまったが、真上から思いきりメイスを振り下ろして敵機を遥か下の海へと叩き落とす。
アナライザーは基本的に水に弱く、雨や水飛沫程度ならばともかく水中で活動する事はできない。その為ああやって海に叩き落としてやると、いとも簡単に敵機を無力化する事が出来るのである。
海に落ちたアナライザーのパイロットは海水が流入して溺死するか、精密機械が水没して爆死するかのどちらかなので、早急に救助を行わない限り基本的には死亡する事が殆どだ。……今落ちたパイロットも、恐らくは死んでいる事だろう…自業自得だがな。
チラッと横を見ると、ヘンリクの機体『アロンダイト』が両手に持つ剣を自在に操り、革命派のアナライザー達を斬り刻んでいるのが見えた。彼等にはヘンリクの剣で細切れにされるか、俺のメイスで叩き潰されるかというクソみたいな選択肢が示されており、その心境はさぞ愉快な事になっている事だろう。
もう一度言うが、自業自得である。
「攻めて来るお前等が悪いんだよっ!」
竜爪をフルスイングし目前の敵機を纏めて薙ぎ払う。腕やライフルをもぎ取られた『ノワールᎷ』に肉薄しつつ、メイスを振り下ろして装甲を叩き壊していく。ゴシャッという嫌な音を立てて潰れた装甲が機体から剥がれて宙を舞い、装甲の内側の無防備な部分を晒し出す。
胸部装甲の下はコックピットであり、ここを潰せばパイロットはアナライザーを文字通り鉄の棺桶とする羽目になるだろう。ひしゃげた棺桶の中なんぞ想像したくも無いが、クソ野郎のお前等には丁度良い末路だろう。
「こいつで、沈んどけっ!!!」
振りかぶったメイスを思いっきりコックピットへと叩きつけ、敵機を青い海へと叩き落とす。物凄い勢いで海へと落下していったアナライザーが水柱を立てて着水し、海中で起爆して木っ端微塵に粉砕される。
『……終わったか。』
「あぁ……今ので最後だ。」
ヘンリクが斬りまくっていたお陰で、思った以上に早く迎撃が終了したな……。対潜戦闘の方が、まだ時間が掛かりそうだ。
……さてと、戦団海軍の対潜戦闘を見させて貰うとしようか。
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