艦隊護衛
愛機『デュランダル』を操作し、フォートレスの郊外にある軍港の広場へと降り立つ。
軍港にはいつも多数の軍艦が停泊しているのだが、今日ばかりはいつもより遥かに多くの艦艇達が、この軍港へと集結していた。
「壮観だな…。」
今回この軍港に集結した数々の軍艦達は、アメリカ軍で旧式化した黎明期のアザーライト式輸送艦達であり、ブラウン大統領がエリア0021の危機を察知して手配した軍艦達である。
どの艦も年代的には新しいアザーライト式の輸送艦であるとはいえ、所々が錆びついていたり塗装が剥げてしまっている箇所が多く見られた。まぁ従来の輸送艦よりも優れた性能を持つ艦艇なだけあって、就役してからはかなりの頻度で使われていたんだろうな…。
資料によると現在停泊中の輸送艦達は全部で24隻とのことで、14隻が平面的な甲板を持つアザーライト式貨物輸送艦の『フューチャー級貨物輸送艦』で、残る10隻が試験的に運用されていた海上補給艦『デリバー級海上補給艦』なのだそうだ。
フューチャー級は船体の最後部に艦橋や煙突等が設置されており、前部から中央部にかけてフラットな平面になっている貨物の積載に特化した輸送艦である。艦橋の前には大型クレーンが1基程搭載されているものの、あくまでも積載量の方に性能を振り切っているのもあり、このクレーン自体は積載補助用のクレーンとなっているらしい…ちなみに積載自体は港にあるクレーンを使用するのだとか。
大量の物資を運搬できる分、積み下ろしにかなりの時間を要してしまうタイプの艦ではあるのだが、本作戦の様に平面的な甲板を多く必要とする海上基地建設という特殊な状況下においては、両舷のクレーンの少なさはむしろメリットとして働いていた。
ヘンリク曰く、この平面甲板のいくつかを延長して飛行場にするのだとか……ここに勤務するパイロット達の為にも、滑走路の長さはできるだけ猶予を取れるように進言しておくとしよう…。
そしてもう一つの艦『デリバー級』はというと、アメリカ海軍で試験的に用いられてきた海上補給の為の軍艦なのだそうだ。艦としてはかなりの大型ではあるのだが、この艦の最大の特徴は双胴船である事だろう。
双胴船とは文字通り船体が2つある艦艇の事で、通常の艦艇よりも高い安定性を長所とする特徴的な艦艇である。代表的な例として、アメリカ製の輸送艦である『スピアヘッド級遠征高速輸送艦』があるが、この『デリバー級』に関してはスピアヘッド級と比較してもかなり異質な形状となっている。
双胴船特有の2つの船体はスピアヘッド級のように前部甲板で覆われておらず、コの字型に船体が突き出た特殊な形状となっている。また船体自体がかなり広く設計されている為、艦前部から中央にかけて設けられたコの字型の部分に駆逐艦のような小型の艦艇を、まるで軍艦のドックのように擬似入港させる事が可能となっている。
この仕組みにより、限定的であるとはいえ海上でも艦艇を整備する事が可能となった次世代の艦艇ではあったのだが、作戦海域で悠長に擬似入港を行い整備する事は困難である事から、10隻目が建造された段階で海上補給整備の計画は中止されている。正直もう少し早く気付けないものかと思ったが、そのお陰でこうして海上基地を建設できるのだから黙っておくことにしよう。
軍港に到着してから改めて資料に目を通していると、機内のスピーカーからヘンリクの声が聞こえ始める。
『スヴェル1より各位、これより海上基地計画を始動する。海上基地建設地点まで艦隊を護衛後、各自割り振られた任務を遂行せよ。』
今回はモーリス、ヴァネッサ、ジャック、俺が海上基地の建設担当で、残るヘンリク、ヴィンセント、アンジェが建造中な護衛を担当する手筈となっている。その為建造担当メンバーのアナライザーには搭載する兵装を必要最低限のみにし、代わりに作業器具を装備した状態での出撃となっているのだ。
俺のアナライザーには兵装をハンドガンの『MP-443』のみにし、作業用の溶接キットや研磨用の器具といった作業器具に積載量の大部分を割いている。まぁいざとなれば『デュランダル』には『オリオン』や『竜爪』がある……ヘンリク達がいるから大丈夫だとは思うが、万が一の時はこれらを用いて迎撃に当たるとしよう。
『では出発する……計画艦隊に通達、建設地点まで移動を開始せよ。繰り返す、建設地点まで移動を開始せよ。』
ヘンリクの指示を受け、護衛の艦艇と共に計画艦隊に所属する輸送艦達が移動を開始する。輪形陣で輸送艦達を囲むように護衛するのは、『ボリッシュ級駆逐艦』と『AZL級フリゲート』達である。どの艦にも対潜用の設備が一時的に搭載されており、探査面ではアメリカが新開発した強化ソノブイの『フェルマータ』を使用し、受信した音を元に敵潜水艦の位置を割り出す事が可能となっている。そして発見した敵潜水艦を駆逐艦や艦載ヘリに搭載された爆雷や対潜魚雷、対潜ミサイル等で撃沈するのだ。
また対潜魚雷にはアメリカ製の新型追尾短魚雷である『チェイサー』を、対潜ミサイルにはその『チェイサー』を弾頭とした『シーゲイザー』を使用する。『チェイサー』は着水後に目標に向かって突き進み、敵潜水艦が回避行動を取っても稼働時間の限り敵潜水艦を追尾し続けるといった性質を持つアメリカの新型対潜魚雷である。燃料の観点から専ら『シーゲイザー』に搭載しての運用が多いものの、アメリカ海軍では短魚雷としての使用例が数多く存在する為、戦団でも対潜戦闘用の短魚雷として採用している。
そして『シーゲイザー』に関しては目標に向かって射出後、弾頭である『チェイサー』を切り離して敵潜水艦に短魚雷を送り出す対潜ミサイルなのだが、このミサイルの最大の特徴として、切り離されたミサイル推進部に短時間型の音響探知装置を搭載している事が挙げられる。
切り離した後の推進部が着水すると同時に音響探知装置が起動し、破壊目標である敵潜水艦が撃沈されたかどうかを探査する事が可能となっている。これにより敵潜水艦の欺瞞工作による撃ちもらしを高精度の音響探査で見抜き、魚雷の不発や稼働限界による撃ち漏らしを削減する事が可能となっている。
とはいえ音響探査による撃沈確認にはそれなりに限界があるのだが、現行の技術においては最新の技術であり、実際に敵潜水艦の欺瞞工作を見抜いたという実績から採用が決定された代物である。
これらの対潜設備を搭載した護衛がいる艦隊に、俺達アナライザー部隊の出番は無いようにも感じてしまうが、問題は潜水艦でなく海上部隊が出張って来た時である。水上艦はともかく敵のアナライザー部隊が出張って来た場合、護衛を担当する駆逐艦やフリゲートでは輸送艦達を護り切れず、下手をすれば護衛の艦ごと海の藻屑にされる可能性が非常に高い。
戦団では通常兵器での対アナライザー戦は極めて困難であるとの見解が為されており、その判断を後押ししたのが先日の戦団陸軍での犠牲者の発生であった。
もう二度と、彼等の様な目に合わせる訳にはいかないという強い意志の元、「アナライザーにはアナライザーをぶつけ、通常兵器群はそれの補助に徹する」という鉄則が敷かれる事となった。勿論アナライザーのパイロット達にも負担はあるものの、まともに戦えば新型機であっても持ち堪える事のできるアナライザーならともかく、アナライザーによる攻撃に耐えきれない通常兵器群にとっては、自殺行為にも等しいのだ。
……人的被害を出さない為にも、無人兵器の推進を進めるべきなのだろうか。そう、考える事が多くある。
しかしながら戦場に出す戦力を全て無人兵器に代替えする事が、俺達の未来にどのような影響を与えてしまうのか……俺はそれが怖かった。
無人兵器のみが争う戦争は、本当に人間の戦争なのだろうか……。
血も流さない無機質な兵器達同士がぶつかり合う戦争は、本当に目指すべき戦争の在り方なのか…?
分からない…。俺には……いや、今この場にいる誰にも、この答えを出す事は不可能だろう…。
「はぁ……分かんねぇもんだな。」
堂々巡りな思考に悩まされながら、艦隊の護衛に徹するのだった…。
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