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朧火の意志  作者: 布都御魂
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海上基地計画


「諸君、緊急事態だ。」


ヘンリクの真剣な一声と共に緊急ブリーフィングが始まる。いつものブリーフィングルーム兼リビングに集まっての議題は、つい先程発生した革命派による軍港奇襲についてだ。


「つい先程、フォートレス郊外の軍港に停泊中の空母『トパーズ・ミネラル』が奇襲を受けて中破、乗組員の多くが負傷するという事件が発生した。」


ヴァネッサが端末を操作し、軍港付近の地形図と損傷した空母『トパーズ・ミネラル』の状態をテーブル中央の立体映像装置で映し出す。映し出された『トパーズ・ミネラル』は左舷後方に大穴が空いたと思しき赤いカラー表示が為されており、よく見るとスクリューも赤く示されている状態だった。


「現時点での推測ではあるが、空母『トパーズ・ミネラル』は左舷後方に敵潜水艦からの魚雷攻撃を受けた可能性が高く、アンデルセン大将から提供された破損データと軍港付近のレーダー反応から見ても間違いは無いそうだ。損害状況としては左舷後方の船体に大穴が空き左舷スクリュー2基が破損との事だが、アンデルセン大将のダメコンによって大穴は一時的に塞がれている状態だ……あの筋肉馬鹿の力も捨てたもんじゃないらしい。」


軽く溜息をつきながら言うヘンリク。アンデルセン大将の事を筋肉馬鹿と呼んでいるが、どうやら自分が脳筋である事はド忘れしているようだ……アンタも同類だそ、ヘンリク。


「それから負傷した乗組員の状況だが、現在重傷者はピオス・ホスピタルに搬送され治療中との事だ……ノーザック氏曰く「全員命に別状は無く、長くても1週間程度のリハビリで済む奴が殆ど」との事だ。」


ノーザック氏といえばフォートレスの大病院ピオス・ホスピタルで医師を務める人で、俺もムールシュト戦後や徹甲弾粉骨砕身アッパー後にお世話になった人物だ。自身の事より患者や医療の進歩に身を捧げる傑物であり、見た目に反して患者からの信頼が厚い腕の良い医師なのである。


「とはいえ彼等にも療養は必要だ……よって空母『トパーズ・ミネラル』は一時的に運用を停止し、修理に回す事にする。修理期間中は空母『アノマロ』を総旗艦とし、機動艦隊の運用を行う予定だ……修理にも時間が掛かるからな。」


戦団海軍の総旗艦が修理中か……戦時中という状況下においては非常にマズい気もするが…一度壊れた艦艇はそう簡単には治らないのだから仕方ない。たとえ戦団技術部の技術力と作業速度を以てしても、水上に浮かぶ艦艇というデリケートな代物には時間を要してしまうものなのだ。


「状況報告はここまでにして……本題に入ろう。軍港近海の警備が手薄である事が判明した以上、迅速に警備を固める必要がある。しかしながら海上要塞のような大掛かりな建造物を迅速に設置できる程、我々には時間的余裕が無いのが現状だ。陸上でのエリア022戦線に加えて今回のような潜水艦による奇襲がある以上、1から大型設備を建造する余裕は無い。」


まあ敵が海上要塞を造ってるのを黙って見てる訳が無いわな……俺でも邪魔するわ、そんなもん。


「海上警備案が確定するまでは一先ず、海上警戒を私達が交代で行う事にしようと考えている……諸君の負担が大きくなるのは申し訳ないのだが──」


と、その時、申し訳なさそうに言うヘンリクの言葉を遮るように内線用の電話が鳴り響く。


「でますね……はい、こちらスヴェルチーム。」


近くにいたトリシャが受話器を取り、電話の向こうにいる相手と話し始める。


「はい…はい……えっ?今そこにいらっしゃるんですか!?……え、もう向かってる!?」


「どうしたトリシャ、何があった?」


トリシャは受話器を置き、少し焦ったような声色で言葉を紡ぐ。


「えっと…大統領閣下が……ブラウン大統領閣下がこちらにいらしてるそうです。」


「「「「「「「……は???」」」」」」」


ブラウン大統領が来てるって……ここ異空間だぞ!?


「そう、私だとも!」


ガチャっと扉が開き、声を発した人物が宿舎へと足を踏み入れる。まさかこの人が──


「久しぶり──いや、始めましての人もいるかな?私はジャック・ブラウン、アメリカ合衆国の大統領にしてそこにいるヘンリクの同期だ…よろしくね!」


……物凄いフランクだな。


一瞬呆気に取られたものの、全員がすぐに大統領へ敬礼をする。戦団としてアメリカ軍から独立したとはいえ俺達の所属国はアメリカであり、立ち位置的には"国家の中の国家"に近い。その為直接的な命令権はないものの、所属する国のトップにも等しい人物であるブラウン大統領には敬礼せざるを得ないのである。


「あぁ、敬礼はいいよ。此処に来たのは非公式だからね……それに、あまり時間もないだろう…?」


「……どうやら全て知っておられるようですね。」


「国の事だからね、当然だとも。さてと、要件を簡潔に話そうか。」


そう言って大統領は数枚の紙の資料を取り出す。それをヘンリクに渡し、内容について話を始めた。


「そこにあるのは旧式化したアザーライト式貨物輸送艦のリストだ。リストの半分以上が平面的な甲板を持つ輸送艦で、それ以外は海上補給を目的とした試験運用の補給輸送艦でね……これらを集結させれば随分と広い海上基地を簡単に設営できるとは思わないかい?」


艦艇を集めて海上に浮かぶ基地へと転用するということか……いやまて、何で大統領が海上基地の迅速な建造が急務なのを知ってるんだ…?軍港への奇襲が起きたのもついさっきの事だぞ…?


「ふふ……必要になる気がするという直感だよ。私の直感はよく当たるからね…。」


……え、心を読まれた!?


「心を読まれたって顔してるね……ふふ、君は顔に出やすいタイプだねぇ。」


「……失礼しました。大統領閣下は読心術の心得がお有りで…?」


「いや?多少の機微くらいなら分かるけど、心は流石に読めないねぇ……単純に君が顔に出やすいだけだと思うよ。」


「そ、そうでしたか…。」


「ははは、そこまで固くならなくて良いよ。公式の場ならともかく、今は非公式だからね……ひとまず、楽にしていなさい。」


「……お気遣いありがとうございます。」


「ふふ……さてヘンリク、その船達があれば君なら何とかできるんじゃないかい?」


「……毎度の事ながら、君は異次元の思考をしているな。」


「そういう君は、相変わらず人に頼るのが下手くそだね……困ったら頼れといつも言っているじゃないか。」


……ヘンリクとの関係性はまだ分からないけど、これだけは言える。……頼るまでの過程が幾ら何でも早すぎるだろう。ヘンリクもまだ頼る事を検討すらしていない段階だろうに…。


「君が早すぎるのが悪い……先読みして来るもんだから頼るタイミングが無いのだといつも言っているだろう。」


……思ってた事をヘンリクが言ってくれた。


「はははっ、私はこういう人間だ…諦めるといい。さて、引き渡しは明後日だから後は頼んだよ。」


「……次はせめて連絡をしてからにしてくれ。でないと君の護衛達が心労で死ぬぞ?」


「……それもそうだね、気を付けよう。では、私はこれにて失礼するよ。」


そう言って部屋を出ていくブラウン大統領。チラッと扉の外に護衛の兵士が居たのが見えたが……見なかった事にしよう。非公式での訪問とはいえ、失礼な事をしていれば彼等の持つライフルで撃ち抜かれていた可能性も無くはないのだから。


ヘンリクは溜息をつき、一度気持ちを切り替えてからブリーフィングを再開する……俺も切り替えよう。


……いや、切り替えれるかよ。


「……大統領の迅速な支援により、海上基地の目処が立った。モーリス、この資料を持って技術部に連絡を。ヴァネッサとメルト君もモーリスに同行してくれ。」


「おう、任せとけ。」


俺は技術部としての采配か……精一杯頑張るとしよう。


「私とトリシャで海軍に話をつけに行く。トリシャ、準備を。」


「了解です♪」


「ヴィンセントはジャックとアンジェを連れて軍港付近の警備に当たってくれ。軍港付近にあるゲート付近には特に厳重警戒を頼む。」


「了解した。」


一呼吸置き、ヘンリクが言葉を紡ぐ。



「……支援を受けた以上、この任務は絶対に成功させる必要がある。祖国と彼の顔に泥を塗らない為にも、各自全力で任務に当たってくれ……諸君らの奮戦を期待する。」



「「「「「「「了解!!!」」」」」」」





……さぁて、楽しい楽しい基地作りの始まりだ。





お読み頂き、ありがとうございますm(_ _)m

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