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朧火の意志  作者: 布都御魂
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暗き海の奇襲


エリア021とエリア022を繋ぐ海域、その深い海中にて。


黒く、そして長くスラリとした鋼鉄の鯨が静かに海中を突き進んでいた。


それは生命体の鯨ではなく人の手によって生み出された鋼鉄の艦であった。ドイツ社会主義共和国の主力潜水艦である『251型潜水艦』であった。


革命以前から存在する現役のドイツ製潜水艦である本艦はドイツ製潜水艦としては2世代目となる『アザーライト式推進機関』を搭載した潜水艦であり、かつて世界中の潜水艦に搭載されていたディーゼル機関や燃料電池機関とは一線を画す性能を持っている。


この機関はアザーライト系燃料の消費されると消失するという特異な性質を活かして発電の過程で生じる排気ガスを無くし、更に発電に酸素等の空気を必要としない新時代の機関となっている。これにより発電に浮上を必要としない上に艦内での爆発事故が限りなく起き辛くなるという潜水艦の設計側から見れば夢のような機関であった。


そんな『251型潜水艦』には同型艦が12隻存在しており、ドイツ社会主義共和国と変わってからも製造が続いている。現時点では6隻の同型艦が建造されているとの事だが、今この場にいるのは革命以前から存在する艦であった。


革命派海軍の乗組員達はこの艦に乗り込み、本国からの指示を受けてエリア021の海域を目指していた。潜航しつつフォートレスの軍港へと接近し、停泊する戦団の主力艦を撃沈するというのが、彼等の任務であった。


僚艦3隻を含めた計4隻で構成された潜水艦隊で敵の主力艦を奇襲するという、敵方からすれば厄介極まりない任務ではあるのだが、その分彼等の負担も大きいものであり、この任務を終えて無事に帰還できるという保証はどこにも無かった。


彼等に課せられた運命は2つ。


任務を成功させるか、あえなく撃沈され死ぬかの2つのみである。


「艦長、フォートレスの軍港までもう間もなくです。」


「……よし、総員気を引き締めろ。必ず、奴らの主力艦を撃沈するのだ。」


『251型潜水艦』のネームシップ『251-001』に搭乗する乗組員達が一気に空気を張り詰めさせ、目前に迫る敵の主力艦に狙いを定める。目の前に停泊しているのは戦団主力艦隊の総旗艦である『トパーズ・ミネラル』であり、これを撃沈する事ができれば戦団に大打撃を与えられる事間違い無しであった。


「各艦に通達、魚雷発射用意。目標、敵総旗艦『トパーズ・ミネラル』。」


「魚雷発射管、1番から6番まで発射準備完了……艦長、何時でもいけます。」


「よし……全艦、魚雷発射!」


『251型潜水艦』の魚雷発射管より計6発、僚艦を含めると計24発の魚雷が放たれ、停泊する空母『トパーズ・ミネラル』へと襲い掛かる。



──祖国を盲信する、彼等の意志をその身に抱いて。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


その頃、フォートレスから少し離れた軍港にて。


空母『トパーズ・ミネラル』の乗組員達は飛行甲板の大掃除に勤しんでいた。訓練を終え、海水や飛行機のエンジンノズルから噴き出た炎が汚した甲板をデッキブラシと真水で綺麗に掃除し、次に艦載機たちが発艦する際に安心して飛び立てるように念入りに清掃していく。


普段は専属の清掃員が停泊の度に清掃をしていたが、偶には自分達もという事で乗組員達がこぞって清掃を買って出ていた。


いつも自分達を乗せ戦場を渡り歩く艦に感謝を込めて、念入りに、念入りに掃除を進めて行く。掃除には『トパーズ・ミネラル』の提督であり戦団海軍の長官であるアンデルセン艦長や艦長のエリックも参加しており、ちょっとした一大イベントと化していた。


「よぉし、ブラシ掛けは終わりだ!次は一気に真水流すぞぉ!!水撒き班、放水準備だ!」


「了解です長官!!」


「ふぅ、腰にくる作業だな…。」


「なんだエリック、年寄りみてぇな事言いやがってよぉ。ちぃと鍛え方が足りねぇんじゃねぇのか?」


腰を叩きながら近づいてきたエリック艦長にアンデルセンは挑発気味に返事を帰す。どちらも若い方ではあるのだが、アンデルセンが鍛え過ぎなだけなのでエリックの反応が普通だと言う事をアンデルセンは知らない。


「ふん……お前と一緒にするな筋肉馬鹿め…。なんでそんな元気なんだよお前は…。」


「鍛え方が違うからな!!!」


ガッハッハッと大声で笑うアンデルセン。エリック艦長が呆れたように溜息を付く中、甲板への放水準備が整ったようだった。


「長官!放水準備完了しました!」


「よぉーし、水撒き開始──」


アンデルセンが指示を出そうとする、まさにその瞬間であった。




──バゴォォォォォォォォォォォォォン!!!!




「──何だ!?」


とてつもない轟音と共に『トパーズ・ミネラル』の船体がグラリと揺れる。海水が高く吹き上がり、せっかく清掃した甲板を海水で濡らしてしまう。いや、そんな事はどうでもいい……今見るべきは本艦の状態であった。


『──艦橋より各員へ通達!本艦左舷後方にて原因不明の爆発が発生!左舷部にて浸水発生中!付近の乗組員はダメコンを開始せよ!繰り返す──』


鳴り響く警報と共にアナウンスが入り、艦に大穴が空いている事を理解する。このレベルの爆発は……十中八九魚雷だな。


「エリック!艦橋で指揮を取れ!俺はダメコンに向かう!」


「了解した……この感じはアレだな?」


「あぁ、十中八九アレだ!……よし、あとは任せた!」


エリックと別れ、タラップを降りて爆発箇所へと猛ダッシュする。現場では既にダメコン作業が始まっていたものの、怪我人が多い事もあってか作業は難航しているようであった。


「お前等よく聞け!手の空いてる奴は怪我人を避難させろ!ダメコンは俺に任せとけ!手が空いてる奴がいれば手伝え!!」


「「「「「「「りょ、了解!!!!」」」」」」」


壁に掛けてあったダメコン用の展開式補修鋼板を手に取り、流れ込んでくる猛烈な水流を意に介さず突き進む。普通であればこのレベルの水流は身動きが取れなくなるのだが、そこは鍛え抜かれた筋肉でゴリ押してしまえるのがアンデルセンの馬鹿力であった。


「どっせぇぇぇぇぇぇぇいっ!!!!」


補修鋼板を水流の中にぶち込み、レバーを引いて折り畳まれていた鋼板を一気に展開する。大穴用に製造された特注品であり、こんな浸水が起こる訳が無いと言われ続けていたダメコン用品が、遂に陽の目を見る事となった。


展開された鋼板が穴の直径以上に広がり、流れ込む水流が鋼板を船体へと押し付ける事で密着する。レバーの根本にあるボタンを押して鋼板を完全固定し、一瞬にしてダメコンを完了させる事に成功する。このダメコン用品が凄いのは勿論なのだが、それ以上にアンデルセンの筋力がおかしいという事に、この場にいる全員が納得していた。


止まった水流に歓声があがり、乗組員達がアンデルセンを褒めたたえる。そんな盛り上がる乗組員とは裏腹に、アンデルセンは冷静であった。


「ふぃ〜、なんとかなったぜ。お前等!盛り上がんのは良いけどよ、今は緊急事態だ!俺を褒めんのは後にするんだな!!ほら、配置につけ!!!」


「「「「「「「はっ!!!!!」」」」」」」


バタバタと走り去る乗組員達を見送りつつ、アンデルセンは艦橋へと駆け上がる……今は一刻も早く状況を知る必要があるからだ。


「エリック、何か分かったか?」


「む、アンデルセンか。あぁ…予想通り、敵の襲撃だったよ。」


エリックの話によると爆発の直後、軍港から少し離れた海中にレーダーが反応を示したらしく、識別情報から襲撃したのがドイツ革命派の潜水艦であると分かったそうだ。こうも簡単に識別できるのは便利なものだが、可能なら被害が出る前にして欲しいものである。


「被害状況は上がっているか?」


「幸いにも死者はおらん。だが乗組員の多くが怪我をし、船体には大穴……オマケに左舷スクリューが破損しているとの事だ…。」


「まじかよ……ひとまず、怪我人の搬送を最優先させろ。敵潜水艦の位置はわかっているか?」


「……既に消息を絶っている。急な事もあり、エリア022方面に向かった事だけしか分からん。」


「そうか……奴等を潰す理由がまた一つ増えたな。」


潜水艦による軍港への奇襲攻撃……卑劣な野郎共め、船乗りとしての誇りを捨てやがったか。


まぁいい……奴等はどうせ捻り潰す。その時間が少し早まっただけだ。


「戦団長に通達を入れろ。『トパーズ・ミネラル』が間に合うかは分からんが……奴等にはケジメをつけさせる。」


「了解した……忙しくなりそうだ。」




船体の状況が表示されたモニターを見つめつつ、静かに闘志を燃やすアンデルセン。







───クソ野郎には、暗い海底が似合いだ…。





お読み頂き、ありがとうございますm(_ _)m

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