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朧火の意志  作者: 布都御魂
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死せる者達に安寧を


迎撃作戦を終えた翌日。フォートレスの共同墓地にて、戦死した戦団陸軍戦車中隊の葬儀が行われた。


迎撃に出ていたのは第4、第5、第10、第11戦車中隊で、その内生還したのは第4戦車中隊のドルトン軍曹が乗る戦車1両と、第5戦車中隊の戦車2両、第11戦車中隊の戦車2両であった。


第10戦車中隊に関しては所属する全員が戦死しており、ドルトン軍曹の話によると「仲間を護る為に最も前に出ていた中隊だった」との事だった。


俺を含むスヴェルチームのメンバーを始め、陸軍の兵士達や各軍部の長官も葬儀に参列し、若くして散っていった彼等を悼む。俺も何度か演習で関わった事があるが、戦死していった奴はどいつもコイツも良い奴らばかりだった。決して生きている奴らが悪い奴という訳じゃなく、ただ純粋に良い奴らだったのだ。


「諸君らの奮戦によってフォートレスは護られ、今この時を生きている。その献身的な働きと大切なものを護ろうとするその強い意志に、我々は敬意と感謝の意を表する。既に侵略者達は諸君らの戦友によって討ち取られた……だからもう、苦しまなくて良い。」


一呼吸置いて、再び言葉を紡ぐヘンリク。握り締められた左手は───血に濡れていた。


「現時刻を以て諸君らの全ての任を解き、誇りある兵士である諸君らを見送ろう…………今まで、本当にありがとう…。」


「──弔銃構え!…………撃てー!!」


陸軍の兵士達が空砲の装填された『スプリングフィールドM1903』を構え、空に向かって一斉に引き金を引いた。雲に包まれた灰色の空に空砲が鳴り響き、全員が示し合わせたかの様に顔を上げ天を仰ぐ。



今を生きる俺達にできるのは、こうして思いを馳せる事だけなのだ。



死んでいった彼等が、少しでも安らかに眠れるように。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


その夜、フォートレス商業区の酒場にて。


普段と比べて人の少ないこじんまりとした酒場のカウンターにて、普段それほど飲まない酒を飲む二人の男達がいた。


片や戦団"フォートレス"の創立者であり戦団長として組織のトップとして皆を率いるヘンリク、片や戦団陸軍の長官にして最前線で部下達を率いて戦うハインケル。どちらも普段酒を嗜む程度にしか飲まないのだが、今夜ばかりは酒を飲まずにはいられなかった。


「アイツ等はよぉ……厳しい訓練にも諦めずについて来られる優先な奴らだったんだよ……次の休みにゃ中隊の全員でBBQするんだとか息巻いてやがったのに……くそっ……。」


「…………。」


涙を流して部下の死を悔やむハインケルの言葉を、ヘンリクは只々横で聞き続ける。下手な言葉を掛けるのではなく、苦痛の捌け口となれるように。


「何故……何故………!アイツ等が死なねばならん!」


「……………。」


「いや……戦場で人が死ぬのは当然だ…。お互いが

死ぬ気で殺し合いをするのだから……だが、それでも……仲間が死んでいくというのは、何時までたっても慣れんのよ………。」


「………そうだな。」


戦争は国同士・思想同士のぶつかり合いであり、お互いがお互いの理想の為に殺し合う。どちらかの兵士が死に、どちらかの兵士が生きながらえる……いや、下手すればどちらも死ぬ羽目になる事なんざ、戦場では当然のように起こり得る。


遥か昔、剣や弓で戦っていた時代とは違い、今は殺す事に最適化された銃や砲がごまんとある。効率的かつ迅速に敵を殺傷し、その銃弾を防ぐ為の防具が開発された。しかし今もなお開発や改修は続いているにも関わらず、兵士が死ななくなるという事は起こり得ない。


何故ならば、戦場に人間が出ているからだ。戦場にいるから、戦場で死ぬ。遠距離から銃弾に穿たれ、戦ったという実感も無しにいとも簡単に死んでいく。それが現代の戦場であり、人間が重ね続けている罪深き業なのである。


では無人兵器や樹脂人形で戦争しようとした時、それは人としての時代が終わる時であると、私は考えている。人同士の戦争を、人同士が解決できない世界など……戦争をチェスの様に始める未来が目に見えている。


戦争で人が死ぬという避けるべき事が、皮肉にも戦争を引き起こさない為の最終防衛ラインとなるのだ。


「………ヘンリク……戦争はクソだ。戦場にしか居場所の無い戦馬鹿な俺でさえ、戦争はクソだと思ってる。」


「私もだとも……こんな戦いは、早急に終結させねばならない。」


「そうだ……終らせるべきだ。だがな…だがな……戦争っつーのは、世の中っつーのは……そう簡単にできちゃいねぇんだ……。」


「……………。」


「こっから先、嫌という程死者が出るのは間違いない……それが戦争で、それが戦う者の末路だ。」


血が出るほどに握り締められた拳を机に置き、ヘンリクに向き直るハインケル。


───その目には、戦場で死ぬ覚悟を決めた、狂気にも似た強い意志が宿っていた。


「……俺は戦場に魂を捧げる。この安い命で、一人でも多くの戦友を無事に帰す為に生きる……これがマトモな生き方を知らねぇ俺が、死んでいったアイツ等にしてやれる唯一の償いだ。」


「…………。」


「だからよ……お前は…死ぬなよ。戦場で死ぬのは、殺し合う事しか知らねぇ俺だけで十分──「馬鹿者!」──ぐあっ!?」


ハインケルが言い終わるその直前、ヘンリクの拳がハインケルの頬を激しく殴り付ける。唐突に殴られたハインケルは酒場の壁に叩き付けられ、背中に走る鈍い痛みにうめき声を漏らす。


「──っ、何しやがる!?」


「馬鹿に灸をすえただけだ。」


胸の前に殴った拳を掲げたまま、ヘンリクがハインケルに歩み寄る……その拳は、血に濡れていた。


「戦場で死ぬのは自分だけだと?甘ったれるのも大概にしろ。」


ハインケルの胸倉を掴み、真っ直ぐにハインケルの目を見て叱るヘンリク。その目には怒りが宿っていたが……その怒りは敵に向けるような冷たい怒りでは無かった。


「大切な誰かを死なせない為に戦う……それは良い。私とて同じ理想を掲げているし、これからもその理想を目指し続けるとも。だがな……だがな!!!」




「その理想には、お前も含まれているんだぞ()()()()()()()()()()()!!!」





「っ…!」


「理想わ掲げるのは良い、友を仲間を護ろうとするのは良い!だがな、その生還を祝うべきお前が死んでしまっては、残された者達が喜べぬだろうが!!」


「……それは。」


「貴様が掲げていた理想はなんだ!戦場に降り立ち、部下達の前で告げた在り方はなんだ!()()()()()()()()事こそが、お前の掲げた理想では無かったのか!!!!!」


普段感情を荒ぶらせる事のないヘンリクが、今自身の発した言葉とその在り方にここ迄怒りを示している。目に映るその事実が、ハインケルを()()()()()へと軌道修正していく。


「……友を頼る事を教えながら、友を頼る事が下手な我が友よ───今が、頼るべき時ではないかね?」


今度は怒りでは無く、友としての信頼をその目に宿したヘンリクが、ハインケルへと手を差し伸べる。


「………そう、だな……そうだよな……俺が死んでちゃ、皆を護る事すら出来ねぇじゃねぇか……。」


口から垂れた血を拭い、ヘンリクの手を取って立ち上がるハインケル。その目からは、既に狂気は取り払われていた。


「そうだとも。お前が護ると言うのなら、まずはお前が生き延びろ……その為の力が足らないのなら、私を頼れ。それが、友と言うものだろう?」


「けっ、そうだな………あんがとよ。」


固い握手を交わすヘンリクとハインケル。もう既に二人の間には、剣呑な雰囲気は消え去っていた。


「それと……殴ってしまい悪かった…。」


「はっ、お陰で目ぇ覚めてんだ。謝る必要なんてねぇよ……むしろ俺の方こそ悪かった。」


「マスターもすまなかった……迷惑を掛けてしまい申し訳ない。」


「良いのですよ……酒場なぞ喧嘩は日常茶飯事、それでスッキリするのであれば良いのです。時には、ガス抜きも必要でしょうから。」


カウンターでグラスを拭きながら答える初老のマスターは、さも気にしていないかの様にそう告げる。きっと様々な客を見てきたのだろう…。


「……感謝する。」


「いえいえ……さて、何か飲まれますかな?」


「そうだな……何かオススメはあるだろうか?」


「では最近手に入れた新しいウイスキーを開けましょう……アメリカの新醸造所が造った新作だそうですよ。」


「へぇ、そりゃ気になるな……マスター、俺も同じのを頼む。」





夜の静かな商業区、その外れにある酒場にて。



先程とは違う明るい声が、酒と共に盛り上がっていく。




──友として、思い出話に花を咲かせながら。





お読み頂き、ありがとうございますm(_ _)m

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