爆炎と砲声の鎮魂歌
戦団陸軍に所属する兵器群が、怨敵の首を取るために地面を踏みしめ前進する。アナライザー用にサイズアップされたライフル弾よりも遥かに大口径の戦車砲弾が黒塗りのアナライザー達の装甲を容赦なく喰い破り、操縦するパイロットを木っ端微塵に粉砕する。
侵攻してきた革命派が新型機を投入してきた為に、戦団陸軍では人間の兵士96名、樹脂人形の兵士が87名と多数の死者を出してしまった。この戦いはその兵士達の無念を雪ぐ為のものであり、今この戦場に立つ陸軍の兵士達の士気は非常に高いものであった。
最新型の戦車や改修され現代戦でも引けを取らぬ性能となった戦車を運用し、普段通りの迎撃戦であれば難無く迎撃できていた筈の任務……そこに新型機というイレギュラーが発生した為に生じた犠牲者達を、戦場の爆炎が奏でる音色で弔う為に。
「次弾装填完了!何時でもいけます!!」
「照準ヨシ!Fire!!!」
フルサイズの7.92✕57mmモーゼル<B>弾を防いだくらいで、戦車の放つ125mm滑空砲の砲撃は止められない。アナライザー用ライフルの銃弾よりも遥かに大口径の徹甲弾が装甲を穿ち、内部に収められていた重要な配線や排気用の配管を纏めて吹き飛ばす。もぎ取られた箇所からはスパークが飛び散り、機体の動きが目に見えて鈍くなったのが確認できる。
動作の伝達が遮断されたらしき敵のアナライザーを見つめつつ、ハインケルは思考を巡らせる。このまま戦車砲をぶち込み続けるという手もあるが、敵兵も砲撃を受け続ける状況を維持する程馬鹿じゃない。必ずどこかで反撃に転じ、こちらの部隊に被害を生み出すのが目に見えている。
脳内で素早く作戦を練り、マイクをオンにして部下達に指示を出す。
「ハインケルより砲兵隊、榴弾砲による支援砲撃を要請する。座標は送信したデータ通り、敵部隊の後部戦力を遠距離から破壊せよ。」
『こちら砲兵隊、了解。これより支援砲撃を開始します。着弾地点に味方の戦力は突出していないようですが、砲撃完了まで前に出過ぎないようお願いします。』
「よぉし分かった……聞いたか野郎共!前に出過ぎんじゃねぇぞ!味方の砲撃にふっ飛ばされたく無けりゃその場で敵兵をぶっ飛ばしてろ!!」
『こちら砲兵隊、支援砲撃を開始しました。着弾までおよそ30秒です。』
後方で爆音が鳴り響き、放物線を描きながら榴弾が戦車群の遥か上空を通過する。戦車に搭載された滑空砲とは違い、面で敵を制圧する歴史ある兵器から放たれた榴弾が今、革命派のアナライザーが蠢く部隊後方へと降り注ぐ。
『……5…4…3…2…1……弾着、今!』
カウントダウンと共に飛来した榴弾が大地へと降り立ち、着弾と同時に猛烈な爆炎を撒き散らしながら爆発する。轟音と共に吹き荒れる爆炎が着弾地点周辺のアナライザーを焼き尽くし、分厚い装甲に包まれたパイロットを熱と炎の暴力によって殺し尽くす。吹き荒れる爆炎によって生じた熱がガトリング砲の砲身を歪ませ、更にはその持ち主を文字通り木っ端微塵に粉砕するという、敵からすれば正に地獄絵図であった。
「ハインケルより砲兵隊!支援砲撃の効果甚大!支援感謝する……よくやった。」
『……友の仇でありますので。』
「………そうか。ならば友に聞こえるように砲声を轟かせんとな…。」
一瞬だけ目を伏せ、再び目を見開き敵を睨みつける。死んでいった仲間を偲ぶのは良いが、それは今すべき事ではない……今すべきなのは忌々しいあの黒塗りのアナライザー共を抹殺する事。故人を偲ぶのはそれからで良い…。
「アナライザー小隊各位、側面から切り崩せ!敵に連携させる余裕を与えるな!!戦車中隊各位!弾薬は撃ち尽くして構わん、砲身がイカれるまでクソ野郎共に砲弾を叩き込んでやれ!!」
陸軍に所属するアナライザー小隊が機関銃やアサルトライフルを持って西部方面より突撃し、戦車中隊に注力していた敵のアナライザー達を側面から切り崩す。後手に回った革命派のアナライザー達が側面からきた戦力を撃滅しようとアナライザー小隊に意識を向けるも、その隙を突くように戦車中隊が砲撃を叩き込む。
戦場で多方面からの同時攻撃は戦力分散のリスクが生じるものの、それを補えるだけの物量と技量があれば纏まった敵にはこれ以上ない程に有利な戦術となる。何せ対応しなければならない方向が増える分、各方向に割く戦力と思考リソースが分散されるからだ。戦力を分ければ分けるほど各個撃破され、思考リソースを割く事が出来なくなる程に適切な対応が取り難くなるからだ。
それに加え、今は東部方面より戦団の最強戦力であるスヴェルチームが側面から敵戦力を削り取っている。さぞ敵の現場指揮官はどの方面を優先すべきか頭を悩ませている事だろう。敵ながら同情すべき状況ではあるもののコイツ等は仲間を殺しやがったクソ野郎共だ……むしろ存分に苦しんで貰いたい…いや、苦しめ。
──お前達の断末魔が、死んでいった仲間達への鎮魂歌となるのだから。
「長官!敵部隊が撤退を開始しました!」
「撤退だぁ…?今更逃げるたぁ随分舐めた真似してくれるじゃねぇか。だったら前進して──」
このまま前進し、撤退する敵部隊を追撃させる指示を出そうとする直前に言い留まるハインケル。逃げる敵を追い詰める絶好のチャンスではあるのだが、どうにも嫌な予感が脳裏を過ぎる……手法を変えるか。
『長官…?どうされたのです?』
「どうも嫌な予感がする……戦車中隊停止!アナライザー小隊は対空戦闘用意!」
『た、対空戦闘ですか?長官には何が見えているのです…?』
「何も見えちゃいねぇよ……ただこのまま前進するのだけはマズいっつー感覚だけが脳裏から消えねぇ。奴ら、爆撃機でも要請してんじゃねぇか?」
一足先に迎撃に出たスヴェルチームの面々も爆撃機による空爆を受けたと聞く……奇しくも似たような状況である以上、警戒しておくに越したこたぁねぇ…。
「長官!索敵に飛ばしていた偵察ドローンが、遥か上空を飛行する爆撃機らしき影を捉えたとの事です!」
「やっぱそうかよ……ハインケルよりスヴェルチーム!南部方面より爆撃機が接近中、悪いが迎撃に当たっちゃくれねぇか。」
『こちらスヴェル1、了解。これより敵爆撃機の撃滅に当たる……陸軍は追撃を開始せよ、爆撃機の心配はするな。』
「けっ、お見通しってか…。そいじゃ任せた、俺達は突っ込む。」
上空の爆撃機はヘンリク達に任せ、戦車中隊に進撃命令を出す。上空からの脅威を心配する必要性が無くなった以上、追撃して1機残らず殲滅してやる。
もしヘンリク達がヘマしたらなんざ考えねぇ……アイツは仕事だけはキッチリ熟す野郎だからな。まぁヘマしやがったらアイツに徹甲弾叩き込むだけなんだが。
「戦車中隊、ミサイルを使用しろ!この距離ならミサイルの方が効果的だ!」
戦団陸軍で運用する主力戦車には遠距離における効果的な攻撃手段となる対戦車ミサイルが搭載されている。砲弾よりも命中させやすく、且つ正面からでも装甲の薄い部分を狙う事のできるミサイルを主砲から発射できるように設計されている。戦団製主力戦車の『NT-12』には戦団製対戦車ミサイルの『ANTM-75オウル』が、改修型『T-64』にはロシア製対戦車ミサイルの『9M119レフレークス』が搭載されており、どちらも高い火力を誇る優秀な対戦車ミサイルとなっている。
「ミサイル発射!」
NT-12の主砲から対戦車ミサイルが放たれ、敵アナライザー目掛けて白い煙を放ちながら飛翔する。装甲へと直角に着弾したミサイルが起爆して装甲を破砕し、中にいたパイロットを跡形も無く吹き飛ばす。爆発によって生じた熱が飛び散った血や肉片を焼き、そこに人がいたという痕跡までもを焼き尽くした。
味方がどんどん消し炭になっていく状況に焦ったのか革命派の連中が撤退を急ぐ。そんな彼等を側面から突き崩すのが陸軍のアナライザー小隊であった。
肩部のミサイルや手に持った機関銃を掃射し、逃げ惑うアナライザー達を徹底的に追い詰める。時折反撃してくる敵もいるが、そういった奴は優先的に『SA-36』によって蜂の巣にされていた。
無残な鉄屑へと変わっていったアナライザーを見つつ戦車の砲塔から身を乗り出して指揮を取っていると、一発のガトリング砲の銃弾がハインケルの顔のすぐ横を通り抜ける。
「長官、そこ危ないですよ!中に入って下さい!」
「はっ、奴等の下手くそな銃弾なんぞ当たりはせんよ……むしろ当てられる程度の骨のある奴はおらんのか?」
「はぁ……死なんで下さいよ…?」
「ならば死なせんように敵を消せ……そうすれば俺が死ぬ事はなくなる。」
「無茶言いますねホントっ!」
ハインケルの乗るNT-12の主砲から『ANTM-75オウル』が放たれ、敵アナライザーの方へと飛んでいく。無茶と言いつつちゃっかり敵アナライザーを撃破している当たり、射手であるコイツは良い腕をしている。
『長官!敵アナライザーの数が残り20機を切りました!』
「よぉし聞いたなお前等!敵は残り僅かだ、残さず食らい尽くしてその首を冥土の土産にしてやれ!!」
『『『『『『うぉぉぉぉぉぉぉ!!!!』』』』』』
残り僅かとなった革命派のアナライザー部隊は、その後僅か数分で全滅した。陸軍の憤怒が篭った砲弾が敵アナライザーを木っ端微塵にし、ヘンリク率いるスヴェルチームが上空の爆撃機を撃墜する。
こうして迎撃作戦は終演を迎えたが、勝利を喜ぶ彼等の顔は普段と比べてどこか暗いものであった。
──ほんの数時間前まで共にいた戦友が、その儚い命を散らしてしまっているのだから。
戦場で死者が出るのは当然の事であり、現に敵のアナライザー部隊のパイロットは全員この戦場にて戦死している。これまで死者を出して来なかった戦団の方が異質ではあるのだが……死者が出て当然と受け入れるのもまた、人間として至るべきでない境地な気がして止まないのであった。
「……嫌なモンだな、仲間の死ってのは。」
数々の戦場を渡り歩いてきたハインケルであっても、それは同じなのであった。
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