憤怒の業火
空から降って来たのは、噂でしか聞いたことの無かった黒塗りの竜であった。
エリア022にてドイツ社会主義共和国軍の陸軍に所属するアナライザー部隊である彼等は、上空から飛来したアナライザーを見て戦慄する。それはエリア020戦線において革命派のアナライザー部隊を尽く葬り去った、黒き竜であった。
エリア020のように雪を纏ってはいないものの、その威容は恐ろしき神話の竜にも等しく、左腕に備え付けられたガントレットのような鉤爪が味方のアナライザー達を次々と薙ぎ払っていく。鋭い鉤爪は新型アナライザーの装甲をいとも簡単に引き裂き、強固な装甲に包まれている筈の彼等に尋常でない恐怖感を与えていた。
我が国の最新型アナライザーである『シュヴァルツ』は右腕を自国生産のガトリング砲に置き換え、これまでのアナライザーよりも遥かに厚く強靭な装甲を備えた我が国の誇る傑作アナライザーである。
にも関わらず、そんな最新型の機体をいとも簡単に屠るあの黒塗りの機体が、革命派の兵士達は心底恐ろしかった。同じアナライザーという枠組みである筈なのに、得体のしれ無さを醸し出す黒き竜のような機体に彼等は恐怖心を抱かずにはいられなかったのである。
それでも必死にガトリング砲を撃ち、戦場で暴れ回る竜のような機体を撃破しようと奮戦する。この戦争を革命派の勝利で終らせる為には、この戦場を突破して、忌々しいあの国境線を越える必要があるからだ。
全ては、誇り高き祖国の為に。
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ブースターを瞬間的に噴射し、擬似的な瞬間移動を行いつつ敵機を屠る。竜爪を振り払った先にいた革命派の新型アナライザーに深い爪痕を刻みながら、右手にもった大剣で右正面のアナライザーの脳天をカチ割る。
改修を受けた際にも思ったが、この機体はつくづく近接戦闘向けの機体だ。普段は中距離からAKMやMG42を撃ちまくっているものの、別段射撃に特化した仕様ではない為射撃の精度はただの訓練で培った技術である。
こうして瞬間的な加速を断続的に行いながら敵を切り飛ばす方が、この機体を最大限に活かせる……そんな事を考えつつ大剣を薙ぎ払って正面の敵を一掃する。ひたすらに頑丈かつ傷付いても再生する機能を持った『エターナル』は、そんな近接戦闘で暴れ回るこの機体にはもってこいの得物であった。
大剣を後方の地面に引き摺りつつ、地面から離れる際の力の解放を利用して下段からのカチ上げをお見舞いする。荒野の土を舞い上がらせながら解き放たれた大剣が衝撃波を伴い、3機のアナライザーを物言わぬ鉄屑へと変える。肩口から左脚部にかけてを破断された敵機を踏みしめ、次なる標的を求めてブースターを噴射する。
これだけ暴れ回ったお陰か、敵の注意は完全に俺の方を向いているようだった。まぁ遠くの敵よりも近くにいる敵を優先して排除しようとするのは当然の思考と言えるだろう。だがヘンリク達を放っておくのはいただけないな……減点だ。
案の定ヘイトが切れたヘンリクが両手に剣を持って突撃し、次々と敵を斬り払っていく。俺の機体と違い完全に近接に特化して調整されたヘンリクの機体『アロンダイト』は、遠距離系の攻撃手段に対する補正を落とす代わりに近接戦闘能力を極限まで高めた機体である為、他の機体よりも関節部の動きが滑らかかつ精細である。だからこそああして流れる様な連撃を繰り出す事が可能となるのだ。
俺も負けじと大剣を振り回し、着々と敵の数を減らしていく。ヘンリクの剣が柔の剣だとしたら、俺の剣は剛の剣といえるだろう……やばい、俺も脳筋になっているのかもしれない。
人の事を言えないなと心の中で反省していると、先程までとは敵の動きが違う事に気付く。劣勢と判断して撤退しているのか?いや、何かが違う……まるで一時的にその場を離れるかのような、ほんの少しの焦りが見える動きだ。
敵の変な動きに意識を巡らせていたその時、俺の耳が甲高い音を微かに拾った。その音は徐々に大きくなり、次第に風を纏ったような野太い音も混じり始める。この音どこかで───
『メルトぉ!そっから逃げロォォ!!!』
ジャック?一体何を……オイオイ、まじかよ。
───爆撃機じゃねぇか。
何故すぐに気が付かなかった…!?劣勢になりゃ支援を要請するのは当然の事だろうに…!
すぐさま機体を後ろに下げようとブースターを噴射するも、いつの間にか回りこんでいた敵機が『デュランダル』の腕や腰をガッチリとホールドする。咄嗟の事で姿勢を崩した状態だったのもあり、上手く振りほどく事が出来ない。
まずい、爆撃機が既にすぐ真上に…!
「くそっ、離せ!」
腕を振り回し何とか振り解こうとするも、機体のブースターまで活用してしがみついて来るアナライザーを簡単に振り解くのは至難の技であった。このままだとしがみついている敵機も纏めて爆撃の餌食になる筈なのだが、敵機は一向に俺を離そうとはしなかった。
くそっ、死なば諸共かよ……冗談じゃねぇぞ…!
と、その時、冗談からヒュルルルという嫌な音が聞こえ始める──爆撃機が投下した爆弾だ。
仕方なく『アテナ』を竜爪からパージし、最大展開状態で爆撃を耐え忍ぶ方向にシフトする。逃げられない以上、何とか耐え忍ぶしかない…!
遥か上空から落ちてくる黒い物体が、『アテナ』に着弾すると同時に起爆し、盛大に爆ぜる。
次の瞬間、目の前が真っ白になった。
必死に『アテナ』を保持し、爆発の衝撃を何とか受け止める。過剰な負荷に腕部の過負荷アラートが鳴り響き、地面を抉ってまで耐えている脚部にも同様に過負荷が掛かり続ける。機体が軋み、『アテナ』の装甲が破壊と再生を繰り返す。今はまだタザナイトの残量に余裕がある……ここは耐えきる…!
ひとしきり爆炎が吹き荒れた後、爆炎は収まり盾を保持する左腕への負荷が止まる。
「耐え…きった…!」
機体の異常を報せるアラートも止まり、戦場は一瞬の静寂に包まれる。視界を覆っていた盾を下ろすと、そこには革命派の黒いアナライザーであったものの残骸が至る所に転がっていた。……俺を押さえ込もうと、必死にしがみついたり、妨害しようとしてきた奴らだ。
あの爆撃機、まさか仲間事敵を吹き飛ばすとは……とても正気とは思えない…。
『メルト!大丈夫!?』
通信越しにアンジェが叫ぶ声が聞こえる。そりゃ爆心地にいるんだから心配されるわな…。
「大丈夫だ、問題無い……っ、ヘンリクは!?」
すぐ近くで戦っていたヘンリクはどうなった!?彼の機体には防御系の兵装は搭載されていない…もし爆撃に巻き込まれでもしたら…!
『安心したまえ、私は無事だ。』
ヘンリクからの通信に辺りを見回すと、少し離れた位置にいる白銀の機体があった。どうやら爆心地からは逃れる事ができていたらしい……良かった。
「良かった、無事だったか……。」
『もちろんだとも。……話は後だ、後退した敵が戻って来るぞ。』
急いで大剣を構え直し、敵の再襲来を待ち構える。竜爪もアテナと再接続し、近接戦闘に特化した状態を再び作りだしておく。
案の定、ヘンリクの言った通りに革命派のアナライザー達が再びこちらへと進撃してきていた。先程より数は減っているものの、改めて見るとまだかなりの数が残っている……厄介な奴らだ。
『スヴェル1より各位、敵の規模が想定以上に多い……一度後退して陸軍との合流を───』
『その必要はねぇぜぇぇぇぇぇ!!!!』
ヘンリクの指示をかき消すように、あり得ん程のクソデカボイスで叫ぶ荒々しい大声。この声は……
『戦団陸軍、此処に到着だオラァ!!!』
後ろを振り返るとそこには、話に聞いていた通りハインケル長官の率いる戦団陸軍の全戦力が、そこにいた。主力戦車である『NT-12』や改修型の『T-64』、装甲ミサイル車両の『フラッグ』や『SB-36』等のアナライザーに至るまで、様々な陸上兵器群がずらりと並んでいた。
『スヴェルチーム!よくここまで奴らの戦力を削いでくれた!しかしここからは我々陸軍の戦場とする!死んでいった奴らの……こいつ等に殺された部下達の………弔い合戦だ!!!』
普段よりも数倍以上張り上げられたその声には、強い怒りが滲み出ているようだった。それもその筈、戦団の陸軍は人間の兵士から樹脂人形の兵士に至るまでが仲間であり戦友なのだ……発足以来一度も死者を出していない陸軍にとって、今回の事件はまさに怒りの業火を生み出す火種であった。
『スヴェルチーム、陸軍に出番を譲るぞ。エリア022東部へと進路を変え、側面部より陸軍の支援を行う!』
『『『『『「了解!」』』』』』
ブースターを噴射し、進行方向にいる敵のアナライザーを大剣で切り飛ばす。急接近してくる俺の機体に対しガトリング砲を乱射してくる敵をガトリング砲諸共ぶった斬り、スヴェルチームの皆の進路を斬り開きつつ後続の陸軍の射線上から外れていく。
『アイギスよりスヴェルチーム、あと少しで敵陣から抜けると予想されます…もう一息です!』
『スヴェル7、薙ぎ払え!!』
ヴィンセントの指示を聞き、大剣を力一杯薙ぎ払って真正面の敵を思いっきり薙ぎ払う。強引に薙ぎ払った為か圧し切られるように破断された敵のアナライザー達が宙を舞い、乾いた荒野の大地へと力無く落ちていった。
『スヴェル1よりハインケル!!こちらは退避完了した、思う存分殲滅しろ!!』
『っしゃあ野郎共、行くぞぉぉぉぉぉぉ!!!!!』
そして遂に、陸軍の全戦力を投入した殲滅戦が始まった。
その戦いの背中を押す彼等の気迫には、普段とは違い憤怒の業火が揺らめいていた。
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