要撃機
「モーリスー?おーい、何処にいるー?」
技術部が設置されている兵器工場裏の建物で、声を張りながらモーリスを探す。新型の無人機の試作機が完成したから伝えに来たんだが……どこ行ったんだ?
「モーリスー?…………お、いたいた!」
「んぁ…?おぉメルトか、どうした?」
モーリスは技術部の整備改修部門室にある椅子に座って、何やら資料を纏めている最中であった。
「前にモーリスから頼まれてたヤツの試作機が完成したんだが……今時間あるか?」
「出来たのか!?よっしゃ待っとけ、コイツ保存したらすぐ行くぜ!!」
データの保存を掛け、一度開いてから保存が完了しているかを確認してからウィンドウを閉じるモーリス。念には念を入れるやり方だが、意外とああいう小さな確認がリスクを減らすのに役立つんだよなぁ…。
俺も報告書を全部書ききって保存し、確認しないまま外出したら保存出来てなかったなんて状況に陥った事がある……あの時は本当に焦ったよ、マジで。結局バックアップからデータ回収したけど、その前に保存した部分までしか残って無かったしな……確認は大事。
「いよっし、終わったぜ!」
どうやら確認の大切さを心の中で弁舌している間にモーリスの準備も完了したみたいだ。
「んじゃ、行こうか。」
モーリスと共に隣の航空機製造工場に移動する。工場の一角には開発部用の個室があり、俺はよくそこで新兵器の開発を行っている事が多かったりする。
部屋に入り、PCの置いてある机へと向かう。PCを立ち上げてタブレット端末にデータを転送し、部屋を出て開発した試作機の元へと向かう。
「おぉ、コイツか!」
「あぁ、これが新開発した無人要撃戦闘機の試作機1号『ピトフーイ』だ。」
俺とモーリスの目の前にあるのは、黒と黄色で塗装された細い胴体に特徴的なクリップトデルタ翼が伸び、後端部には2枚の水平尾翼と2枚の垂直尾翼が取り付けられたアメリカの『F-15』戦闘機をよりシンプルな外見にしたような戦闘機だった。
「要望通り『要撃機』として設計してるから、上昇力と速度はかなり出せる様にしてある。詳しくは設計データの入ったその端末を見てくれ。」
「おう、読ませて貰うぜ。」
書いてある事を説明すると、まずこの機体は要撃機という基地からの迎撃に特化した戦闘機となっている。その為機体を上昇させる力と加速させる力が他の機体と比べるとかなり高くなっており、高高度にいる爆撃機等を迅速に迎撃する事が可能となっている。
最大速度は驚異のM2.8であり、時速に換算すると約3457km/hという各国の主力戦闘機も真っ青な恐ろしい速度を叩き出すことができ、機体の上昇力を十全に活かした超スピード迎撃を行う事のできる優秀な機体となっている。これ程の速度を出すことが可能な理由として、『無人機』である事が最大の理由となっている。
簡単に言えば、搭乗している人間がいないので操縦者の負担を度外視する事ができ、搭乗者がいない分速度を出すことが出来るというというシンプルな理由なのだ。
しかしながら速度を出すという事はその分機体にも負荷が掛かる事になり、下手すれば空中分解する羽目になる。そこで登場するのが、異空間で発見された新素材『タザニア』である。タザニアをチタンやアルミ、鋼鉄等の金属と組み合わせた新合金『タザナイト複合合金』を採用する事により、他の機体よりも軽く、それでいて頑丈かつ再生するという最早あり得ないレベルの戦闘機を実現している。
機体に小さく設けたタザナイト板収納区画にあるタザナイトを消費する事で、機体が損耗しても瞬時に修復する事が可能である他、そもそもの機体が頑丈過ぎるのもあり損耗の可能性が低いというトンデモ機体となっている。
機体後部には2基の推力偏向ノズルを搭載しており、円形のノズルが可動する事で機体の操作を容易にしてある為、複雑な操作がまだ難しい無人機であっても容易に機体を操る事のできるように工夫がなされている。
機体下部及び左右側面部には大型のウェポンベイが設けられており、下部には遠距離空対空ミサイルである『AIM-130サーペント』4発、側面部には中距離空対空ミサイルの『AIM-72Fトラッカー』が左右3発ずつ搭載されている。この機体は戦団製の機体である『PWS-37』のように、主翼下部のハードポイントに兵装を搭載する事はできない仕様となっている。その為継戦能力はあまり高くないが、この機体の役目はあくまでも迎撃に出動した有人機が到着するまでの迎撃戦闘であり、迎撃し切れなかった場合には後続の機体とバトンタッチする様にロジックが組まれている。
「……なるほど、こりゃあすげぇな。」
設計データを閲覧し終わったモーリスが感嘆の息をつく。俺も設計しててやべーもん作ったなぁとは思ってたけど、モーリスから見てもやっぱりヤバかったらしい。
「迎撃に必要なモンは一通り揃ってるし、おまけにマッハ2.8ときた……こりゃあトンデモねぇモン生み出しちまったなぁ…。」
「モーリス的にはこの機体性能で十分か…?」
「馬鹿野郎、これ以上にやべぇモン作ってみろ…お前航空機産業で覇権取る気か?」
そんなにか……まぁモーリスが良いと言うのであればそれで良い。
「この試作機、試験飛行はしてみたのか?」
「あぁ、既に何度か試験飛行させてみてるんだが……1つ問題があってな。」
「問題…?」
首を傾げるモーリスに、『ピトフーイ』の問題点を告げる。
「この機体が速すぎるせいで、現行の無人操縦システムじゃ対応できないんだよ。」
「……まじか。」
3回目の試験飛行を行った時の事だ。ピトフーイをフォートレスの滑走路から離陸させ、高高度の爆撃機を迎撃する事を想定しての試験飛行を行った際、高高度域で最高速度であるM2.8に到達したその時──システムがエラーを叩き出したのである。
幸いにも緊急補助システムが即座に緊急事態であると判断し機体を減速させ、安定飛行を維持した状態でメインシステムの復旧を行い事無きを得ているものの、その後の原因究明にてM2.2を超えた段階でシステムが機体速度に対応し切れず、エラーを叩き出したと言う事が判明している。
簡単にいえば、速すぎてシステムが追いつかなかったのだ……戦闘機本体はともかく、まさかシステムの方に問題が生じるとは流石に想定外の事であった。
「解決の為に現行のシステムに手を加えるとなると、現行システムを採用している全ての航空機に影響が出る……現状ひっきりなしに緊急出動してる航空機がいる以上、現行のシステムには手が付けられないんだよ…。」
現在、戦団で運用しているマルチロール機『PWS-37』の無人機仕様『PWS-37-OTM』には、無人航空戦闘システム『アイテール』が採用されている。制空戦闘・対地戦闘・迎撃戦闘に対応可能な万能システムであり、戦団で運用する無人機の殆どがこの『アイテール』によって運用されている。
ピトフーイの試験飛行によってM2.2を越える速度域ではシステムエラーを起こす事が発覚したものの、そもそも現行機でM2.2を超える速度を出す事が無い事から、現状は問題無いと考えている。
とはいえピトフーイを運用するには力不足である為、『アイテール』は採用を見送る予定だ。でないとピトフーイの最大の強みが活かせなくなってしまうからな…。
「手が付けられないとはいえよぉ、コイツはどうすんだ?流石に戦後までは待てねぇぞ?」
「大丈夫だ、そこはちゃんと考えてある。」
俺は端末を操作し、設計中のシステムをモーリスに見せる。
「今急ピッチで、ピトフーイ用の無人航空戦闘システムを組み上げてる……高高度域でM2.2を超える速度で飛行した際に、安定してシステムが動く様に調整するつもりだ。」
このシステムを組み上げているせいでここ2日目程まともに宿舎に帰れておらず、いい加減リフレッシュを挟んだ方が良いと判断してモーリスの元へと来たのである。要は休憩ついでに報告しに来たと言う事だ。
「通りで顔色悪ぃなぁと思ってたんだよ……無理しすぎんなよ?」
「ちゃんと2時間おきに休憩は入れてるし、睡眠はきっちり取ってるから大丈夫だ……とはいえ疲れるけどな。」
「……デバッグくらいは俺に回せ。そのくらいなら俺も手伝ってやれるからよ…。」
「……助かる。」
正直一番キツイのがデバッグ作業なので、そこを肩代わりしてくれるのは非常に助かる。二人でやれば作業効率も高くなる筈だ。
「ちなみにこのシステムの名前は何にするんだ?現行システムは『アイテール』だったが…。」
「一応、同じギリシャ神話から取って『ボレアース』にしようと思ってる。風を司る神だし、馬鹿みたいに速いピトフーイを制御するのには丁度いいと思ってな。」
「へっ、良いネーミングじゃねぇか……頑張れよ。」
その後モーリスと別れ、俺は再び開発部門の個室に篭もることになった。必死にシステムを組み上げ、モーリスと共に地獄のデバッグ作業を完遂する事によって、遂に新型無人航空戦闘システム『ボレアース』は完成を迎えた。
完成した瞬間に、俺とモーリスは泥のように眠りについた………流石に疲労困憊である。
保存…?もちろんしたさ……ちゃんと確認もな。
この作業が無駄になるのだけは……笑えねぇ…。
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