夜闇の狩人
今回は空挺降下や工作任務を主とする為、銃等の装備は可能な限り少なくしていこうと思う。
持っていくのはいつものAK-15と改造マカロフ、そしてコンバットナイフくらいだが、今回はそれ以外に持っていくものがある。オフホワイトの粘土状爆弾でお馴染みの『C4爆弾』である。粘土のように隙間に詰めたり、固形状態でそのまま貼り付けて爆発させたりと、何かと便利なプラスチック爆弾だ。
起爆させるには起爆装置を必要とするが、輸送車に積み込まれたC4には既に起爆装置が取り付けられていた。これを敵の倉庫や格納庫で爆発させ、革命派の兵站や兵器群にダメージを与える事ができる。
高火力な爆弾の割に重量はそこ迄な為、鞄に多めに詰め込んでいく。2つめのメインウェポンが無い分積載量に余裕がある為、作戦遂行に支障のない程度にC4をどんどん詰め込んでいった。
こういった爆破や破壊工作は本来工作兵がやるものだが、残念ながら戦団には工作兵という兵科がまだ存在していない。陸軍の他兵科が兼任したり、特殊部隊が担当する事が殆どなのだ。俺も当然の如くモーリスから爆発物の取り扱いは教わっている為、戦場でも工作兵の真似事は可能だ。
鞄を背負い、持っていく銃やボディアーマー等を確認してから偵察ヘリの待つ防壁近くのヘリポートへと駆け足で移動する。
今回はいつもよりも早く準備が終わった為か、まだ他のメンバーは揃っていなかった。
少ししてからヴィンセント達が到着し、その後に続く形で空軍の空挺部隊も姿を表す。彼等が今回の作戦における友軍となる……頼りにさせてもらうとしよう。
「お待たせしました、戦団空軍第一空挺部隊所属、遠征軍空挺部隊の隊長の"ノーマン・オライオ"少佐と申します。この度はどうぞ、よろしくお願いいたします。」
「戦団特殊部隊所属、遠征軍特殊部隊の隊長ヴィンセント・ランドルフ大将だ。こちらこそ、よろしく頼む。」
大将、という階級にノーマン少佐はギョッとしていたが、ヴィンセントが「階級は気にしないでいい。」とすかさずフォローを入れた為かすぐに平静を取り戻していた。
まぁ普通大将クラスの人間は前線に出ない。というか少将以上の将官は後方で指揮を取る事が殆どであり、ヘンリクやヴィンセント、各軍部の長官の様に最前線で戦う将官の方が稀なのだ。ヘンリクに至っては元帥であり、戦団の団長であるにも関わず前線に出ているが、最早いつもの事なので誰も文句を言わない。
苦言を呈すのは参謀本部の連中だけである。そりゃ団のトップが出撃して最前線に立ち続けるなんざ気が気じゃないだろう……彼等もそれを分かっている上で釘を刺すのだ。頼むから死んでくれるなよ、と。
とまぁそんな訳で組織のトップが出撃しまくる異質な軍隊、それが戦団"フォートレス"だ。普通ではあり得ない階級の人間が動いているからこそ、部下達はついてくる。共に命を掛け、戦場を駆ける上官がいるからこそ、団全体の士気は高い状態を維持しているのだ。
「敵陣への降下後、私達は兵站施設を襲撃します。特殊部隊の皆様には、革命派の兵器格納庫をお願いしたい。」
「了解した、そのように動こう。特殊部隊、出るぞ。」
「「「了解。」」」
ステルスヘリの『HH-7』の兵員室に乗り込む。いつも乗る輸送ヘリよりは狭いものの、従来のステルスヘリに比べると兵員室はかなり広く取られている。シートを柔らかい為、快適な空の旅となりそうだ……行き先が敵陣である事を除けば。
少ししてヘリのロータが静かに回転し始め、浮遊感と共に機体が浮かび上がる。地上付近では音が聞こえるとはいえ、他のヘリと比べても明らかに静かな『HH-7』は、一定高度まで上昇してから北方向へと移動を開始する。
『HH-7』は一定高度に達すると地上から音が知覚できなくなり、また視認をし辛くなるという敵からすれば厄介すぎる性能を持つステルスヘリであり、今回のような浸透作戦や潜入任務にはうってつけの移動手段となる。
武装が機関砲しかないのは欠点だが、そもそも発見されないという利点がその欠点をある程度打ち消している為、然程問題になっていないのが現状だ。
これを開発した技術部は、やっぱりおかしいと思う。新兵器の開発において、戦団技術部は他国の追従を許さない程の技術力を持っている。どう考えても戦団の規模で収まっていい技術力ではないが、自分もその内の一人になってしまっているのを思い出した為考えるのをやめた。
『作戦領域到達まで、残り20分程となります。それまでどうぞ、ゆっくりと空の旅をお楽しみ下さい。』
機内のスピーカーから、このヘリのパイロットのアナウンスが聞こえてくる。敵陣までの空の旅というなんとも物騒な旅ではあるが、精々満喫していくとしよう。
窓から外を見下ろすと、大地は一面の銀世界であった。白く積もった雪が光を反射してキラキラと輝いており、付近にそびえ立つ針葉樹も同様に降り積もった雪を反射させていた。
この光景だけ見れば、只の雪景色の綺麗な雪原地帯なのだが、残念ながらここは戦場でありドイツ革命派の保有する敵地である。その事実がこの素晴らしい景色を汚しているようにも感じられてしまう。
こんな戦争さっさと終わらせて、皆で雪合戦でもしたいものである。平和で和気藹々とした雪による戦いの方が、血で血を洗う戦争よりも何億倍もマシである。
とはいえ、だ。
恐らく、今回の戦争はかなり長いものとなるだろう。既に多くの国を巻き込んだ戦争になりつつあるし、アメリカ側と対立する国が数カ国ある状態は、非常に宜しくないと言える。
今はまだアメリカ対ドイツ及びフランスの戦争という程度で、そこを支援する国があるくらいのものだが、いずれは各国が戦争を始め、世界規模での戦争が始まる恐れがある…。
……俗に言う、第三次世界大戦の勃発だ。
なんとかして回避したいところではあるが、恐らく不可能であると、俺は思う。
思想を掲げて戦争を引き起こす国は、想像以上にしぶとい事が多いのだ。平等という聞こえの良い言葉に踊らされた国は、それこそが本当の平和へと道と錯覚し、そして盲信して突き進んでいく。社会主義国家であったソ連の二の舞いになる事を何一つ理解していない、同じ愚行を繰り返す最悪のループを彼等は引き起こそうとしている。
別の考え方を持つ人の言葉なんか聞きやしやい、まるでブレーキ無しのジェットコースターのようなものなのだ。だからこそ面倒であり、だからこそ戦争が長引く。
更に面倒な事に、彼等は表向き戦争反対を掲げる事が多い。戦争すべきではないと豪語しながら、その戦争の火種となるような発言・行動を平然とするのが、彼等共産主義者の特性なのだ。思想に関しては人それぞれなのであまり文句は言いたく無いのだが、それを踏まえた上でも言いたくなる程、何がしたいのか分からない思想家達である。
こんな戦争なんかなければ、バッサリと縁を切っておくべきNo.1な奴等なのだ。
そんな事を考えているうちに、窓から射し込んで来ていた夕陽が消え、代わりに闇に染まった夜が顔を出し始める。そう、今回の作戦決行は夜であり、これまでのように真っ昼間から敵陣に投下されるなんて事はない。
普通は今回のように夜の浸透作戦主とされるのだが、何故か戦団の、それも特殊部隊の浸透作戦は昼が多い。あえてリスクを犯しに行くその考えはよく分からないが、まぁ何かしらの考えあっての事だろう。どちらにせよ、俺はその指示に従うだけなのだ……昼だろうと夜だろうと、作戦遂行には関係ない。
完全に日が落ち、夜の闇にとっぷりと浸かった夜空を、黒く塗装されたステルスヘリが飛行する。この機体の塗装も夜間の潜入に運用する事を想定されている為のものなのだが、出番は基本昼間であった。
『間もなく、作戦領域上空です。兵員室の皆様はご準備をお願いします。』
「……そういえば、コールサインを伝え忘れていた。」
ヘリのパイロットがアナウンスした直後にそういうヴィンセント。そう言えば聞いてないが、今回は無いもんだと勝手に思ってた。
「私達のコールサインは『ゴースト』。私、ジャック、アンジェ、メルト君の順でコールサインを確定する。覚えておいてくれ。」
「……出る前なんだがなァ。」
「すまん、忘れていた。」
ヴィンセントにしては珍しいミスだが、誰にでもミスはあるので気にする必要はない。そもそもエリア020に来てからコールサインを使用していなかったので、今更無かったからといって問題がある訳ではないのだ。
『ゴーストチーム、兵員室を開放しますので順次降下して下さい……御武運を。』
会話を聞いていたパイロットがきちんとコールサインで呼んでくれていた……即応性のあるパイロットだ。
兵員室のドアがスライドし、眼下に夜の闇と建物や街灯から漏れる灯りが広がる。俺達は今からこの夜闇に紛れて、このエリア020へと降下するのだ。
「ありがとう……総員、装備の最終確認。」
「ゴースト2、問題ナシ。」
「ゴースト3、異常なーし。」
「ゴースト4、オールグリーン。」
「よし……ゴーストチーム、降下開始!」
ヴィンセントを先頭に、ジャック、アンジェ、そして俺と順番に降下して行く。
今回のタクティカルスーツは黒ベースの夜戦仕様であり、こうして夜に空挺降下する際には俺達の姿をより不明瞭なものへと変えてくれる優れものである。
暗く深い夜の闇は、今ばかりは俺達の味方であった。
お読み頂き、ありがとうございますm(_ _)m




