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朧火の意志  作者: 布都御魂
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エリア020攻防戦・ブリーフィング


国境線のエリア021側に設営された作戦司令室テントにて、エリア020遠征軍の各隊長達が勢揃いしての作戦会議が行われていた。


遠征軍特殊部隊の隊長であるヴィンセントに加え、俺やジャック、アンジェもこの会議に参加している……まぁ元の人数が少ないので、4人参加した所でこの広いテントであればスペースに余裕があるのだ。


「ではここまでの会議で決定された作戦内容について纏めさせてもらう。」


会議の進行は遠征軍がエリア020国境線へと移動してきた際に指揮を取っていたマキシモフ大佐だ。上官であるヴィンセント達や他の大佐達を差し置いて現場指揮官に就任してしまっている辺り、中々に苦労人なようである。可哀想なくらい冷や汗をかいているな……頑張れマキシモフ大佐。


「まず遠征軍所属の戦車中隊、歩兵中隊、砲兵隊は引き続き国境線からの敵戦力迎撃に当たってくれ。再び侵攻してくる可能性がある以上、物量による迎撃が可能な戦力は国境線付近に残しておきたい。」


作戦を遂行する上で必要なのは攻めに全振りする事ではない。攻撃に出る戦力と防衛に回る戦力のバランスを見極め、有事の際には攻撃に出た戦力が防衛戦力の元へと急行するまで持ち堪えられる程度の戦力を配備しておく必要があるのだ。


一度は迎撃したとはいえ、先の空挺部隊のように次から次へと敵戦力が侵攻してきている以上、迎撃戦力を多めに確保するマキシモフ大佐の判断は正しい。


「アナライザー小隊は部隊を2つに分け、東部と西部両方から出撃してくれ。アナライザーの総数が少ない以上、地の利を活かして敵戦力を削ぐ必要がある。」


増援は要請しているらしいがエリア022方面でも戦闘が発生しているらしく、迅速な戦力補充は望めないそうだ。とはいえ物資だけはたっぷりとあり、補給輸送も定期的に行われている為、持久戦には持ち込めるようだ。


「迎撃部隊が敵の侵攻を押し留めている間に、空挺部隊及び特殊部隊にはエリア020の奥へと浸透し、革命派の兵站及び兵器の破壊工作を行ってもらう。優先順位は兵站、その次に兵器群だ。手段は問わないが、可能な限り敵戦力へ大きなダメージを与えて欲しい。」


次は破壊工作か……戦団にいると色々な作戦に参加する事になるから勉強になるな。


「特殊部隊には警備隊の偵察ヘリを貸与する。空軍の空挺部隊と協働し、革命派の戦力を削いで頂きたい。」


「失礼、一ついいかね?」


そう言って手を上げたのは、国境線警備隊に所属する小太りな中年の男性だった。強面の顔からはこのオッサンが気難しい性格である事を容易に察知できた。


「な、なんでしょう。」


「優秀な特殊部隊チームや空軍の空挺部隊を少数精鋭で送り込むとの事だったが……」


少しばかりしかめっ面で采配に口を出し始める小太りの男性に、マキシモフ大佐と浸透部隊の空気がヒリつく。……何か文句でも言うつもりなのだろうか。


「安全性は大丈夫なのかね、その作戦は。」


「ええと、防衛には限界まで戦力を割いているつもりですが……」


このオッサン、まさか自分達を守る部隊が少ないとか抜かしやがる気か……?もしそうなら此処で──


「違う、そうじゃない。」


「え?」


()()()()()()()は大丈夫なのかと聞いているのだ。」


え、俺達……?


「彼等を少数で送り込むという事は、裏を返せば彼等を敵陣で孤立させる事になる。彼等が優秀な兵士達であることは承知しているがね、万が一の際に彼等を支援する手立てはあるのかね?」


至極真面目な表情で至極真っ当な事を言うオッサン。


………ごめん、オッサン。外見と声色で判断してしまってたわ……めっちゃ良い人じゃんこの人。


「そ、それは…」


「少数精鋭で浸透させるのはいい。秘密裏に潜入して破壊工作するのにはうってつけだからな。だが彼等とて予想外のアクシデントというのは発生し得るのだ、そこをどうカバーするのかは、しっかりと事前に説明しておくべきではないかね?」


……何この人、めっちゃ良い人じゃん。


「優秀な彼等を信頼して作戦に投入するのは結構だがね、過信し過ぎるのは禁物だ。指揮を取るならば常に最悪を想定しておく必要がある。普段とは違い、戦局を左右する部隊の命運を握っている事を忘れるな。」


「は、はい……肝に銘じます。」


「宜しい……すまないね、私は心配性なのだよ…。君達が命を散らす事にならないよう、気を配らずにはいられないのだよ……厳しい事を言うが、許しておくれ。」


……何この人、めっちゃ(以下略)


「気休め程度ではあるだろうが……私が個人的に戦団へ発注して格納してある戦闘ヘリがある。無人操縦でスタブウィングにミサイルをどっさり搭載できる代物だ……元は警備隊の追加戦力として投入しようと私財を投じたものだったが……使うなら今の筈だ。」


私財を投じてって事は、このオッサン自費で警備用の兵器を購入したって事か…?


「え、少将!?また自費で購入なさったのですか!?」


「あ、やべ。」


警備隊の一人が声を上げた。少将と呼ばれた男が気まずそうに目を逸らす。


「予算が少ないとはいえ、警備隊の戦力補充に自費を投じるのはお止めくださいと言ってるじゃないですか!いつか破産しますよ!?」


「ええい、仕方ないだろう!雪原の近いエリア020国境線は整備費用がかさむのだ!私個人で購入できる範囲で戦力補充をしておけば、整備に必要な予算を削ってまで戦力を増強する必要が無くなるではないか!」


「それで減るのは少将の私財なんですよ!?下手すれば一生遊んで暮らせる金額なのに何故です!?」


「ふん!金なんぞ生活ができる程度の額で十分だ!アメリカ軍時代に稼ぎ過ぎた金が有り余ってるのだ、私がそれをどう使おうと勝手だろう!」


「なんでそんなご自身の財産には無頓着なんですか!警備隊の設備や戦力の殆どが、少将の自費でしょう!私達では到底返しきれませんよ!?」


え、そんなに費やしてんの?


「使い道の無かった金など、返す必要はない!お前達がこの厳しい土地で健やかに過ごせるのであれば私財なんぞ幾らでも投じてくれるわ!!」


今の一言だけでも、この人の人となりが理解できた気がした。多分この人は、周りの人間が辛そうにしているのが我慢できないタイプだ。周りの苦しみを取り払う事が、結果的に自分の苦しみを取り払う事に繋がると信じている……口調は荒いが、心優しい人なんだな。


「あー、マーカス少将……そんなに予算がカツカツなのかね?」


やり取りを見かねたヴィンセントが会話に割って入る。どうやら戦団としても初耳だったようだ。


「そうだとも。特に兵器の整備にやたらと金が掛かるのだ……可能なら予算をもう少し増やして頂きたい。」


「……分かった、ヘンリクやヴァネッサに掛け合ってみよう。私財を投じてまで国境線を守って頂き、感謝する。」


「ふん、警備隊長として当然の事をしたまでだ……それよりも、気をつけて行けよ。高名なサイレント・サイス殿が率いているとはいえ、アクシデントはつきものだからな。」


少将がヴィンセントの異名を口にした事でテント内が少しだけ湧き上がる。ヴィンセントの異名は戦団内外でも有名な為か、国境線警備隊においてもそと名は轟いているようだった。


「……マーカス、お前覚えとけよ?」


「ふっ、言い返したいならば生きて帰ってくるがいい。この程度で死ぬ奴を、私は戦友にした覚えはないぞ?」


「……相変わらず減らず口を叩く奴だ。」


……この二人戦友だったんかい。どおりで階級が上な筈のヴィンセントに気安く話しかけていると思った。


戦団において、ヴィンセントは大将の階級を持っている。戦団創設時に副団長として就任したのもあって、ヘンリクより少し下の階級に落ち着いたらしい。ヘンリクは設立者である為階級としては元帥であるが、若い上に特殊部隊メンバーからすれば一人の仲間でしかないのであまり上下関係はない。多少気を使うのは普段ヘンリクに出会わない他部署の高官とその部下くらいである。


ちなみにヴァネッサとトリシャは中将、モーリス、ジャックは少将、アンジェは大佐、俺は少佐となっている。俺が少佐なのは戦果を上げまくったかららしいが、一番後輩である俺が既に少佐なのは大丈夫なのだろうか……まぁ誰にも文句は言われてないので良いのだろうが。


「ともかく、支援が必要となればこの無人戦闘ヘリを派遣する……支援がいるなら遠慮なく要請しろ、いいな?」


「あぁ、ありがたく使わせて貰おう。」


「……ゴホン、ではこれにて作戦会議を終了とする。各自、持ち場についてくれ……解散!」


マキシモフ大佐の号令で、作戦会議は終了した。大佐も気が気じゃなかっただろう……自分より遥かに上官であるマーカス少将とそれより更に上官のヴィンセントが会議で発言していたのだから。


……お疲れ、マキシモフ大佐。


ゾロゾロと出ていく高官達につられるように、俺達もテントを後にする。自分達のテントまで戻って、浸透作戦で使用する銃や兵器の準備をする為だ。






アナライザー戦の次は生身での銃撃戦だ……気合い入れて挑むとしよう。







お読み頂き、ありがとうございますm(_ _)m

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