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朧火の意志  作者: 布都御魂
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純白の猛禽


空は自由だ。


阻むものが何一つ無く、どこ迄いっても眼前に広がるのは広大な青空のみである。


こうして『PWS-37』を操縦していると、この空においては自分が随分と小さく感じてしまう。いや、実際小さい事には変わりない……果てしなく広がる空と違い、この機体は精々が20m程度しかないのだから。


操縦桿を握り締め、機体を自分の身体の一部であるかのように操っていく。どれだけ激しい機動を行ったとしても、技術部が設計した耐Gスーツと血流安定装置のお陰で身体には何の負担も掛からない。精々が上下感覚の誤差くらいである。


このスーツの仕組みは、陸軍や特殊部隊が運用しているアナライザーでも取り入れられているらしい……そりゃあれだけブースター噴かせて出撃してれば身体の負担も凄い事になるわよね。


そんな事を考えつつ、白く塗装された『PWS-37』を操る彼女は戦団空軍所属のパイロットであり、戦団一の操縦技術を持つエース・パイロットである"エイヴァ・キャンベル"だ。元はアメリカ空軍のパイロットであり、戦団空軍の長官である"ロバート・キャンベル"大将が戦団に移籍する際に、共に移籍してきた経歴がある。


そんな上司であるロバートは、現在の私の夫である。つい先日結婚式を挙げたばかりで、結婚式はアメリカにある式場で盛大に執り行った。正直私は小規模な式でも十分だったのだけれど、陸・海・空・特の長官に加え、戦団空軍の同僚達も出席してくれるとなっては小規模で行う訳にはいかなかった。随分と豪華な式となってしまったが、結婚祝いといって長官達が費用を全額負担してくれたので問題はない。


ともあれ無事結婚式を挙げて新婚生活がスタートしたばかりだったのだが、私は今こうして大空を戦闘機で飛び回っている。結婚したからといって訓練を怠ってしまえば結果的に死ぬ羽目になるのは自分だ……愛する人を遺して逝かない為にも、操縦の腕だけは落とす訳にはいかない。


ひとしきり空を飛び回っていると、コックピットの中に設置されている時計からアラームがなり始める。訓練終了時間が近づいている合図だ。アラームを止め、機体を滑走路へと進路変更する。"フォートレス"の防壁の外にある滑走路へと戻り、格納庫へと戻す作業員に機体を預けるまでが訓練となる。


「……今日の夕飯は何にしよう。」


帰った後の事を考えながら滑走路へと向かっていると、唐突に無線機から上官の声が聞こえてきた。


『──"イーグル1"!こちらドミニクだ!訓練中に申し訳無いが緊急事態だ!!』


「…こちらイーグル1。ドミニク少佐、どうしたんです?」


『革命派の戦闘機が国境線を通過、"フォートレス"へと向かってきている!済まないが迎撃に当たってくれ!』


革命派の奴らめ、なんで今頃来るのよ…。私もう帰りたいんだけど…。


「少佐、敵戦闘機の数は分かりますか?」


『計5機だと聞いている!無理はするな、急いで増援を──』


「──いえ、増援は結構です。」


ドミニク少佐は空軍で最も慎重派の左官であり、兵士の全員が無事に帰る事が出来るよう、常に忙しく動き回っている。正直過保護に感じる事もあるのだが、彼の過保護さは部下を信用していないのでは無く純粋な心配と仲間意識によるものだ。だから誰も不満を言わないし、こうして指示も喜んで引き受ける。


『空軍の母』という渾名は伊達じゃないのだ……まぁ彼は男性なのだけれど。


「私だけで全機撃墜してきます……出撃想定の訓練でしたのでミサイルはたんまりとありますから。」


『そ、そうか。では、宜しく頼む!くれぐれも、無茶するんじゃないぞ!』


本当に心配症な事だ……いい上官を持ったな。


「了解。」


再び進路を変え、エリア022方面へと向かって戦闘機を加速させる。雲が次々と後ろへと流れていくのを感じながら、領空侵犯してきた敵戦闘機をレーダーを駆使しつつ探す。


すると突然、レーダーに赤い光点が映し出される──敵の戦闘機だ。


進路を調整し、敵の戦闘機がいる方向へと戦闘機を向かわせる。ロックオンシステムを立ち上げるとモニターにロックオンサイトが表示され、遥か遠方に見えてきた敵の戦闘機に狙いをすませる。このシステムは最近アメリカで発明された戦闘補助システムで、超遠距離でのミサイル運用を目的として設計された新時代のロックオンシステムらしい。


訓練や実戦で何度も使用してきたが、はっきり言って便利過ぎると思う。超遠距離限定とはいえ、目視では極々小さな点にしか見えない敵の戦闘機をシステムが自動的にロックオンしてくれる上に、運用するミサイルによっては軌道の補助まで行ってくれるという優れものなのだ。


使い方もシステムを起動するだけなので実に簡単なものである。敵国のパイロットが可哀想に感じてくるようなシステムだ…。


「……イーグル1、フォックス2。」


ロックオンしたシステムを信頼して、使用兵装を遠距離空対空ミサイルである『AIM-130サーペント』に切り替えて発射スイッチを押す。『AIM-130サーペント』は赤外線誘導方式を採用した遠距離から敵機を撃墜する為に運用する空対空ミサイルである。これまでの遠距離空対空ミサイルがIFF等の信頼性によって運用が若干制限されていたのに対し、前述したロックオンシステムと最新のIFFを活用する事により、味方機への誤射などの事故をほぼ0にまで削減する事に成功した安心安全な空対空ミサイルとなっているのである。


主翼に取り付けられた『AIM-130サーペント』が白煙をたなびかせつつ飛んで行き、こちらへと向かってくる敵機に向かってどんどん距離を詰めていく。


ミサイルに気付いたのか敵機が機首を上げて回避機動を試みる。即座にミサイルに気付く練度の高さには敬意を示すが、その程度の回避機動で躱せるほど、戦団製のミサイルは甘くない。


敵機を追従するようにミサイルも進路を変え、必死に回避しようとする敵機を徐々に追い詰めていく。途中フレアを放たれミサイルの挙動が一時的に不安定になるも、軌道補助システムによって再び敵機を追従し始める。


遠距離であればシステムが勝手に補助してくれる為、この距離であれば今の私にやる事は無い。精々撃墜されたかを確認するか、次の標的に狙いを定めるくらいである。


フレアを使用したにも関わらずミサイルを振り切れなかった敵の戦闘機がついに追い付かれ、ミサイル機体後部に食い付かれて爆発する。パイロットの姿が無いのを見るに、ベイルアウトする前にミサイルが直撃したのだろう。


死んだ敵の事はどうでもいいとして、次の目標に狙いを定める。既にある程度距離が近くなっているので、ここからは中距離ミサイルで撃墜するとしよう。


使用兵装を『AIM-72Fトラッカー』に切り替え、ロックオンしてからミサイルを放つ。『AIM-72Fトラッカー』は戦団製の中距離空対空ミサイルであり、ロックオンした対象を航続距離限界まで執拗に追い続けるアクティブ・レーダー・ホーミング式のミサイルとなっている。


一度ロックオンしてしまえば後は撃ちっぱなしで良いため、このミサイルは気に入っている……その間に次の目標を狙っておくことも出来るのだから。


今狙った敵機の右側を飛ぶ戦闘機に向かって、『AIM-72Fトラッカー』をお見舞いする。2機共別の方向に回避機動を取っていたものの、いつまでも追従し続けるミサイルに食い付かれ空に汚い花火を生み出した。


仲間を撃墜されて怒り狂ったのか、残る2機が連携して此方にミサイルを放ってくる。機体を回転させつつ追従を振り切り、ミサイルの直撃を回避する事に成功、再び敵機の撃墜を再開する。


回避機動を取った事により丁度敵機の真上に移動していた為、真上からミサイルを放ち回避の暇を与えず撃墜する。爆発した機体の横をすり抜けるように機体を動かし、最後の1機の撃墜に取り掛かる。


機体を旋回させつつ敵機をロックオンし、ミサイルを放つ準備を整える。


「イーグル1、フォックス3。」


『AIM-72Fトラッカー』を発射して敵機を追従させ始める。必死に回避しつつこちらへとミサイル放つ敵機だったが、まともにロックオン出来ていないのか回避せずともミサイルは私の横を通り過ぎて行った。


ロックオンする余裕もない程焦った状態で、更に仲間も全員死亡しているという極限状態下でまともな動きが出来るはずも無く、敵機はミサイルを回避しきれずに爆発した。


周囲に敵影が無い事を確認して、一息つく。


「……イーグル1よりドミニク少佐、敵機の全機撃墜を完了しました……これより帰投します。」


『おぉ!良くやった!気をつけて帰ってくるんだぞ。』


「了解。」


滑走路へと進路を変え、再び帰路につく。滑走路付近で減速して着陸し、輸送車に移動を任せて一息ついた。


……ただの訓練の筈が、随分と忙しくなってしまった。


「……後で撃墜マーク描かないとね。」


機体から降りて、格納庫を後にする。早く帰って、夫との時間を確保しなければ…!










「あ…………夕飯考えるの、忘れてた。」








お読み頂き、ありがとうございますm(_ _)m

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