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朧火の意志  作者: 布都御魂
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天を舞う鋼鉄のイルカ


「前方よりミサイル接近!!と、とてつもなく巨大なミサイルです!!」


「げ、迎撃せよ!あんなものを受けてはこの艦といえど……!?」


大声をあげて報告する乗組員に指示を飛ばす革命派海軍の正規空母『エルフォルク』の艦長は、信じられないものを目の当たりにする。


前方から飛来するミサイル。それは普段訓練で見てきた対艦ミサイルとは比べものにならない程大きく、そして途轍もない威容を誇っていた。


艦橋の前に搭載された速射砲とCIWS、艦対空ミサイル発射器が必死に迎撃を開始する。普段であれば残弾数を考える必要がある迎撃戦闘であったが、今回ばかりはそんな事を言っている場合ではなかった。


このミサイルを撃墜しなければ、この空母が海の藻屑となる……艦内の全員がそう感じているからこそ、このミサイルの迎撃に出し惜しみの文字は存在しなかった。


砲身が熱で歪みそうになる程連続で対空砲撃を行い、なんとかして空母に辿り着く前に撃墜しようとする乗組員達。周囲に展開する駆逐艦達の力も借りつつ、必死に対空砲弾をミサイルに叩き込んでいく。


そんな彼等の奮闘が功を奏したのか、空母に着弾する直前で大型ミサイルが大爆発を引き起こす。爆風が吹き荒れ、艦隊の周囲の波が荒れ狂う。船体が揺さぶられ艦長や乗組員達が床に叩きつけられる。


「うぐっ……っ、ど、どうなった!?」


「…げ、撃墜成功です!艦長!!」


艦橋内で歓声があがる。生き残った事を喜ぶ者、無事を喜んで抱き合う者と、艦内は戦争とは思えない程に盛り上がっていた。




「お、おい…!あれ………」




──乗組員の一人が声をあげるまでは。



一気に艦内が静まり返り、全員が艦橋の窓から外の様子を伺い始める。艦長も痛む身体をなんとか動かして窓の外を見る。


そして、彼等は見てしまった。


彼等の目に映るのは、先程撃墜したばかりの大型ミサイルが3()()


艦隊が総力を決して撃墜した、弾薬も砲身も、なにもかも全て犠牲にしてまで撃ち落とした筈のミサイルが、3倍の数となって目の前に迫ってきているなど、何かの冗談だと思いたかった。


枯れ葉が砕け散るように、艦長の心は折れた。


「…………あれは、無理だ。」


そう呟く艦長の声をかき消すように、天空を舞う鋼鉄のイルカ達は空母『エルフォルク』を正面から吹き飛ばした。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「敵正規空母撃沈!『M337オルカ』は直撃3、撃墜1です!」


「はっ、一発とはいえ撃ち落とすたぁやるじゃねぇか。」


ニヤリと笑いつつ敵艦を褒めるアンデルセン。敵対しているとはいえ、アンデルセンも『エルフォルク』の艦長も船乗りである事には変わりなく、同じ船乗りとしての敬意を払うのはアンデルセンにとって当然の事であった。


「まぁ流石に残り3発は無理だったようですがね。」


「そっちまで撃墜されちゃあ、困るのはこっちだがな。」


エリック艦長に対し軽口で返すアンデルセンを他所に、乗組員の一人が報告を続ける。


「……それから、クリムゾン級のミサイルによって、敵駆逐艦の大半が大破ないし撃沈しています。残存する敵艦はいかがなさいますか?」


「そうだな……出撃中の航空隊に任せるか。敵艦の残存数は?」


「現状ではありますが……無傷2、中破2、大破1、撃沈3との事ですので、残存数は4隻かと。」


想定よりも『M256バイパー』の命中率が低い事に驚きつつ、アンデルセンは指揮を再開する。


「よし、だったら残存艦に航空隊を2編隊以上で当たらせて撃沈しろ。大破した1隻はクリムゾン級に艦砲で処理させ、残る航空隊は引き続き艦隊周囲の警戒を継続させろ。」


「はっ!」


再び思考を巡らせるアンデルセン。最新の技術と少しばかりの原始的な技術により生み出された戦団製の優秀なミサイル『M256バイパー』は、目標の最終的な確認を先端部のカメラアイで行う。安価なカメラアイであるとはいえ、目標を視認する程度の機能は有しているし、ミサイル対策の代表例であるジャミングはこのミサイルには通用しないように設計されている。


だとすれば何がミサイルの命中率を低下させているのか………対象である駆逐艦が煙幕を展開したという報告は受けていない……このミサイルの弱点は物理的な障害であり、ジャミング等が原因では無いはずだが…。


「駆逐艦『ガランス』、大破駆逐艦を撃沈したとの事です。」


「輪形陣に帰還し警戒任務を再開させよ。」


エリックと乗組員の会話が聞こえてくる中、思考を続ける。艦橋の周囲を見渡すカメラモニターには、今まさに駆逐艦に対し対艦ミサイルを放ったPWS-32の姿が映しだされていた。ミサイルは墳炎をあげて白い煙を撒き散らしながら敵の駆逐艦へと襲いかかった。


……()()()()()をあげて…?


「そういう事か…!」


ミサイルが命中率が下がったのは敵のジャミングや煙幕なんかじゃない……初撃で放たれた『M337オルカ』の墳炎と撒き散らされた白煙が原因だ…!


「何か気付いたのか…?」


戦友の声にいち早く反応したのは艦長であるエリックだった。


「対艦ミサイルの命中率を低下させているのは大型ミサイルの墳炎と白煙だ!あの規模のミサイルを使用した後は、『M256バイパー』は使い物にならん可能性が高いぞ…!」


「白煙…!そういう事だったのか…。」


エリック艦長が外部カメラをモニターに映し出させると、確かに撃沈され沈み行く空母の周囲に、広く濃密な白煙が立ち込めているのが確認できる。白煙は風に乗って敵駆逐艦の方へと流され、そしてミサイルの命中を阻害していたのだった。


「こりぁ運用する際には注意がいる代物だなぁ……技術部の奴らに白煙の濃度を下げれるか聞いてみるか。」


今後『M337オルカ』を運用する以上、この白煙に関する問題は避けて通れない事案であったが、伊達に火力そのものが優秀なだけに、頭ごなしに否定して運用中止とする事は惜しいミサイルであった。


「……そういえば、先日技術部門に特殊部隊チームの新人……メルト君でしたっけ?が担当者に就任したそうですよ。」


「そいつぁ良いタイミングだ、アイツにこのミサイルをどうにか出来ねぇか聞いてみるとするかぁ!」


アンデルセンとメルトは休日にドライブして飯を食いに行く程度には仲良くなっており、その際は身分の差を忘れて──実際の身分差は殆ど無いが──友人として休日を楽しんでいる。最初はタメ口がぎこちなかったメルトも次第に慣れたようで、今ではアンデルセンのボケに鋭いツッコミをかます程度には打ち解けていた。


この海域に出る数日前にも、海辺でBBQをして盛り上がっていた。初対面の時と比べると想定以上に仲良くなっているのだが、アンデルセン本人がこの性格なのもあってか距離感を全く気にしていなかったのもあり、メルトもその距離感に順応していたのだった。


「あまり無茶を言わないようにな……彼は彼で仕事があるんだ。」


「へっ、分かってらぁ。……さぁて、進捗はどんなもんだ?」


アンデルセンがタイミング良く、報告に来ていた乗組員に報告を促す。豪快な性格の彼だが、気遣い力は人一倍できる人間であった。


「報告いたします。敵艦隊の全艦撃沈を確認、および撃沈に当たった航空隊の帰投を開始しました。哨戒中の航空隊も着艦準備が整い次第、収容する予定です。」


「よぉし良くやった。周辺に新規の敵艦隊は確認できたか?」


「いえ、現状確認されておりません。偵察に向かわせている本艦の航空隊も、現時点では敵艦隊を発見出来ていないようです。」


どうやら付近には敵艦隊はいないらしく、兵達に少しばかりの休息を与える事は可能なようだった。


「今動いてる奴にローテーションで休息を取るよう伝えろ、最低でも10分程度は座るなり何なりして軽食を取らせとけ。……こっからまた忙しくなりそうだからな。」


敵の艦隊がこの程度の規模であるとは、アンデルセンは考えていなかった。正規空母を護衛の駆逐艦がいるとはいえ単騎で運用するという事は、他にも運用可能な空母が革命派側に存在するという証拠であり、もし数が少ないにも関わらず単騎派遣をしたのであれば、敵海軍の指揮官は相当頭のネジが緩いという事になる。


なんせ空母は貴重だ。発足して日が浅いとはいえ、高度な生産能力とアメリカからの支援を受けた戦団ですら、保有している空母はたったの6隻のみである。


戦団という国ですらない武装組織にしてはかなりの保有数だが、この戦団の在り方はどちらかと言うと国家寄りの軍事運用を行っている。傭兵的な規模で収まる範疇には、既に収まりきっていなかった。


その点においては、戦団としてアメリカから独立したのは正解であったと、アンデルセンは考える。下手にアメリカ軍所属のままでこの運用を続けていれば、いずれは軍内部での衝突の火種となりかねない。そうなる前に同盟組織という名目を得られたのは、ブラウン大統領と防衛部隊の面々が努力して勝ち取った成果に違いなかった。


乗組員達に暫しの小休憩を取らせ、アンデルセンも一休みしてから再び指揮を再開する。



「艦隊各位に告ぐ、これより本艦隊はエリア022海域の中央領域へと突入する。この海域とは異なり完全に革命派保有の海域である事を留意せよ。なお、もう間もなく我が戦団の潜水艦隊が合流する為、各対潜担当者は味方潜水艦が接近している事を留意しておけ。……そしてもう一つ、これは憶測となるが、『M337オルカ』の使用後はミサイルの白煙等によって我が艦隊で運用中の『M256バイパー』が命中し難くなっている可能性が極めて高い。よって、オルカ使用後は白煙の影響が薄れるまではバイパーの使用を控えるようにせよ。以上だ、総員持ち場につけ!」



マイクを切り、背もたれに身体を預ける。



アンデルセンの率いる艦隊の戦いはまだ終わらない。敵の海域に侵入している以上、いつ敵艦隊と遭遇してもおかしくは無いのだから。




CICのレーダーとカメラモニターを見比べながら、人知れず気を引き締め直すアンデルセンであった。







お読み頂き、ありがとうございますm(_ _)m

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