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朧火の意志  作者: 布都御魂
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華やかなる凱旋


暗殺任務を終えた翌朝、エリア022における革命派拠点で起きた暗殺事件は世界中のメディアで大々的に報道された。


革命派は一連の騒動を戦団"フォートレス"が引き起こした侵略行為であると主張したが、その場に居合わせた警備員は全員死亡、検問所勤務の警備員に加え実行犯を追撃した装甲戦闘車両の乗組員も全員死亡している為、決定的な証拠を提示する事ができなかった革命派は更に各国からの非難を浴びる羽目になった。


まぁ、やったのは俺達なんだが。


生存者がいないのも、目撃者を残さないように徹底的に殺戮したからに他ならない。わざわざ自分達が不利になるような証拠を残すわけがないだろうに。


結果的に革命派は、国境線付近の陸軍同士のぶつかり合いに加え、暗殺による後方勤務の将校を殺害されるリスクまで背負い、更にはまだ開戦していない海上での戦闘も控えている状態となる……作戦司令部は大忙しだろうな。


でもまぁ、奴らが苦しむ分には何の問題にもなりはしない。……むしろもっと苦しんで欲しいまである。


俺達に戦争をふっ掛けたのは、他でもない彼等なのだから。


朝食のトーストを齧りながらぼーっとニュースを見る。暗殺任務を終えたばかりというのもあり、俺とヴィンセントは少しの間非番となる。もちろん有事の際は出動する事が許可されているが……まぁ今くらいはゆっくり朝食を楽しむとしよう。


ちなみに今日の朝食は日本から取り寄せた小豆を使用した、所謂小倉トーストである。小豆好きの俺としては大好物の一品であり、週1……いや週2くらいの頻度で食べたい程には大好きなメニューだ。


小豆と一緒に柔らかな食パンを咀嚼していると、リビングの扉が開いてヘンリクが入ってきた。


「食事中に済まない、一つ伝えておきたい事がある。」


パンを飲み込み、ヘンリクの方へと向き直る。表情からして深刻では無さそうだが……何かあったのだろうか?


「つい先程、国境線付近で衝突していた戦団陸軍と革命派陸軍の戦闘で、戦団陸軍が勝利したそうだ。敵の大半を撃破した事によって革命派陸軍が敗走を開始、余力のある兵力で追撃を行ったが、損害拡大を抑える為に中断して退却したそうだ。」


「……まじかよ。」


ハインケル大将率いる戦団陸軍が、革命派陸軍の新型戦車を打ち破って勝利したとは……少しばかり寝ぼけていた頭も冴え渡る程の大戦果であった。


ヘンリクに貰った資料を見てみる。どうやら可能な限り損失を抑えつつ攻撃の手を止めない戦術を取ったらしく、革命派陸軍が誇る新型主力戦車の大半を撃破する大戦果を成し遂げながら、戦団陸軍の損害は『NT-12』が大破28、中破86、小破116、『改修型T-64』が全損2、大破47、中破24、小破32となっており、相当に熾烈な戦いであったと言う事が伺える。


資料を捲り、一番嫌な項目である死者数の項目を見る。どの戦いにおいても、戦死者が出ないなんて事は滅多に有り得ない。それが近代から続く兵器同士のぶつかり合いであれば尚更だ。


大破の項目が多かった事から死者数も相当なものであると覚悟していたが──目を疑った。



───人間死者数、0。


───樹脂人形死者数、0。



戦団に所属する陸軍の兵士が、誰も死んでいないのである。その隣の負傷者数はかなりのものであったが、死者に関しては全くといって出ていない。


……これを奇跡というのは、互いに守り合いながら戦った彼等の努力を踏み躙る事になる……これは紛う事なき、彼等が掴み取った勝利であった。


「ハインケルの奴、絶対に部下を死なせないと大口を叩いていたが……まさかやり遂げるとはな。」


ヘンリクもしみじみとした表情で頷いている。旧友であるヘンリクの表情と声色から察するに、かなり部下や仲間を大切にする人である事が伺える。ほんと、この戦団には傑物が勢揃いしてるんだな…。


「……それでだ、今日の昼から中央広場にて凱旋パレードを行うとの事でね……ジャック、兵士達への夕食作りを手伝いに行って貰えないだろうか?これ程の大戦果を挙げた彼等に、今晩くらいは美味いモノを食わせてやりたいのだが…。」


「おぅ、いいゼ。そう言う事なら俺が適任だナ。」


ヘンリクの飯は美味いからな……食料庫の食材が枯渇しないか心配である。


「ジャック、俺も手伝うよ。」


「……いいのか?メルトお前非番だロ?」


「非番だからだよ。別に予定はないし、人手は多い方が良いからな。」


今日は別段予定もなく1日のんびり過ごす位しかやる事が無かったので、手伝える事があるならそれに参加した方が気が楽だ。


「んじゃ手伝いを頼むゼ。結構な人数になるからよ、休んでる暇はねぇゾ?」


「ははっ、望むところだ。」


ジャックと話しつつ、宿舎を後にする。料理を振る舞うのは中央広場から少し進んだ先にある青芝公園、その休憩所付近だ。


ヘンリクが既に指示を出していたのだろう、大鍋や移動式大型コンロ、やたらデカイBBQグリルに電源ケーブルを繋がれた大型冷蔵庫など、料理に必要な家電・器具等は一通り揃っているようだった。


よく見ると冷蔵庫の横には常温保存の食材がブルーシートの上に山積みになっており、これから使うであろう食材も既に準備済みのようであった。


「よし、とりあえず下拵えだ。メルトはまず根菜類の皮剥きを頼めるか?俺は葉物野菜を洗って切り分けてくるからヨ。」


「オーケー、任された。」


野菜の皮剥きには自信があるのだ……精一杯皮を剥き続けてやるとしよう。


大振りな大根を手に取り、軽く水で表面の泥を落としてから半分に切り、そこから皮剥きしやすい大きさまで輪切りにしてから皮剥きを始める。包丁を大根に当てつつ慣れた手付きでスルスルと革を剥いていく。こういった皮剥き作業は何故か得意で、ジャックが「……俺より上手いんじゃネ?」と少し悔しそうにしていた程には上手いらしい。


俺としては普通に皮剥きをしているだけなのだが、やっていることが思ったよりもプロ並みの技術力なのだそうだ……そのせいもあってか、いつの間にか長く連なった大根の皮がバケツにどんどん溜まってきており、そろそろ一度袋に捨てる必要性が出てきてしまっている。


ゴミ袋を取ってきてバケツの中身をひっくり返し、今度は人参の皮剥きに移行する。多種多様な野菜の皮を剥き続けていると、気がつけば目の前に人だかりが出来ていた。


「……えっと、なんでしょう?」


流石に気になるので問い掛けてみると、最前列にいたオバちゃんが代表して返答してくれた。なんでも、俺が余りにも野菜の皮を無駄なく高速で剥き続けていた為に、気になって様子を見に来ていたらしい。よく見ると小さい子達も興味津々といった様子で此方を見ていた為、調理器具の箱から何本か入っていた子供用の包丁を渡し、保護者と一緒に皮剥き体験をさせてみた。


最初は上手くいかない様子だった子供達も次第に手慣れていき、気づけば一人で大根の皮を剥ける程度には上達していた。子供の習熟速度は凄まじいね…。


急遽始まった皮剥き体験会を終え、皮剥きとカットを終えた野菜をジャックに渡す。ジャックも体験会を遠くから見ていたらしく、今度"フォートレス"で募集が掛かる料理体験会のボランティアに参加しないかと誘われた。まぁせっかくなので俺も参加してみようかなぁ……なんやかんや体験会は楽しかったしな。


ジャックがメインの肉料理に取り掛かったので、俺も切った野菜とベーコン、ソーセージを使ってポトフ的なスープを作る。大鍋なのでコンソメや調味料をかなり使う事になったが、味見した感じ整った味にはなっていたので大丈夫だろう。


その後もメイン料理を作るジャックの傍らでサイドメニューのサラダやシンプルなオムレツ、デザートのカップケーキやフルーツポンチを完成させていき、最後に公園内に設置されたテーブルへと料理を運搬する。


正直かなりの量だったが、料理自体は好きでよくやっているのもあり別段苦にはならなかった。


そして正午過ぎ、中央広場へと続く大通りで"フォートレス"初の凱旋パレードが行われた。パレードには無傷の戦車と生産されたばかりの戦車が動員され、彼等が勝利したという事がより分かりやすい形で示されていた。


アメリカから派遣された音楽隊の奏でる音色がパレードを彩る中、ゆっくりとしたスピードで戦車と式典用の車両が大通りを進んでいく。戦団としての大規模な戦闘における勝利は"フォートレス"に住む住民達に大きな希望をもたらし、戦争という状況下におけるパレードという華やかな催しは戦争ですり減る精神を癒やす一助となり得た。


パレードの後は戦団陸軍での宴会が行われ、様々な料理と各国の酒類が振る舞われた。本来であれば戦時中というのもあり、即応性を維持する為に過度な飲酒は基本厳禁となっているが、今この時だけは彼等の奮闘を称える上で必要不可欠であった。


宴会は夜まで続き、酔いの回った兵士達は久方ぶりに仕事を忘れる事を許され眠りについた。






……自分達が戦い、そして勝利したという事実を抱きしめながら。









お読み頂き、ありがとうございますm(_ _)m

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