戦地に響くは爆炎の音色
─エリア022国境線付近、荒野─
『被弾──タザナイト板残量20%、危険域。』
『交代ヲ提案──交代完了、戦闘続行シマス。』
樹脂人形達が乗るNT-12や改修型T-64がお互いを庇いながら敵戦車に戦車砲を撃ち込み続ける。今のところ死者は出ちゃいないが……このままじゃ押し負けるのも時間の問題だ……やるなら今しかねぇ。
「ハインケルよりミサイル部隊!ミサイル発射準備!目標、敵戦車群中央領域!弾薬を惜しむな!本命令は全弾発射用意命令である!!」
『了解、全ミサイルをここで使い切ります!』
後方の装甲ミサイル車両『フラッグ』がミサイル投射機を起動させ、ミサイルの発射準備を整える。
『全車両、発射準備完了!いつでも行けます!』
「よぉし!地対地ミサイル──Fire!!」
箱型のミサイル投射機から、各車両4発づつミサイルが大空へと放たれる。地上目標を中距離から爆撃するという戦術構想の元開発された中距離地対地ミサイル『ティンパニ』が大空を舞い、敵戦車が密集する中央領域へと着弾する。
大空から舞い降りたのは、爆炎と熱風を巻き起こす暴虐であった。腹の底に響き渡るような音を奏でる打楽器の名を冠した計320発の地対地ミサイルは、着弾する事で冠した名よりも遥かに破壊的な轟音を奏で、着弾地点にいた敵戦車群を乗組員諸共消し炭へと変える。
燃え盛る爆炎が装甲を焼き尽くし、吹き荒れる熱風が熱で融解し脆くなった接合部をもぎ取り戦車を分解する。一滴の水分も残さない程の熱が乗組員達を生きたまま蒸発させ、乗っていた戦車諸共地獄の底へと叩き落とした。
自陣の真っ只中に落とされたミサイルの猛威に、革命派陸軍は唖然とする。破壊された戦車の残骸に焼け付いた血痕は、被害を免れた戦車兵達の心を完膚なきまでに圧し折った。
1台の戦車が、方向転換して逃走を開始する。この場にいれば確実に死ぬ羽目になる……その恐怖が、誇りある革命派陸軍兵士としてのプライドを徹底的に塗り替えてしまっていた。
逃走する戦車に釣られるように、1台……また1台と逃走を開始する。怒鳴りつける革命派陸軍の士官なんざ眼中に無く、ただひたすらに来た道を逃げ帰っていった。本来であれば、敵前逃亡による処罰を恐れる事だろう……しかし今の彼等にとっては全てを灰燼に帰す殺戮の炎の方が、処罰の何百倍も恐ろしいものであった。
『ハインケル大将、敵戦車が敗走を開始しました!追撃致しますか?』
「……現在の損害状況は。」
『はっ!第1戦車中隊及び第15戦車中隊は無傷、第2戦車中隊、第6戦車中隊、第11戦車中隊、第23戦車中隊は小破のみに留まっています。追撃可能な部隊は以上の部隊のみかと…。』
「分かった……第2、第6、第11、第23戦車中隊は第1戦車中隊に続け!敵戦車群の追撃を開始する!ただし深追いはするな!敵の損害状況とこちらの被害状況を見て俺が判断する!!追撃中止の指示には必ず従え!!」
『『『『了解!!!!』』』』
「第3戦車中隊!損傷した部隊を国境線まで後退させろ!撤退時の指示は任せる!」
『了解しました!』
ハインケルはホルスターからコルト・アナコンダを引き抜いて号令を発する。
「各員、行動開始!!!!」
ズダァン!と轟音が鳴り響き、各部隊が行動を開始する。ハインケル率いる追撃部隊は敗走する敵戦車に向かって戦車砲による砲撃を開始する。
逃走という敵に大きな隙を晒す行動に出た革命派の新型主力戦車に、NT-12の主砲から放たれたAPFSDSが猛威を振るう。装甲を貫通した弾体が砲塔後部の弾薬庫に着弾、格納されていた砲弾が誘爆して大爆発を引き起こす。
狭い車内で吹き荒れる爆炎が、必死に戦車を操作していた乗組員を真っ黒な焼死体へと変貌させる。運良く……いや、運悪く生き残ってしまった乗組員も、その身を炎に包まれた状態で車外へと這い出てくる。しかし乾いた荒野に全身を包む炎を消す効果がある筈も無く、結果的にのたうち回りながら息絶える事となった。
『レフレークス、発射。』
第23戦車中隊の改修型T-64が、戦車砲から『9M119 レフレークス』を発射する。放たれたレフレークスが敵戦車の排気部に着弾し、移動に不可欠なエンジンブロックを木っ端微塵に吹き飛ばす。
移動能力を失った戦車から乗組員が這い出てくるが、NT-12のM2重機関銃によって蜂の巣にされていった。
続々と敵戦車を撃破する中、ハインケルは味方部隊を見渡しつつ思案する。このまま追撃するのも一つの手ではあるが、極限状況下での無理は生存率を大きく下げる可能性が非常に高くなる……ここは無理せず、引くべきだとハインケルは判断を下した。
「追撃部隊各位、追撃中止!これより敵戦車の動向に注意しつつ撤退する!細心の注意を払いつつ撤退せよ!!」
『ハインケル大将!まだ弾薬は残って──』
有利状況に立つ事で無茶をしたがる兵士が、こうして一人誕生した。ハインケルは額に血管を浮かび上がらせながら馬鹿な発言をした部下を叱りつける。
「馬鹿野郎!!中止命令は必ず聞けって言ったろうが!テメェが座ってる席はなんだ?仲間を危険に晒し続ける無能の席か!?そんな席に座るようなら、テメェのケ○穴にハッカ油塗りこんで野外に放り出すぞ!!」
『いっ…!?も、申し訳ありません!』
「ったく……テメェの任務は仲間を死地に送る事じゃねぇ、仲間を無事な状態で家に帰す事だ。その為の判断を誤ってんじゃねぇ……わかったか?」
『はいっ!ご指導頂きありがとうございます!』
ったく……こういう奴が戦場で無茶をして、結果的に仲間諸共無駄死にする羽目になるんだ。いや、仲間諸共死ねるならまだマシだ……最悪なのは自分だけが生き残っちまうパターンだ。仲間を死なせて自分だけおちおち生き残っちまう奴が、その後に取る行動なんざ想像するだけで胸糞悪ぃ…。
……まぁそうさせない為に、俺がいる訳なんだが。
敗走する敵戦車を注視しつつ、撤退を開始する。逃走する事に必死なようで、こちらに砲身を向ける馬鹿は連中にはいないようだった。
……にしても、だ。今回の戦闘において誰一人として欠ける事なく勝利を収める事ができた。負傷者は出ちまってるが……全て現代の医療技術で治せる範囲内だ。
こいつ等が俺の言った通りにお互いを庇い合って、誰一人死なせない事を徹底した結果であり、人間・樹脂人形関係なく守り合う姿勢を見せた成果が、死者数0という結果に現れていた。
「……ったく、よく出来た奴らだ。」
拠点に戻り凱旋した暁には、コイツ等全員に酒でも奢ってやるとするか。樹脂人形は確か……液体でありゃあ摂取できるんだったか…?味覚事態はあるらしいし、酒はともかく美味いもんでも飲ませてやるとするか。
……樹脂人形も、人間と大差ねぇもんだな。
ま、人間かどうかなんざ関係ねぇ。俺の仲間は全員俺の戦友だ……それだけは変わらねぇ。
「ハインケル大将、どうされました?何やら考え事をしていらっしゃる様ですが……。」
「んぁ?あぁ、気にすんな。ちぃとばかし勝利の余韻に浸ってただけだ。……さぁて、帰るぞ!」
国境線で治療しながら手を振る部下達が、追撃から帰還した俺達を出迎える。42式装甲兵員輸送車から降りてきたらしき衛生兵が、安静にしない兵士の頭をぶっ叩く……何やってんだ。
「全員よく聞け!これより応急処置が終了次第、"フォートレス"に帰還する!処置が終わってる奴は帰還準備を整えろ!自力で走行できない戦車は装甲車に牽引して貰え!そして最後に──お前等、良くやった!!」
「「「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」」」」」」」
乾いた荒野に、勝利の歓声が木霊する。
無邪気にはしゃぐ兵士達の様子を見て、ハインケルは「悪くねぇな」と呟くのだった。
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