追撃を振り払って
詰所の裏口を出て、革命派拠点から離脱する為にひたすら走る。路地を抜け、背の低いフェンスを飛び越え、巡回していた警備員の眉間に9✕39mm弾をブチかましながら疾走する。
既に回収ヘリの要請は済ませている。後は連中から逃げきって拠点に帰るだけである。
「ゴースト1、少し時間を稼いでくれ。」
「了解、後ろは任せろ。」
ヴィンセントに追手の相手を任せ、その間に検問所のドアを蹴破って突入する。中には拳銃を持って待機していた警備員がおり、蹴破られたドアを見つめてポカンと口を開けたまま固まっていた。
その開いた口にナイフを突っ込み、下から膝蹴りをかまして顎と口腔を砕く。痛みで白目を向いた警備員の眉間にナイフを突き刺してトドメを刺した後、服で血と唾液を拭いてからナイフケースにしまう。
壁のコルクボードから鍵を取り、検問所前に停められていたバイクに挿して電源を入れセルスターター押してエンジンを掛ける。そのまま跨がってUターンし、ヴィンセントの元へとバイクで向かう。
ヴィンセントは追手を全員排除したらしく、AK-12のマガジンを交換している所であった。ヴィンセントの前にバイクを停め、乗るように促す。
「コイツで離脱しよう、乗ってくれ。」
「助かる。……よし、良いぞ。」
ヴィンセントが乗ったのを確認して、スロットルを回してバイクを発進させる。自らの足で走るよりも遥かに素早く、革命派の拠点から遠ざかっていくのを見てほっと一息つく。
あとは回収のヘリと合流して帰るだけだ……敵が追って来なければの話だが。
と、その時、ヘルメットに付属しているイヤーマフに通信が入る。
『──"ファントム"よりゴースト隊、応答せよ。』
「こちらゴースト2、どうした。」
『現在、回収ポイントに向かっています。座標を表示しますので、そこに向かって下さい。』
ヘルメットのフェイスガードに、簡易マップと緑の光点が表示される。場所は……もう少し先か。
「了解した、回収ポイントに──っ!」
全力でハンドルを右に切り、後ろから迫っていた何かを回避する。
先程までいた地点が爆ぜ、砂煙が巻き上がる。チラッと後ろ見るとそこには───
───戦車がいた。
いや、正確には戦車じゃない。速射性の高い砲と軽快な車輪を携えた、所謂『装甲戦闘車両』という存在であった。
『ゴースト2、どうしました?応答を──』
「こちらゴースト2!現在、敵装甲戦闘車両による追撃を受けている、支援を要請したい。」
『機関砲のみですが、よろしいので?』
機関砲のみ、という事は回収のヘリも行きと同じく『HH-7』なのだろう。装甲戦闘車両に効くかは微妙だが、贅沢は言ってられない。
「十分だ。最悪、機関砲でトップアタックでもかましてくれ……時間はこちらで稼ぐ。」
『了解です──どうかご無事で。』
通信を切り、バイクの操作に専念する。先程からひっきりなしに砲弾が地面を弾けさせている。今は回避できているが、正直時間の問題だろう。
唐突にピンッという軽い音が後ろで鳴ったかと思いきや、装甲戦闘車両の方から爆発音が鳴り響く。ぎょっとして後ろを振り向くと、装甲戦闘車両の足元が爆ぜて窪んでおり、タイヤの一つが外れかけていた。
「……ヴィンセントか?」
「あぁ、手榴弾を投げてみた。どうやら上手くいったようだな。」
咄嗟の判断にしては上手く行き過ぎているが、結果的に助かったので特に文句はない。これで追い難くはなった筈だ。
と、その時、上空から回転音が聞こえ始めた。回収ヘリの『HH-7』だ。
『ファントムよりゴースト2、回収ポイントに到着しました。追手は──アレですね。』
「あぁ、あの装甲車だ。せっかくの機会だ、盛大にもてなしてやってくれ。」
『了解──こんがり焼いて差し上げましょう。』
上空のHH-7が装甲戦闘車両の方を向いたままホバリングし、機体下部の機関砲を回転させて装甲戦闘車両に向かって機銃掃射をお見舞いする。装甲に覆われているとはいえ、せいぜいが小銃弾を弾く程度の装甲厚で、それよりも遥かに大口径の機関砲弾を防げる訳も無かった。
ただでさえ装甲の薄い車体上部を穴だらけにされた装甲戦闘車両は内部の乗組員諸共ズタズタにされ、弾薬庫に引火して爆発する。中から火達磨になった乗組員が這い出てくるも、すぐに絶命して物言わぬ死体へと変わっていった。
「ゴースト2よりファントム、支援感謝する。……いい焼き具合だったぞ。」
『こちらファントム、お気に召されたようで何よりです。それでは回収致しますので、少々お待ち下さい。』
ヘリが高度を下げ、俺達がいる場所のすぐ近くに着陸する。バイクから降りて鍵を抜き、地面に埋めておいてからヘリの兵員室に乗り込む。
『では、離陸します。』
兵員室のドアが閉まり、浮遊感と共にヘリが離陸を始める。停車したバイクがどんどん遠ざかり、雲に近いところまでヘリが上昇して行った。上昇しきった場所には護衛のHH-7がおり、護衛の2機を伴って拠点まで帰還するようであった。
ここ迄くれば、さすがにもう安心である。
「ふぅ……さすがに疲れた。」
「そうだな……帰ったら一杯やるとするか…。」
「ははっ、その時は俺も飲むとするかな。一応、酒は飲める年齢らしいし。」
記憶喪失で自分自身に関する記憶がほとんど無いせいで、俺は自分の年齢すら分からない。しかしノーザック氏の病院を受診した際に精密検査をされ、現在の年齢がおおよそ20歳前後であり、恐らくだが酒が飲める年齢ではあるという結果を知ることができた。
その後軽く酒を飲んでみたが、ほぼ酔わなかった為アルコールには耐性があるらしい…。まぁ、泥酔しないならそれでいい。
……にしても、だ。
相変わらず、俺の記憶は戻らないままだ。
アザーライトの採掘場で工作隊のゴルドーに拾われ、なんやかんやあって防衛部隊に入隊、戦団が発足した事により戦団設立の初期メンバーとして名を連ねる事になった。
……恵まれてるな、俺は。
右も左も分からない、怪しさの塊でしかない俺を、こうして仲間に迎えいれてくれる人達がいたのだから。
でもそれ故に、少し怖かった。
記憶を取り戻した時、皆がこれまで通り接してくれるのか…。
大丈夫、大丈夫と言い聞かせる度に、その不安感だけは募るばかりだった。
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「……寝てしまったか…まぁ無理もないが。」
対面に座り静かに寝息を立てるメルト君を見て、ヴィンセントは思案する。
最近、彼の様子がおかしい。普段通り接しているその狭間で、何か思い悩むような素振りが垣間見えている。大丈夫かと訪ねても、何が?と答える程度には無意識に、だ。
……彼が防衛部隊に入隊した頃の経緯は聞いている。アザーライト採掘プラントの付近で工作隊に発見され、ほんの少しアナライザーの操作を習っただけの状態でレイダーの偵察兵を撃破する程の適応力を持つ青年。
記憶を失っているも、兵器やある程度の一般常識は全て理解しており、レイダーの存在に対する納得の早さも、常人のモノでは無かった。
……謎が多いが、1つだけハッキリしている事がある。
彼は私達を害する存在ではないと言う事だ。
見知らぬ私達に対して臆せずに接し、未知の存在であるレイダーや戦争を巻き起こした革命派に対して『大切な人を守る為』という理由で戦う人間が、少なくとも悪い人間であるようには見えなかった。
たとえ彼がどのような出自であっても、彼が積み上げてきた数々の行動と実績、そして信頼は揺るぎないものだ。
だからこそ、今は見守ろう。彼が大きな分岐路に立った時、彼自身の選択を応援して、背中を押す為に。
そして壁が立ち塞がった時、その壁を打ち砕く力となれるように。
『──間もなく到着いたします、ご準備を。』
「────ん…?」
メルト君が目を覚ます。寝た状態であってもAS Valをしっかり抱えている辺り、今の環境には適応できているようだな。
何でもないその所作を見て、少しばかりほっとした気分だった。
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兵員室に響くアナウンスを聞いて目を覚ます。……どうやら疲れて寝てしまったようだ。
「おはよう、メルト君。そろそろ到着だよ。」
「……すまん、寝ちまった。」
「いいさ、仕事はこなしているのだからね。」
ヘリが離陸準備に入り、少しづつ"フォートレス"の防壁が近付いて来る。……もう間もなくか。
『着陸します、衝撃に注意して下さい。』
少しばかり機体が揺れ、地面へと降り立つ。ローターが減速し始め、少しの間回り続けた後静止する。
『到着です。お二人共、お疲れ様でした。』
「こちらこそありがとう。……では、降りようか。」
「あぁ、そうだな。」
兵員室の扉が開き、段差に気をつけながら地面へと降り立つ。少しばかり伸びをしてから、大きく息を吐いた。
「……先にシャワー浴びるか。」
「そうだな……流石に血を浴びすぎた。」
そういえば忘れていたが、ヴィンセントの返り血の浴び方が尋常じゃないんだった。その血……落ちるのだろうか?
「……このタクティカルスーツは買い替えかもな。」
「だろうな……経費で落ちるだろうか。」
「ははは、その時は俺も頼んでみるさ。」
そんな他愛無い会話をしながら、皆の待つ宿舎へと帰るのだった。
……ちなみにタクティカルスーツの買い替えは経費で落ちたらしい。良かったな、ヴィンセント。
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