血飛沫と銃弾の狂宴
革命派の連中が集う拠点には、"フォートレス"のような防壁は存在しない。それは周辺が敵対勢力に隣接しておらず、現状唯一の隣接する敵となる戦団もエリア022の国境線とは逆側に位置するこの拠点にとっては、わざわざ多額の資金と資材を投じて防壁を建造する必要性が無いと考えられているからだと、戦団内部では囁かれていた。
正直、それも正しいとは思う。国境線沿いからは明らかに遠いし、前線基地の様に事前に食い止める為の設備があれば防壁を建造するメリットはそこまで大きくなくなるのだから。
だが俺個人の考えとしては、シンプルに建造する時間が足りなかったからではないかと推測している。
戦団にはほんの数日で防壁を組み上げる最強──異常ともいう──の職人達がいる為、資材や資金はともかく、時間だけはあまり掛からない。しかしながら革命派の連中に、それ程の技術者や職人がいるかというと……革命派の拠点を見る限り、居ないor出払っていると推測できる。
まぁ……単なる勝手な予想でしかないのだが。
他所事を考えている思考を一度切り替え、ヴィンセントと共に建物の壁際に身を隠す。内部から話し声等は聞こえないが、万が一見られた場合に備えて隠密行動は徹底しておく。
ヴィンセントが手で合図し、開け放たれている窓を指差す。恐らく換気の為に開放されたであろう窓は、ある程度大きめの両開き窓らしく、人が潜り抜けるには十分過ぎるほどの大きさだった。
ヴィンセントが小型の内視鏡見たいな器具を取り出す。ワイヤーチューブの先には小型のカメラが取り付けられており、このカメラで捉えた映像を手元の端末で見る仕組みのようだ。
操作がリモコンでなく手動なあたり、携行性を重視しての選択なのだろう。
スルスルと窓枠の端からカメラを潜入させるヴィンセント。横から端末の画面を見てみるとどうやら窓があるこの場所は廊下の角らしく、付近には人影は無いようだった。
カメラを収納したヴィンセントがハンドサインしつつ窓から室内へと侵入する。俺もヴィンセントに続く形でスリングのライフルを干渉しないように抱えて窓枠を乗り越える。音を立て無いように静かに着地し、すぐに周囲の索敵を開始する。
入った直後に発見、なんて間抜けな真似はしたくないからな。
誰も居ない事を確認して廊下を静かに進む。遠くの方では談笑する声は聞こえるものの、足音や音の反響から察するに此方に来る事は無いようだ。
廊下の突き当りまで進み、2階へと続く階段を駆け上がる。現状誰とも遭遇してはいないが……恐らく前線指揮官達が出払っているのも要因の一つなのだろう。
階段を登り、更に上階の3階を目指す。人がいないのは助かるが、その分遭遇した時の緊迫感は半端じゃないものになるだろう。……普通に怖いな、コレ。
唐突に、俺とヴィンセントの動きが3階の踊り場付近でピタッと止まる。二人同時に、曲がり角付近の気配を察知したからだ。ヴィンセントがハンドサインで待機指示を出し、AK-12をスリングで背中に背負いつつ手鎌を引き抜く。
曲がり角から現れたのは若い男性士官だった。上官に書類を持って行った帰りなのか、書類を入れるクリアケースを持ったまま無防備に階段の踊り場に姿を晒す。
──潜入してきた敵の兵士がいるとは、欠片も想像せずに。
士官が曲がり角に差し掛かり踊り場に足を踏み入れた直後、その無防備な首にヴィンセントが振るう手鎌が襲い掛かる。風を切る音すら漏らさない静かなる刃は、戦場に出てすらいない若い男性士官の首を容易く刈り取った。
血飛沫を撒き散らしながら倒れる死体を他の人間に悟られないように受け止め、踊り場にある掃除ロッカーの中にぶち込むヴィンセント。非常に手慣れた動作で一連の動作を行う様子に、味方であるにも関わらず恐怖を覚えた。
そんな俺の心情は他所に、ヴィンセントが移動を再開し始める。俺もすぐ後ろをついて行き、周囲をクリアリングしながら目的の部屋にまで移動する。
「……ここだ。」
オーラス・クルツがいるのはこの第2高等将校室……随分と扉と扉の間が広い部屋だ。民衆には平等を、自分達には豪遊を……共産主義のよくやる手法だ。
「ゴースト2、やれ。」
「了解。」
ヴィンセントが部屋の前で警戒している内に、俺が突入する算段である。さぁ、行くとしようか。
扉をノックし、返答を待つ。すると室内から「入れ。」との返答が帰ってきた為、ゆっくりと扉を開けつつ入室する。もちろん──AS Valを構えた状態で。
「─!?何っ──」
「黙れよ。」
入室するや否や、オーラス・クルツが声を発する前に脳天をAS Valで撃ち抜く。サプレッサーで銃声を消された9✕39mm弾がオーラス氏の脳天を正確に貫き、後ろの壁と椅子に脳味噌をぶちまけながら絶命させる。
椅子に崩れ落ちるように倒れたオーラス氏に近づく。脳天をぶち抜いたのだから死んでいるのは確かだが……念には念だ。ホルスターからマカロフを引き抜き、サプレッサーを取り付けてから引き金を引く。
違う角度から脳天を撃ち抜かれたオーラス氏の死体がほんの少しばかりはね、脳天から血を流しながら再び沈黙する。死体蹴りにも近い行為だが──殺すなら確実に殺すべきだ……それが暗殺なら尚更である。
「ゴースト1、標的の殺害を完了した。」
「良くやった。よし、撤収──いや待て。」
異変を感じ取ったのか、ヴィンセントが廊下の方に耳を澄ます。この感じ、恐らく──
「───感づかれたようだ。」
「みたいだな……どうする?」
ヴィンセントに指示を仰いだその時、館内放送で大音量の警報と共にアナウンスが流れる。
『──緊急事態発生、緊急事態発生、建物内部で死体を発見、敵の侵入にあった可能性有り、警備員は速やかに状況を確認せよ。繰り返す──』
「……移動するぞ、此処じゃ逃げ場がない。」
ヴィンセントと共に廊下に出て移動を開始する。恐らく血痕を見つけた誰かが通報したのだろう……まぁ発見を遅らせる程度の偽装なのでバレても問題はないのだが。
来た道とは反対の階段を降りて1階の廊下へと出る。曲がり角を抜けた先には慌てた様子の警備員達がUMPや拳銃を持って現場へと向かおうとする最中であった。
「やるぞ。」
「了解。」
ヴィンセントはAK-12を、俺はAS Valを構え、慌てふためく警備員の脳天に向かって5.45✕45mm弾と9✕39mm弾をぶっ放した。
ガクンと力が抜けるように血を流しながら倒れる警備員。仲間の異変に気づいた他の警備員が此方にUMPを構えて撃とうとするが──遅いな。
警備員が構えている間に緊張でシワの寄った眉間に銃弾を叩き込む。悪いが射撃準備が整うまで待つ義理は無いんでな……とっとと死んでくれ。
不利と感じたのか、警備員達が曲がり角の奥に身を隠し始める。一旦体制を整えるのは良い判断だが──今回ばかりは相手が悪かったな。
AK-12を背負ったヴィンセントが手鎌を引き抜き、忍び足で猛ダッシュして突っ込んで行く。心なしか目がギラついていたのはきっと俺の気のせいなのだろう。
勢い良く接近したヴィンセントが鎌を斜めに振りかぶり、UMPを撃とうと顔を出した警備員を脳天から一気に斬り裂く。何の抵抗もなくスルッと入った刃が頭部を斜めに両断し、後ろに控えていた警備員に生暖かい脳味噌と血飛沫を撒き散らす。
そのまま鎌を逆手持ちにしたヴィンセントは血塗れとなった警備員の頭を帽子ごと掴み、鎌を横薙ぎにして警備員の首を一閃して跳ねる。首と胴体が綺麗に寸断され血飛沫が噴水のように吹き出すのを意に介さず、恐怖で硬直した他の警備員達にヴィンセントが襲い掛かる。
……ここは任せるか。
階段付近はヴィンセントに任せ、警備員の詰所へと足を踏み入れる。先程から物音がしている事から察するに、まだ中に警備員が何人か居るはずだ。
開け放たれた扉を抜けて中に入ったその時、横の壁と目の前のデスクに銃弾が突き刺さる。すぐ様デスクの端に身を隠し、AS Valを一度背負って代わりにM500カービンを取り出す。一呼吸入れて床を蹴り、姿勢を低くした状態で回り込むように奥の警備員達に詰め寄る。
唐突な急接近に対応し切れていない警備員達に向かって、M500カービンで12ゲージ散弾をプレゼントする。解き放たれた散弾が警備員達の肉を抉り、鈍痛にも似た痛みを彼等に与える。フォアエンドをスライドし次の散弾を装填、今度は至近距離で警備員の頭部を吹き飛ばす。
グチャグチャのミンチになった警備員を蹴り飛ばし、フォアエンドをスライドしてからもう一度散弾をお見舞いする。別の警備員の顔面を抉り取った散弾は後ろでUMPを構える警備員にまで被害を及ぼし、その衝撃で引き金が引かれたUMPが誰もいない天井付近を穴だらけにする。
痛みで錯乱した警備員のUMPを蹴り飛ばし、M500カービンを左手で保持しつつ肩からコンバットナイフを引き抜き、逆手持ちにして警備員の脳天を真横から刺し貫く。
脳天を貫いたナイフから手を離し、此方に掴みかかって来ようとする血塗れの警備員を裏拳で殴り飛ばす。脳天を揺さぶられた警備員がよろめいた為、ホルスターからマカロフを引き抜いて脳天に2発銃弾をプレゼントする。
「……これで全部か。」
警備員の頭に刺さったままのナイフを引き抜き、警備員の服で血糊を軽く拭ってから肩のナイフケースに収納する。
「よいしょ……痛っ…」
ちょいちょい飛んでくる拳銃弾が頬や肩口に掠っていたのもあり、身体の至るところが痛い。傷は然程大きいものではないが、万が一を想定して回復錠剤を口に含む。
歯で噛み砕いてから飲み込み、薬剤を身体に浸透させる。ほんのりオレンジが香る錠剤を飲み込んだ後、掠った傷口の具合を確かめる。先程まで血が流れていた傷口は瞬時に再生し、元の綺麗な肌に戻っていく……あんまり見てて気持ちの良いものじゃないが、効果は確かなんだよなぁ…。
「終わったか?」
後ろからヴィンセントの声がした為振り向く。そこには返り血に塗れ、元の服の色が分からないレベルで真っ赤に染まっていた。どうしたらそうなるんだよ……モツ抜きでもしたんか戦場で。
「終わったけど……凄い血だな。」
「ん?あぁ……返り血だ、問題ない。」
いや問題あるだろ。主に俺の精神衛生上…。
仕方ないのでポケットからハンカチを取り出し、ヴィンセントに手渡す。
「せめて顔くらい拭けよ……色男が台無しだぞ?」
「む……そんなにか。」
素直にハンカチを受け取ったヴィンセントが顔を拭い、滴るほどに付着していた血液を拭き取る。
「ありがとう、後で洗って……いや、新しい物を買い直すよ。」
見るとハンカチは血で真っ赤に染まり、およそ洗濯程度では取れない程に汚れていた。
「気にすんな、安物だしな。」
「そう言う訳には……いや、後にするとしよう。」
「そうだな、今はとにかく此処を出ようぜ。」
血塗れの詰所で話し続けるのも変な話だからな…。
さっさと帰って、こんな場所からはオサラバするとしよう。
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