平和ガ求メシ殺意
メルトの自室、8号室にて。
自室にあるガンラックの扉を開き、今回の作戦に使う改造銃を探す。たしか棚の二段目に……あった。
取り出したのは消音性を高めつつ、可能な限り火力を追求できるように改造したソ連製アサルトライフルの『AS Val』、その改造型である。
サップレッサー付近を改造してより消音かつマズルフラッシュの少ない物へと換装し、排莢部に薬莢受けとなるプラスチックケースを取り付けてある。またレシーバー上部にピカティニーレールを設置し、よく使うレッドドットサイトを取り付けてある。
射程距離はあまり長くないが、大口径の9✕39mm弾を使用するライフルである為火力は十分な代物であり、閉所でもストックを折り畳む事ができる為、室内戦でも使用可能となっている。
初速が遅いのは欠点だが、消音性を高める為必要な犠牲である上、コイツを使用するのは暗殺成功までである。暗殺を完了してしまいさえすれば、見つかろうが爆音を撒き散らそうが関係ないのだから。
敵地に潜入する以上、可能な限り装備は軽量である事が望ましい。しかし万が一発見された際に、敵兵を排除できる程度の武装は用意しておく必要性がある。
そこで俺が用意したのが、改造を施した『モスバーグM500』である。コイツは前に前線司令部を強襲した際に使用したショットガンであり、今でも時々使用しているお気に入りでもある。ストックの代わりにピストルグリップを取り付け、M3サブマシンガンのようなワイヤーストックを装着し、銃身を少しばかり切り詰めてあるカービン仕様のショットガンだ。
サプレッサーは……いいや。コイツにまでサプレッサーつけたら荷物が余計に嵩張っちまう。
サイドアームはいつもの『マカロフPM』。防衛部隊に入隊した頃から使ってる相棒だ。古めかしい自動拳銃ではあるが、長く使えばそれだけ愛着が湧くものである。
でもまぁ……さすがにマガジンの脱着機構だけはどうにかしたけどね……下側に脱着ボタンがあるせいでマガジン交換が非常にやりづらかったのだ。
尚、ジャックに相談してみたら片手間で他の拳銃同様、脱着ボタンを左側面上部に変えてくれた。お陰で非常に使いやすくなり、普段携行する拳銃にもコイツを採用し続けている程には持ち歩いている。
とはいえ今回は潜入だ……念の為サプレッサーを持っていくとしよう。あぁ、銃口にサプレッサーを取り付ける為のアダプター(モーリス作)も先につけておくか…。
銃の準備を終え、タクティカルスーツの上から新設計された軽量型ボディアーマーを着込み、その上からチェストリグを装着する。『AS Val』のマガジンをポーチに仕舞い、別のポーチにはショットガン用の12ゲージ散弾をしまっておく。小さめのポーチにはマカロフのマガジンを仕舞っておき、肩のナイフケースには愛用のコンバットナイフを収めておく。
それから腰の後ろに薄いウェストポーチを取り付けておく。普段ならリュックタイプの鞄を使うが、潜入任務においては嵩張るだけだからな……必要最低限の物が入ればそれでいい。ちなみに中身はスキットルタイプの水筒と飴のみである。出先で飲み物と嗜好品は大事だからな…。
あとは手榴弾とスタングレネード、それと回復錠剤か。回復錠剤とは毎度お馴染みタザニアを粉末状に加工したものを調整用の薬粉末と調合し、錠剤の形状に固めたものだ。服用する事で外傷部が再生し、患部を瞬時に元通りにしてくれる優れものであり、何より即効性がある為、戦場では広く使用されている。
とはいえ国によって効果の差はハッキリとしている為、選ぶならアメリカか日本、オーストラリア製をオススメする。それ以外の国だと遅効性だったり、副作用が酷かったりと散々な目に合うので止めといた方がいい。
ちなみにこの回復錠剤はアメリカ製だ。ちゃんと効くし即効性、副作用も無い高品質の錠剤である。
にしても便利だよなぁ、タザニアって。採っても次の日には生えるし、年中生えてるらしいし……異空間様々だな、まったく。
最終確認を済ませ、『AS Val』を持って外に出る。外には輸送ヘリが待機していて、そのすぐ近くにヴィンセントが待っていた。
「悪い、待たせた。」
「いやいや、まだ5分前だろう。私もさっき出てきた所だ……準備はいいか?」
「あぁ、何時でも行ける。」
銃もある、ナイフもある……殺す準備は万端だ。
「よし……では、乗り込むとしよう。」
ヴィンセントに続いて輸送ヘリに乗り込む。今回搭乗するヘリは前回同様、隠密性を追求した技術部謹製のステルスヘリ『HH-7』だ。一定以上の高度を保つ事で地上から音による知覚が不可能となるその性能は、防衛部隊時代から今に至るまで使い続けられるのには十分な性能であった。
護衛に同型の『HH-7』を2機程つけるらしく、よく見ると兵員室には空軍所属の兵士がドアガンの最終チェックをしていた。『HH-7』には武装が機関砲しかない為、有事の際には彼等に頼る事になるだろう……まぁ見つかる事はないのだが。
兵員室に乗り込んで壁に取り付けられたベンチに座る。ヴィンセントも対面に座り、銃のチェックをしているようだ。
彼が手に持つ銃はソ連製アサルトライフルの『AK-12』であり、俺がよく使用している『AK-15』の5.45✕39mm弾バージョンである。銃口にサプレッサーを取り付け、ホロサイトとブースター、フォアグリップを取り付けた標準的なカスタムを施してあるようだ。
それに腰にあるのは恐らく『グロック17』だろう。自動拳銃の中でもかなり有名なグロックだが、軽量さと装弾数の多さ、高い信頼性という長所は、サイドアームとして運用するのには最適な拳銃と言えるだろう。
そして腰の後ろから除く専用ケースと長めのグリップ……あれがヴィンセントの愛用武器である手鎌なのだろう。サイレントサイスという異名が付けられた理由であり、この鎌を使って戦場を駆け巡る姿は正に死神の様であったと噂されている。
今回もその腕前を、頼りにさせて貰うとしよう。
暫くしてヘリのローターが回転を始め、機体が徐々に離陸し始める。護衛の『HH-7』も離陸を開始し、輸送機の左右をカバーする様に移動を開始する。浮遊感と共にヘリの高度がどんどん上がっていき、先程まで見えていた拠点の防壁も上から見下ろした模型の様に小さくなっていた。
「……そういえば、コールサインを伝えていなかったな。」
「……あぁ、そういえばそうだな。」
本来、コールサインは決まったものを使用する事が多く、小隊や分隊規模で割り振られたものを使い続ける事が多い。俺達のようにコールサインがコロコロ変わる方が珍しいのである。
「今回は暗殺任務だからな、前にも使用した『ゴースト』をコールサインとしよう。今回はジャックがいないから、君がゴースト2だな。」
「了解。……にしても暗殺任務とか随分大胆な作戦だよなぁ……まぁ何かしら狙いはあるんだろうけど。」
「まぁな…。余り大手を振って言える話じゃないが、それだけオーラス・クルツが革命派の中で影響力を持つと言う事になる……身も蓋もない事を言えば戦争終結には邪魔な人間と言う訳だ。」
平和の為に、邪魔な人間に消えて貰うねぇ……戦争を終わらせる為とはいえ、残酷な話ではあるよなぁ。まあクソ野郎に人権なんぞ無いのだが。
最近はそういった国家転覆やテロ、戦争誘発行為を行った人間を人権剥奪刑に処するという刑罰も生まれるくらいだ……戦争が終わっても平和になる事は無いのかもしれないな…。
……いや、そもそも平和なんてないのか…?
分からない……平和を取り戻し、皆を守る為に戦う俺達は、最終的に何処に辿り着くんだ…?
日常的にニュースで流れるテロや紛争は終わる兆しを見せないし、街中で自分達の利権や思想のみを強調して掲げる人達も少なくはない。
……いっその事、そういった人々を纏めて消し去れば平和になるのではないだろうか………いや、この考えは良くないな。このやり方は歴史に最悪の形で名を残した独裁者達と同じ末路を辿る羽目になる。
──それだけは、絶対に回避しなければ。
「………メルト君、大丈夫か?」
「…あ……あぁ、すまん……考え事をしてた。」
今は作戦前だ……余計な事は考えず、任務に集中するとしよう。
「………無理はするなよ。」
「…?あぁ、分かった。」
『──作戦領域マデ、残リ5分デス。兵員室ノ皆様ハゴ準備ヲ。』
スピーカーから機械音声のアナウンスが流れる。もう間もなく降下地点だな。
「今回の作戦は白昼堂々行う暗殺作戦だ。よって革命派拠点の内部には将官を含む兵士達が大勢いる……見つからないように気は配るが、可能な限り迂回しつつ行くぞ。それと───目撃者は消せ、いいな?」
「──了解、確実に消す。」
「よし……『ゴースト2』、武装及びパラシュートの最終チェック。」
背中のM500はキチンとセーフティを掛けてあるし、マカロフも同様にセーフティを掛けてある状態でホルスターに収納してある。肩のナイフもキチンと固定してあるし、スリングから下げた状態のAS Valもキチンとセレクターバーがセーフティに固定されている。
小型のパラシュート装置から展開用の紐を引っ張り出しておけば……準備完了だ。
「ゴースト2、オールグリーン。」
『作戦領域上空ニ到達、降下開始。繰リ返ス、降下開始。』
「よし……行くぞ。」
兵員室のドアが自動的にスライドし、眼下に雲に覆われた空が広がる。猛烈な風が吹き荒び、ほんの少しだけ肌寒さを感じ始める。
「──降下開始!」
ヴィンセントが先に降下し、それに続く形で俺もヘリから飛び降りる。被っているヘルメット越しに感じる風圧に若干肝を冷やしながら、周りに阻む物が何も無い大空を勢い良く降下していく。
ちなみにこのヘルメットはこの前ジャックが被っていた物と同じモデルだ。簡易デジタル表示もあるし、フェイスガードとしても機能する万能ヘルメットである。
ヘルメットに取り付けられた一体型のイヤーマフから、ヴィンセントからの通信が聞こえ始める。
『ゴースト1よりゴースト2、パラシュート展開。』
ヴィンセントがパラシュートを展開したのを確認してから、俺も紐を引いてパラシュートを展開する。黒塗りのパラシュートが展開されたと同時にステルス迷彩である"インビシブル"が起動し、パラシュートに触れている俺ごと透明化を開始する。
未だにコイツの仕組みは良く分かっていないが、光に関する工学技術や粒子工学なんかを勉強すればいずれは分かるようになるのかもしれない。……多分分かる日は来ないだろうが。
先に降りていたヴィンセントが着地した地点に俺も着地し、パラシュート回収装置のピンを引き抜いたあとボタンを押す。シュルシュルとパラシュートが巻き取られていき、小型の装置の中にすっぽりと収納されていった。
降りた地点は拠点の裏側……オーラス・クルツがいるであろう作戦司令部がある建物のすぐ近くだ。
「行くぞ……ゴースト隊、作戦開始。」
「了解……作戦開始。」
待っていろオーラス・クルツ……今その首を刈り取ってやる。
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