兆し
革命派の工作部隊を殲滅してから数日、戦団拠点の宿舎にていつものメンバーでブリーフィングが行われていた。議題はもちろん、ここ数日間なんの音沙汰もない革命派の動向についてだ。
地下通路掘削を妨害してからというもの、革命派がエリア021に侵攻する事も、新たな部隊を浸透させる事もなくなっていた。兵力の温存程度には考えていたものの、情報がない以上迂闊に動けないのが現状であった。
そんな中、ドイツ本国に潜伏していた大統領直轄の諜報機関3iから1通の知らせと共に画像が幾つか送られてきた。
画像に写っていたものそれは───
────工場内で大量生産される、シンプルな外見の戦車達であった。
エメラルドカットの様なシンプルなフレームに大口径の主砲が搭載され、砲塔上には機関銃の様な物が確認できるそれは、素人目に見れば思わず戦車だと呟いてしまう程にまごう事無き戦車であった。
よく見ると写真に写る戦車の奥には、爆発反応装甲を取り付けられた同型の戦車が写っており、この戦車が現代戦で活躍する主力戦車である事を示していた。
「全員、写真は確認できたね?ソイツは革命派が保有する工場内で撮影された主力戦車だ……どう見ても最新型の、これまでの革命派が主力で使ってきた旧式装備でない新しい代物だ。これが何を意味するか…分かるかい?」
端末を片手に情報を共有していたヴァネッサが、いつもよりも深刻な面持ちで言葉を紡ぐ。仕方のない事だろう……先日まで旧式の装備で戦い、フランスに供与まで受けて戦っていた革命派の連中が、各国の主力戦車にも匹敵する可能性のある新型主力戦車を製造していたのだから。
「……兵器の性能差で、アドバンテージを得られなくなったのか…。」
「その通り。アタシ達がこれまで革命派の奴らをぶっ潰せてきたのは、兵士個人の練度と兵器の性能差が勝っていたからだ。アナライザーには最新式のアナライザーを、戦車にはより最新型の戦車と爆撃を、航空機にはアナライザーと対空設備をと……なんとか優位な状況を作り出していっただけに過ぎない。」
まぁ、俺達の戦術はアナライザーによる各個撃破か面制圧の爆撃or砲撃で纏めてふっ飛ばす事が多かったからなぁ……旧式ならそれで何とかなってたけど、今後は一筋縄じゃ行かなくなるってことか。
「アタシ達は3iを通して、異空間内の情報はある程度仕入れる事ができていた。隣接する異空間なだけに情報が真っ直ぐ入ってくるからねぇ……でも、本国の方はそうもいかない。その潜入員が情報を持ち帰り、アメリカ本国まで持ち帰るのにどうしてもタイムラグが生じるのさ。ま、持ち帰るって言っても暗号化と秘匿性を高めた状態にデータを変化させて、本国に送信するだけなんだけどね。その辺は時代の流れってやつさね。」
実際、異空間内に於いてはまだまだ情報戦対策が緩い場所が多く、この近辺でその対策網が厚いのはウチの拠点と国境線付近くらいである。
情報戦が活発な現代において、もはや本国で国を跨いだ情報のやり取りは自国の首を締めるに等しく、各国のスパイ達は相当な苦労を強いられているらしい。実際そのせいでスパイを降りる部下が激増したのだとか。
「んじゃ何ダ、こっちも新兵器作って対抗でもすんのカ?」
ジャックが指先でペンをクルクル回しながら呟く。………何でペンをサッカーボールみたいに指先で回してんだ…後で教えろよそれ。
「それもあるが……先に物量をどうにかする必要があるさね。現状、アタシ達には圧倒的に兵力とそれに伴う兵器群が不足してる。海上部隊はともかく航空部隊と陸上部隊が圧倒的に足りてないのさ。」
「航空部隊は無人機か樹脂人形だし、陸上部隊はほぼ私達だもんねー?」
アンジェがお茶請けのクッキーを食べながら呟く。
俺達は基本アメリカと同盟関係にある独立した軍事組織に過ぎない。それ故に大規模な軍事力は持ってないのが普通ではあるのだが……今は戦時中だ。国ではないからと言っている場合ではないのかもしれない。
「とまぁ色々言ったけどね、端的に言えば軍事力が足りてないって事さ。と、言う訳で───」
「──軍隊、持ってみないかい?」
「「「「「「は???????」」」」」」
良い顔で腰に手を当てて何を言ってるんだこの人は。
「なーにアホ面晒してんのさ。軍事力が足らないなら軍隊作って増してくしか方法ないだろうさ。違うかい?」
違わんけど。違わんけども…。
……色々と、急だな。
「軍って、具体的には?」
「そうさね、現状だと陸軍、海軍、空軍、諜報軍、そして特殊部隊の5つになるかねぇ…。今後増えるかもしれないけど…ま、それは追々ね?」
想定以上にガチの軍隊を創る気だな…。にしても特殊部隊を他と区切ったのが気になる。
「……特殊部隊は他と区切るのか?」
聞きたい事をヴィンセントが聞いてくれた。流石はヴィンセント、よく分かってる。
「あぁ、それはアタシ達の事さね。特殊部隊って名称はまぁ……まだ名前決めてないから暫定的にって感じさ。他の軍部にも特殊部隊は設置するつもりだよ。」
「俺達だけ別の部隊って事か?」
「簡単に言えばそういう事だ。アタシ達は多種多様な戦場に出る羽目になるからねぇ……下手に一つの軍部に所属すると、指揮系統がごっちゃになりかねないのさ。だったら最初からアタシ達だけは別にしといた方が色々と都合がいいのさね。」
「なるほどな…。」
確かにアナライザーで陸軍の仕事したり、アナライザー空母から発艦したり、アナライザーで航空機撃墜したり……アナライザーばっかだな。
それに生身で戦う時は、大体このメンバーで動く事が殆どだしな……下手にこの連携を崩さない方が、戦力低下を招き辛いか。
「既にヘンリクとは話を進めてたんだが、言い出すタイミングが中々無くてね。アチラさんの軍拡に乗じて、アタシ達も軍拡といこうじゃないか。」
話を振られたヘンリクが頷きながら説明を始める。
「……既にブラウン大統領及び各軍部のトップとは話をつけてある。海軍以外の部署には、アンデルセン大将同様にアメリカ軍の元軍人を配属する事となっている……具体的には、アンデルセン大将の同期だ。」
戦団の海上部隊を指揮し、自らも空母トパーズ・ミネラルに乗艦して戦場へ出るアンデルセン大将。中々に癖のある人物ではあるが、軍人とは思えない程の砕けっぷりには中々に驚かされた覚えがある。そんなアンデルセン大将の同期か……また濃そうな面子になりそうだな。
「海軍はそのままアンデルセン大将に着任してもらう予定だ。名称未定の特殊部隊には、私が担当する事になっている……つまりはいつも通りと言う事だ。」
いつも通りか、そりゃあ良い。何事もいつも通りに進むのが一番だからな。
「さて、それじゃあ話を少し戻すよ。革命派の動向だが、軍拡を始めた以上近日中に攻勢に出る可能性が非常に高い。写真の主力戦車を投入してくる可能性を鑑みるに、これまで以上に規模の大きい攻勢になる可能性がある……ここまではいいかい?」
全員が頷きつつ話の続きを待つ。それをみたヴァネッサはしたり顔で説明を再開し始める。
「それじゃあ今後の動きを説明するよ、よく聞きな!ヘンリク、アンタはトリシャと二人で各軍部との打ち合わせを綿密に行いな。海軍は……まぁ放っといても勝手に上手い具合にやってくれるだろうけど、他の部署は新規勢だ、同期だから大丈夫だろうが上手く立ち回んな。」
「ふむ…次の攻勢が開始されるまでに、戦術プランを練っておくとしよう。」
「トリシャ、ヘンリクの手綱は任せたよ。」
「はい、お任せ下さい♪」
横のヘンリクが冷や汗かいてんのめっちゃオモロイ。普段はクールな感じなのに変なタイミングではっちゃけるからなぁ……ヘンリク。
「アンジェ、ジャック。アンタ等はアタシと一緒に物資の買い出しに回るよ!」
「え、私も!?」
アンジェが意外そうにヴァネッサに問い掛ける。
「アンタがいれば買い付け先のジジババが値引きしてくれるのさね……ったく、あの年寄りどもめ。」
まぁアンジェは年寄り世代からすれば孫娘みたいなもんだろうしなぁ……孫に小遣いあげる感が凄いんだが、あげるものが軍需品なのがな……複雑である。
その証拠に、アンジェが何とも言えない顔してる。すっごい渋い顔してるな……ドンマイ。
「………俺は何でダ?」
ジャックがペン回すの止めてまでヴァネッサに問い掛ける。そりゃまぁ気になるわな……アンジェの理由がアレなんだし。
「ん?あぁ、アンタはシンプルに買い付け用員だよ。アンタ顔が広いからねぇ……上手い具合に安く購入してくれると助かるんだけどねぇ。」
「oh……思ったよりもシンプルな理由だナ。」
ホッとしてるジャックがサムズアップして来たのでサムズアップで返しておく。会議中に何やってんだ。
「そしてモーリス、メルト。アンタ等は技術部の面々と兵器開発と増産を急ピッチで進めな!アチラさんの兵器がかなりのペースで増産されている以上、少しでも多くの兵器を用意する必要があるからね!」
采配は理解した。理解したんだけど……
「……なんで、俺?」
俺は別に技術部の人間でも、開発部門の人間でもないんだが………。
「アンタこの前の『ヤタガラス』といい、兵器開発方面の才能が割とあるみたいだったからねぇ。もうこの際アンタもモーリスと同じように技術部門担当になればいいんじゃないのかい?」
技術部門担当か…確かにありかもしれない。個人の範疇では作れない兵器も多いからな……技術部ならより大きな規模で製造できるし、細かい部分まで詰めやすい筈だ。
モーリスもやたらとサムズアップしてくるし、技術部門担当…引き受けてみるか。あとサムズアップはなんなんだ、流行ってんのか…?
「采配は以上、各自仕事に取り掛かんな!堂々と軍拡してやがる戦争バカ共に、軍事力の差を見せつけてやるんだよ!!!」
「「「「「「「応!!!」」」」」」」
見てろ革命派共……世紀の大軍拡を教えてやるよ。
お読み頂き、ありがとうございますm(_ _)m




