安静
飛来する徹甲弾を文字通り粉骨砕身アッパーしたその後、俺は拠点の医療機関に運ばれた。
運ばれた先は前と同じ"ピオス・ホスピタル"。運ばれた先で受け入れの準備をしていたノーザック氏に、「君は何故、毎度毎度大怪我をして此処に来るのかね。」と苦言を呈されたがそれはさておき。
今回は意識もあったことから、外傷の治療のみで退院出来る事が決まった。前に肩をぶち抜かれた時にも使用した『タザニア』という植物から精製される外傷再生治療薬、通称『アンプル』を投与され、傷だらけだった身体は綺麗に元通りになっている。
この薬、再生するのはありがたいんだけども、その光景がだいぶショッキングなんだよなぁ…人によっては気を失うんだとか…。
そんなショッキングな薬を投与された事により、俺は既に治療を終えることが出来ていた。本来であれば経過を見る為にも入院すべきとの事だったが、せんじちというのもあり入院は断らせて貰った。まぁその分宿舎での安静を言い渡されたが……仕方ない。
少しの間は、出撃そのものは控えるとしよう。
ノーザック氏に見送られ、宿舎に戻り一度ガレージへと足を運ぶ。大破……というかほぼ全損にも等しいレベルで破壊された俺の機体『デュランダル』の様子が気になったのだ。
ガレージに入ると、いつも機体を格納している場所にワイヤーで宙吊りにされた俺の機体が格納されていた。先の戦闘からあまり時間が経ってないのもあり、修復作業すら始まっていない状態のようだった。
「お?坊主じゃねえか!怪我はもういいのか!?」
機体の前で端末に表示した図面を見ていた整備スタッフのランドルフ氏が、俺に気づいて声を掛ける。
「あぁ、怪我自体はもうなんともないよ……一応安静との指示は貰ってるけどな。」
「がっはっは!そいつは良かったぜ!このレベルで大破させといて、最早生きてるのが奇跡だかんな!」
………それを言われると申し訳なくなるな。
「オイオイ、そんなツラしてんなよ?機体なんざ幾らでも壊しゃあいいんだよ。お前さん達が無事に帰って来る方が、何億倍も大事なんだからよ!」
ニッと歯を光らせながら良い笑顔でサムズアップするランドルフ氏……相変わらず、気持ちの良い人だ。
「……ありがとう。」
「おうよ!……しっかしまぁ、コイツをどうするかだなぁ……。」
そう言って、二人揃って『デュランダル』を見上げる。両腕は外れ、左腕に関しては肘から先が無くなっており、右腕に関しても手のマニピュレータが全損してしまっている。頭部も首付近のフレームを残してほぼ圧壊しており、ほんのり原型がわかる程度にしか、形状を保っていないという始末だ。
極めつけは胴体部分の損傷だ。フレームの頑丈さとタザナイトを含有した複合装甲の再生機能を極限まで使用して体当たりを敢行した結果、腰の右側から左肩付近まで一直線に装甲が粉砕されてしまっている。
コックピットの上部は完全に露出してしまっており、衝撃と破片によってメインモニターを含む液晶画面は全てヒビが入ってしまっていた。
…………よく生きて帰れたな、俺。
「いっそのこと、フレームを含む設計を一新してみるかぁ…?」
「出来るのか…?」
「まぁ、出来ない事はねぇよ。コイツの元になった機体の『SB-1』も、その改良型のコイツも十分にデータは取れてるしな。製造元のサクセス・コーポレーションからも、新型機製造の提案も来てるし…丁度いいか。」
どんだけ懐が深いんだあの企業……流石大企業。
「ひとまずこっちで設計しておくから、完全次第次第図面を見せるぜ。」
「あぁ、よろしく頼む。」
さっそく設計に取り掛かったランドルフ氏と別れ、俺は宿舎へと戻った。リビングにはヴィンセントとアネッサ、トリシャと……キッチンでグラスを磨くジャックがいた。
「おや、戻ったのかい?……その調子じゃあ、怪我は大丈夫そうさね。」
机で資料を見つつコーヒーを飲んでいたヴァネッサが安心したように息をつく。退院の経緯を説明しつつ、ジャックに飲み物を貰って俺もテーブルにつく。ちなみに貰ったのは緑茶である。好きなんだよな、日本の緑茶…。
「ひとまず、メルト君は出撃を控え、トリシャと共に後方支援を担って貰う。ドローンや敷設兵器、樹脂人形部隊の運用等、忙しくなるぞ。」
ヴィンセントが報告書を書き上げつつ説明してくれる。仕事が貰えるのは、個人的にはありがたい。
みんなが戦っている最中、俺だけ休んでいるなんてごめんだからな…。
「ふふっ、頼りにしてますよ?」
トリシャが椅子ごとクルッとまわって微笑む。……可愛いかよ。
「あぁ、任せてくれ。」
普段任せっきりな分、しっかりと支援をこなすとしよう。
「とはいえ現時点での出撃はない。警戒態勢は継続だが……せいぜい偵察する程度に留める予定だ。」
ヴィンセントによるとまだ敵方の情報は入ってきていないようで、しばらくは国境付近の警戒及び無人機による警戒・偵察任務に留めるらしい。
本格的な戦闘は、情報が入手でき次第ということだ。
ひとまずは俺を無人機での索敵用員として割り振る予定だそうだ。まぁ既に何度かドローン操縦の訓練は受けている。しっかりと索敵して、革命派連中の行動を筒抜けにしてやるとしよう。
……ところでドローンでの出撃は安静に含まれてるのだろうか?………まぁいいか。
ノーザック氏に睨まれている気がしなくもないが、気にしない事にした。じっとしてるのは好きじゃないんだよなぁ…。
トリシャから資料を貰い、リビングから出てリモートルームに向かう。前にフランス製装甲車両『CRE-90』の無人改造型を操作した時も、このリモートルームでポッドに搭乗しての出撃だったのが今では少し懐かしい。
ポッドの開閉ボタンを押して蓋を開け、中に設置されているシートに座る。電源を入れるとモニターに認証画面が表示され始めた。
【メインシステム─起動───接続開始────接続完了──ユーザー認証──スキャン──ユーザー名─メルト──認証完了──リモートシステム─オールグリーン】
システムが立ち上がり、画面にConnectionと表示される。その後使用可能な無人機のカテゴリがリスト表示されたので、『航空』項目の『ドローン』を選択する。
画面が切り替わり、いくつかの無人ドローンが表示される。あの頃に比べると採用されている機種も増えているらしく、現に6種類のドローンが使用可能となっていた。
今回はそのうち、偵察に向く『XQ-7C』というドローンを選ぶことにした。
『XQ-7C』はアメリカのアチーブメント・カンパニーという航空業界のトップシェアを持つ企業が製造した汎用無人戦闘ドローンで、『XQシリーズ』というアチーブメント・カンパニー製のドローン製品の第7世代の代物であり、その中でも偵察や哨戒に特化したモデルがこのCモデルである。
連続稼働時間が30時間を超える新型バッテリーを動力とし、6つの静音ローターで長方形の本体を静音飛行させる事のできる優秀なドローンであり、胴体下部には固定武装の『ブローニングM1919XQ』が装備されている。この武装は元になったブローニングM1919をアメリカ軍が退役させたのを切っ掛けにアチーブメント・カンパニーがブローニング社に打診し、新たにドローンの専用機関銃として生まれ変わらせた代物であり、結果的にブローニング社とアチーブメント・カンパニーが強固な関係性を築く大きな切っ掛けとなった製品でもある。
.30-60スプリングフィールド弾というアメリカの古き良き銃弾を使用する本製品は武装の運用コストが安い事から同盟国でも積極的に採用されている製品であり、その採用実績の高さがこの製品の優秀さを物語っていると言っても過言ではないだろう。
偵察型のCモデルには懸架式の小型ハードポイントのみが追加要素として存在しているが、他のモデルではミサイルやライフルといった追加武装を搭載する事もできるのだとか…すげぇな。
今回は偵察だしハードポイントは……まぁいいか。
端末を操作し、車両庫にある『XQ-7C』にアクセスする。画面が切り替わり、接続画面が表示され始める。
【──リモートシステム──コネクション───接続完了──システム─オンライン──サポートシステム──起動─オールグリーン───全システム──起動完了】
起動完了と同時に画面にカメラの映像が表示され始める。ローターの回転数を上げて上昇しつつレバーを操作して車両庫からドローンを出撃させる。
青と水色、そして灰色のデジタル迷彩に塗装された『XQ-7C』が高度を上げ、偵察ポイントに向かって速度を上げて飛翔する。
俺が今回任されたのは先刻ヘンリク達が破壊した中規模工場の付近及びそこに隣接する荒野だ。こちらがアクションを起こしている以上、連中も何かしらの行動を取っている可能性が高い。
さぁて、せいぜい上空から奴らの行動を丸裸にしてやるとしようか。
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