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朧火の意志  作者: 布都御魂
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崩壊と意志の狭間で


『──トルトニス3よりスヴェルチーム!榴弾砲による第一射を防ぐ事叶わず!直ちに迎撃態勢を整えな!!!』


スピーカーの向こう側から、ヴァネッサの焦燥の塗れた通達が響き渡る。どうやら間に合わなかったようだ。……まぁそのために俺たちがいるのだが。


「こちらスヴェル3。了解した、これより迎撃を開始する。」


アナライザーを操作し、迎撃用に搭載した武装を展開する。今回俺が迎撃に用いるのは、戦団製地対空ミサイル発射器の『メドゥーサ』である。これは戦団拠点の防壁上にも設置されている迎撃用のミサイル発射器であり、36連装の発射器から海軍でも用いられるRAM-116と同一のミサイルを発射する事が出来る生産ラインにも優しい優秀な代物となっている。


積載用のアタッチメントを使用する事でアナライザーに計4基搭載された発射器を、榴弾の飛来する方へと向ける。本来であればミサイルで榴弾を迎撃するなど机上の空論にも程があるが、飛来する榴弾の規模と滞空時間、ミサイルの物量、システムによるリアルタイム観測等の条件が重なり、迎撃に踏み切ることができていた。


しかしながら不安もある。圧倒的な物量のミサイルとはいえ、相手は圧倒的質量の巨大榴弾だ……迎撃に失敗し、そのまま着弾する恐れが十分にあるのである。念の為タザナイトコーティングを施したタワーシールドも用意してはあるが……こいつで榴弾を防ぐなんざ、考えたくもない。


『スヴェル3、まもなく榴弾が視認可能距離に入ります。用意はいいですか?』


「問題ない……準備できているよ、スヴェル1。」


スヴェル1──トリシャだ──に返答を返しつつ、ミサイルのロックオンシステムにアクセスする。新型機の望遠性能を最大限に用いて、飛来する榴弾をロックオンする。ロックオンと同時に発射口のカバーが開き、対空ミサイルの発射準備が完了したことを示す。


「スヴェル3、準備完了───斉射(サルヴォー)!」


システムにアクセスし、ミサイルを一斉射撃する。発射本数を絞って第二射とする事も考えたが、第一射で迎撃できない場合に同規模の第ニ射では迎撃が不可能であると判断し、一斉射撃に踏み切ることにした。発射器から計144発の対空ミサイルが榴弾目掛けて飛翔し、着弾と同時に大爆発を引き起こす。圧倒的な物量のミサイルは榴弾を爆炎で食い尽くし、破裂するような金属音を辺りに響かせた。


誰もが迎撃に成功し、あとに残るのは黒煙と熱風のみである────そう考えていた矢先だった。


『──何かくる!!!』


いち早く異変を察知したのは目視による観測員を担当していたアンジェだった。彼女の声に従い黒煙を注視すると、煙を突き破って尖った物体が姿を現す。


それは榴弾の破片でも、目標を見失ったミサイルでもなかった。灰色のボディに尖った先端、明らかに対象を貫く事を想定されたそれは、俺たちが迎撃しようとしていた榴弾とは全く違う代物であった。


「徹甲、弾……!?」


こちらに向けて飛来するそれは、爆発で周囲を吹き飛ばす榴弾などではなく、硬く鋭い弾頭で対象を貫く事を目的とした”徹甲弾”であった。それもただの徹甲弾ではなく、外側の砲弾部を装弾筒として切り離し、分離時に爆発する炸薬からもたらされる運動エネルギーを利用して超遠距離から徹甲弾を運用する、新しい形の『APDS』であった。


それを察知すると同時に、俺はタワーシールドを手に空へと駆け出していた。ブースターを煌めかせ、こちらへと一直線に飛来する徹甲弾にタワーシールドを用いたシールドバッシュを敢行する。タワーシールドの表面部と徹甲弾がぶつかり合い、機体を揺らす程の衝撃と花火にも似た猛烈な火花を散らす。


もちろん、アナライザー1機ごときで巨大徹甲弾を止められるとは思っていない。アナライザーと同規模のサイズをもつ徹甲弾なんざ、防げる訳もないのだから。でもだからといって、ここで何もせず立ち尽くすことだけはしたくなかった。


徹甲弾の運動エネルギーに押され、機体が徐々に後退していく。タワーシールドも表面のタザナイトコーティングが崩壊と再生を繰り返し続けている。恐らくもう少しで、再生に必要なタザナイトの残量が足らなくなるだろう────そう考えている内に、シールド表面のコーティングが遂に剥がれた。


何とか均衡を保っていたタザナイトコーティングが失われ、ただの金属盾と化したタワーシールドは瞬く間に穿たれ、タワーシールドは原型を留めず崩壊していく。咄嗟にタワーシールドから手を離し、左腕に搭載されている拡張式複合装甲盾『アテナ』を急速展開する。強烈な火花を散らしながら『アテナ』と徹甲弾が衝突し、コックピットに腕部の過剰負荷に対しての警報が鳴り響く。120mmクラスの戦車砲を防ぎきるこの盾であっても、流石に攻城兵器クラスの徹甲弾を受けきることは叶わないようであった。


「こ、な、くそおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


ブースターを最大限噴かせ、『アテナ』を傾ける事で徹甲弾の軌道を上に逸らそうと奮戦する。受けきれない以上、受け流して着弾位置を拠点から奥の荒野へと逸らすしかない。そうでなければ、自分もろとも拠点は徹甲弾にぶち抜かれる羽目になる。もうこれ以上、身体をぶち抜かれるのなんざごめんだ。


機体が軋み、盾が徐々に崩壊していく。軌道を逸らすといっても、巨大質量の弾頭を受け流すというのは、なかなかに骨の折れる仕事であった。『アテナ』も壊れ、残るはこの機体『デュランダル』のみ。もはや無我夢中で、徹甲弾を両腕で押し始める。『アテナ』よりも遥かに脆く貧弱な両腕はあっという間に崩壊を始めるが、そんなことは最早どうでもよかった。今のメルトを前に進ませているのは「護る」という強固な意志のみであり、機体の損壊など眼中になかった。


崩壊し、分離していった両腕に代わり、今度は胴体部でのタックルをお見舞いする。胴体にはタザナイトを含む複合装甲が採用されている為、崩壊すると同時に再生を繰り返すことができる。その機能を最大限に活用して、徹甲弾を上へ上へと押し上げていく。


『デュランダル』がメルトの意思に呼応するかのように、徹甲弾の軌道を着実に逸らしていく。ひっきりなしに鳴り響くアラートと機体の軋む音が混ざり合い、一種の咆哮のような音を響かせていく中、遂に装甲を修復するタザナイトが底をついた。


ガギンッという轟音と共に、機体の胸部装甲が斜めに抉り取られる。コックピット上部の装甲も同様に抉り取られ、コックピット内に破片の嵐が吹き荒れる。破片が強靭なパイロットスーツを貫通し、メルトに深々と突き刺さっていく。腕や脇腹に容赦なく突き刺さる破片が痛み、最早思うように体を動かすのすらままならない。









ここまでか………………。















…………。










……………………いや、まだだ。




薄れゆく意識を無理やり引き戻し、高らかに叫ぶ。




「───アナライザーは………思考でぇっ!俺の”意志”でっ!動くんだよおぉぉぉぉぉ!!!!!」




アナライザーの操作は”脳波の読み取り”によって行われる。各種計器はその補助的な要素であり、アナライザーそのものを動かすのは、操縦者本人の思考によって行われる。


────で、あるならば。


消えかけていたブースターが再び点火し、機体が再び弾頭へと接触する。


ぶつけるのは、唯一無傷な頭部装甲……!


「ッ………!!ふっ、とべやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」


ゴキンッという音と共に、頭部装甲が剥がれ落ちる。カメラアイを覆っていた頭部のフレームも酷く歪み、各所の配線からはスパークが走り始めていた。


最後の燃料を振り絞ったブースターが沈黙し、機体が自由落下を開始する。


そしてその頭上を、徹甲弾が過ぎ去っていく。





────────拠点のはるか先にある、荒野へと向かって。





轟音と共に、拠点から少し離れた荒野の一角が爆ぜ、砂煙が舞う。徹甲弾とはいえあの質量だ……ああして砂煙が高く巻き起こるのも、致し方ないだろう。




なにはともあれ、だ。




───護りきったのだ、みんなを。




しかしそんな事を考えるのも束の間、俺の機体は地面に向かって着々と落下し続けていた。もうなけなしの燃料も使い切ってしまってる……どうすっかな。


半ば諦めて祈ろうとしていたその時、唐突に機体が空中で止まった。よく見ると何かが俺の機体を抱えてくれているようで───────


『生きてるっ!?』


誰かを確認するまでもなく、アンジェが助けてくれたようだった。


「あぁ……生きてるよ。」


アンジェの機体が俺の機体を抱えたままゆっくりと地面に降り立つ。そして地面に俺の機体を降ろすや否や、ハッチを開けて昇降用ワイヤーを使ってアンジェが降りてきた。



その頬は、涙にぬれていた。



「もうっ!無茶しすぎだよっ!!」


アンジェが涙ながらに訴えかけてくる。申し訳なく思うと同時に、ほんの少しだけ、嬉しかった。


「ははっ………悪い…………。」


『──スヴェル3……メルトさん!ご無事ですか!?』


「────こちらスヴェル3、無傷とはいかないが、無事だとも。」


…………若干アンジェに睨まれている気もするが、気にしないでおこう。


それから程なくして、ヘンリクがやってきた。どうやら製造工場から全速力で向かってきてくれたらしい。額に汗を浮かべ、いつもと違って余裕のない焦燥に包まれたヘンリクを見て、不謹慎ではあるが少しばかり笑ってしまった。





────だってその焦りは、俺たちの無事を願ってくれた証なのだから。












お読みいただき、ありがとうございますm(_ _)m

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