焦燥
「前方より多数のミサイルが接近中!!」
「迎撃用意。全て撃ち落とせ!」
慌てふためく警戒部隊とは裏腹に、制圧艦隊の面々はいつも通り冷静であった。飛来するミサイル群に対して迎撃態勢を敷き、艦の被害を未然に防ぐ為の行動にでる。
艦橋付近に配置されたRAM-116からミサイルが発射され、赤外線センサーによって飛来するミサイルに向かって飛翔していく。
『ダイヤモンド・ミネラル級』には、戦団の艦艇に搭載される事の多い『ネオボックス』は搭載されていない。これは設計・製造がアメリカでの物であるという理由以外にも、近代化改修が施されていないからという理由が存在する。
『ダイヤモンド・ミネラル級』は航空母艦であり、基本的な運用方法は艦載機の発着にある。
その為艦載機の方に多くのリソースを割いており、『ネオボックス』の配備が二の次になってしまっているのである。とはいえRAM-116やファランクスCIWSといった対空火器は健在であり、十分な対空戦闘能力を持っているとも言える。
とはいえ対空戦闘に回す火器が少ないのは事実である為、素直に僚艦に頼る事にはなるのだが。
付近に展開する『AZL級フリゲート』に搭載されている『ネオボックス』が旋回し、ミサイルに狙いを定めつつ砲撃を開始する。現代においては二の次とされる対空砲撃だが、それはあくまでミサイルという賢い兵器が存在している為だ。ミサイル以上の即応性を持つ近接対空火器というのは、まだまだ運用するに値する物なのである。
現に敵方から飛来した対艦ミサイルを何発も撃墜しており、『トパーズ・ミネラル』のRAM-116と併用する事によって、艦隊への被害を0に抑えている。
「駆逐艦『ボリッシュ』に通達、同型と共に艦砲射撃を開始せよ。現代においても艦砲が通用する事を証明してやれ。」
命令を受託した『ボリッシュ級』が砲撃を開始する。対空戦闘をミサイルに任せることで対艦戦闘を主軸に置いたアメリカ製の速射砲が火を吹き、前方で奮戦する『ブロッケン級』や『モンドラン級』に着実なダメージを与えていく。上空に展開した航空機の対応に追われる警戒部隊の彼らに、その砲弾を回避する余裕は残されていなかった。
ステルス性という、現代における必須項目となった部分を優先するあまり、過去の厚い装甲をかなぐり捨ててしまったドイツ製のフリゲートに、容赦なく砲弾が喰らいつき爆裂する。
運悪く弾薬庫に着弾し、誘爆する事によって引き起こされた火災は、疲弊しきった彼らの精神を苛むのには十分過ぎるほどであった。
過剰とも言える程に砲弾が着弾する中、ついには上空から飛来した艦載機の放つ対艦ミサイル『M256バイパー』が容赦なく艦橋を食い破る。既に多くの僚艦が沈み、旗艦である『ブロッケン』も甚大なダメージを負い、最早まともに航行をする事すらままならない状況であった。
その結果彼等は撤退という選択肢を失い、ただただこの海域で命を掛けて敵艦隊を食い止める他、道は無かった。
そんな彼らは決死の覚悟で迎撃に挑みつつ、本国へと緊急通達を送る。例え此処で命を散らそうとも、此処で戦った自分たちの死を、無意味なものにだけはしない為に。
その彼らの決死の選択に、戦場の神は微笑むのであった。
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同時刻、襲撃艦隊所属『アクチラムス』にて、ヘンリク達『トルトニス』チームは着実にエリア022に存在する巨大兵器製造工場へと歩みを進めていた。
普段であればアナライザーか輸送ヘリでの移動が多い為か、今回のような航空母艦の上で現地入りを果たすのはとても新鮮に感じられた。
ヘンリク達の狙いは工場にて製造されている巨大兵器──識別呼称『ポンマー』の破壊である。
エリアを跨いでの長距離砲撃による被害が甚大であるというのは想像に難くなく、ミサイルならばともかく榴弾砲を通常兵器で撃ち落とす事は非常に困難である。その為にもこの巨大兵器による砲撃は未然に防ぐ必要があり、こうして襲撃のタイミングを悟られないようにする必要があったのである。
『アノマロより各位、間もなく作戦領域に到達する。アナライザー部隊及び艦載機部隊は出撃の準備を整えよ。』
襲撃艦隊の臨時旗艦である『アノマロ』から通達がなされる。……もう間もなくだ。
「トルトニス1より各位、出撃準備を。」
私の後ろで、トルトニスチームのメンバーが各種装備の点検を始める。今回は巨大兵器の破壊が主な任務となる為、全員のメインウェポンをロケットランチャーに変更している。
ソ連製のロケットランチャーをそのままサイズアップした『RPG-7<B>』を装備したアナライザー各機は非常に物々しい。戦場で用いる兵器が物々しいのは当然ではあるのたが、それでもやはり物々しいと言わざるを得ないほど、装備している兵器の殺意が強いのである。
『アノマロよりトルトニス、出撃準備はよろしいか?』
「あぁ……何時でもいけるぞ。」
『それは結構───艦載機部隊、出撃せよ。繰り返す、艦載機部隊、出撃せよ。』
艦長の号令と共に『アノマロ級』で今か今かと待機していた艦載機達が一斉に発艦を開始する。
いつ見ても、艦載機の発艦とは美しいモノだな。
『──トルトニスチーム、出撃を開始せよ。幸運を祈る!』
「ありがとう──行くぞ諸君、出撃だ。」
「「「「了解」」」」
アナライザーのブースターを垂直に吹かせ、飛行甲版から上空へと移動する。チームの全員が飛翔したのを確認した後、発艦した艦載機を追う形でアナライザーを駆る。
『トルトニス3より各位、既に工作員の撤退は完了してる───思う存分吹き飛ばしてやんな。』
トルトニス3──ヴァネッサだ──の話を聞きつつ、RPG-7<B>を構える。目標は巨大兵器『ポンマー』……なんとしても破壊しなければ、我々の明日は無い。
そんな事を考えつつ標的を探していると、工場の中にある一際大きな建物の中に、巨大な砲身が視認できた。
「目標を確認、発射用意───っ!」
メンバーに号令を出す直前、ヘンリクはとある違和感に気付く。
榴弾砲というのは、戦車のように水平方向へ砲撃を行う事は滅多にない。仰角が浅ければ浅いほど、放物線を描いて飛ぶ事を想定された榴弾はより近距離に着弾する。その為、榴弾砲というのは砲撃時には仰角を上げた状態である事が常である。
そんな榴弾砲の砲身が上がっている。
──まずい。
そう直感が囁いた時には、時すでに遅く。
通常の榴弾砲よりも遥かに大きい巨大榴弾砲は、猛烈な轟音と共に榴弾を空へと解き放った。
「っ、トルトニス3!スヴェルチームに緊急通達!!」
『りょ、了解!──トルトニス3よりスヴェルチーム!榴弾砲による第一射を防ぐ事叶わず!直ちに───』
通達はヴァネッサに任せ、私はRPG-7<B>を『ポンマー』に向けて発射する。意図に気付いたモーリス達も続く形でRPG-7<B>を発射し、巨大な砲身と大型化した基部を爆撃していく。
私は発射器を捨て、腰に差した直剣を引き抜きつつ砲身へと迫る。普段のような余裕は無く、ただ愚直に砲身を切り刻む事に専念する。一閃、一閃、また一閃…と一つ一つの太刀筋に全力を込める。
第二射だけは……私を信用してくれた仲間達を守る為にも第二射だけは防がねばならない…!この機体が壊れようとも……絶対にだ!
いつになく熱く、必死になったヘンリクは縦横無尽に剣を振り、アナライザーよりも遥かに大きい砲身を着実に斬り刻んで行く。こうなってしまえばもう砲撃を敢行する事など出来ないのだが、それでもヘンリクは止まらなかった。
砲身も、装填装置も、照準装置も……全てを斬り刻んでいく。上空からは味方の爆撃やミサイルがひっきりなしに襲い掛かっているが、今のヘンリクにはそんなものを気にしている暇は無かった。
その意志は、大切な誰かを護る為の堅牢な盾であり、
大切な誰かを護る為の決して鈍らぬ剣である。
そんなヘンリクの意志を体現するかのように、剣は榴弾砲を斬り裂いていく。もう二度と、その砲口から殺戮の鉄塊を放つ事が無いようにと。
榴弾砲を斬り刻んだヘンリクは、すぐさま拠点の方へと急行を始めた。後処理をトルトニスチームのメンバーに任せ、放たれてしまった砲弾の後を追うように空を駆ける。
ブースターが焼き切れる寸前まで出力を上げ、文字通り全速力でひとり大空を突き進む。
そんな彼の心は、不安と焦燥に支配されていた。
「───っ、無事で、いてくれっ…!」
締め付けるような不安を必死に抑え込み、彼は仲間の元へと向かうのであった。




