夕食戦線
メルトの様子が変だ。
そう感じ始めたのは、エリア020戦線で始まりの使徒との戦闘を終えた辺りからだ。国境線に戻った後、就寝中に魘されるメルトを見て「何かおかしい」という漠然とした違和感を覚えたのを期に、不自然にならない程度にメルトの事を気に掛け続けていた。
そんなジャック自身だからこそ、自室で涙を流すメルトを見ても下手に騒ぎにせず、自分の心の中に留めておくという判断に至れたのだ。もし見つけたのが俺でなくアンジェやモーリスだったら、無駄に騒ぎを大きくしてメルトに負担を掛ける羽目になっていただろう……特にモーリスは。
とはいえ、だ……アイツが涙してるのを見て平静を保っていられる程、俺は人間としてできちゃいねぇ…。普通に心配だし、なんなら飲みにでも誘って話を聞いてやろうとも思った。
だがそれは本当にメルトの為になるのか?と、ああして言葉を濁して無理にでも平静を装うメルトを見て、今はそっとしておくのが正解だろうと俺は考えた。
リビングにあるキッチンで料理の盛り付けをしながらも、頭の中で思考を巡らせ続ける。俺はこういう状況でどうしたら良いかを的確に判断できるタイプではないし、かと言って他のメンバーに話に行くのは違う気がする……少なくとも今は。
アイツの話したいタイミングを待つべきか…?だが、話してくれるよりも先に取り返しのつかない事態に陥る可能性だってある……どうすりゃいいんだ。
……あぁクソッ、思考を巡らせ続けているせいで盛り付けが少し崩れちまった。
ダメだな、今は考えるのはよしておこう……このザマじゃあ夕食の時にボロがでちまう…。少なくとも今は、普段通り接してやろう……それが今の俺にできる精一杯だ。
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洗面所で顔を洗い、表情を軽く普段通りに戻してからリビングへと向かう。既に料理はほぼ並べ終えてあり、ジャックが忙しそうに食卓へと飲み物を運んでいるのが見えた。
「お、メルトか。サラダ用のドレッシング持って行ってくレ。」
「オーケー」
冷蔵庫からドレッシングを取り出し、リビングにあるテーブルへと持って行く。せっかくだしサラダの近くにでも置いておくか…その方がわかり易いだろ。
にしても、ジャックはさっきの事に触れない方針でいてくれる様だったな……まぁ俺としても助かるから良いんだが。無意識下とはいえ泣いている所を見られちまったからな……もう少し気を付けねば。
キッチンへと戻りジャックから料理の盛られた皿を受け取り、テーブルへと並べていく。他の皆も集まってきたし、夕食はもう間もなくだな。
「よーしお前等、飯の時間だゼ!」
ジャックの音頭と共に夕食が始まる。今日のメインはハンバーグみたいだが、随分とデカいな……何gあんだコレ?
「ねーねージャックー!これ何gあるの!?」
丁度聞こうとしていた事を、アンジェが興奮気味にジャックへと問い掛ける。
「今日は奮発したからナ、ざっと400gはあるゼ!」
「400!?」
多すぎんだろ……もしかしてジャック、思ったよりも肉に飢えてたのか…?洞窟での生き埋め時間はそれ程長く無かった筈なんだが…。
「ジャックお前よぉ…400つったら3〜4人前はあるじゃねぇかよ……食えんのかコレ?」
「俺はイケるゼ?」
「まじかよ……」
普通のハンバーグが大体150gらしいが……そう考えると思ったよりイケそうか…?いや騙されるな、鉄板一杯のハンバーグなんざ、普通食えるわけ無いんだ。
かく言う俺は普段この半分を食えればいい方なんだが……あれおかしいな……今日は食えそうな気がするぞ…?何でだ?
頭に浮かんだ疑問を一度隅に置き、ナイフをハンバーグへと滑らせて一口サイズに切ってから、フォークで口へと運ぶ。切った時点ですでに肉汁が凄かったハンバーグは想像以上の肉汁を貯えており、肉肉しい味が俺の口内をガッツリと埋め尽くしていく…なんだこれ美味すぎんだろ…!
噛めば噛むほど溢れる肉汁を堪能しつつ食べ進める。半分に差し掛かったにも関わらず手が止まらない……そして遂には普段のキャパを大幅に超えて完食に至ってしまった。俺の胃袋すげぇ…。
「………メルト、お前すげぇな…ウプ…。」
半分ちょいまで食べ進めてはいるものの、かなり苦しそうな表情を浮かべてしまっているモーリスを見て苦笑いする。正直俺自身、食えた事には驚いているものの、まぁそういう日もあるよなと適当に自分を納得させておく事にしている……だって食えた理由は俺にも分からんからな。
隣で苦しそうにしているモーリスに水の入ったコップを渡しつつ背中を擦ってやる……程々にしとけよな。
「アタシはもう無理だ……悪いね、ジャック。」
モーリス程では無いが苦しそうなヴァネッサも、使っていたフォークを置いてストップを告げる。ちゃっかり3分の2以上は食べてる辺り、ヴァネッサは以外と食べられる方なのかもしれない。
「良いサ、残りは冷蔵庫に入れとくからヨ。」
「助かるよ…。」
「モグモグ……ゴクンッ!ぷはぁ〜食べたー!」
しれっとアンジェがハンバーグを全て完食していた……俺が言えた口じゃないが、その身体の何処に入ってんだ…?
「まじかよ…。」
「ふーっ、ごちそう様でした♪」
「…トリシャ、アンタ大丈夫なのかい?」
「えぇ、非常に美味しかったです♪」
ケロッとした顔でそう宣うトリシャ。あの感じだとまだ食えそうだな…。
「皆、良く食べるな……私もまだまだだな。」
そう言ってナイフとフォークを置くヘンリク。見た感じ平静を保っちゃいるが……いや、澄ました顔で震えてやがる…限界じゃねぇか。
「ジャック…お前涼しい顔で完食してんじゃねぇよ……胃袋どーなってんだ…?」
「あン?この程度余裕だっつーの……デザート持ってくるカ。」
「「「「「「──まだ食うの!?」」」」」」
「冷蔵庫にプリン冷やしてあるからヨ、食べる奴は取りに来ナ。」
「「プリン!?」」
ガタッと音を立てて俺とアンジェが同時に席を立つ。モーリス達は「お前等マジか…?」みたいな目で見てくるが……プリンは別腹なんだよ。つーかよく見たらトリシャもしれっと立ってんな。椅子の音聞こえ無かったぞ…?
「……あ、そういえばヴィンセントは?」
キッチンにプリンを取りに行こうとしてふと思い立つ。さっきから会話に参加してないし、どうしたんだろ──
「あン?そういややけに静かだナ──ってオイ!?」
──そこには、まっすぐ背筋を伸ばした状態で目を閉じたヴィンセントの姿があった。
「ちょ、ヴィンセント!?アンタ大丈夫かい!?」
肩を揺すりながらヴィンセントへと呼び掛けるヴァネッサ。するとヴィンセントがゆっくり目を開き──
「………俺はやったぞ。」
そう、ポツリと呟いた。ヴィンセントの皿の方へと目をやると、巨大な400gハンバーグが綺麗さっぱり無くなくっていた……もしかしてコイツ、無理してまで食い切ったのか!?
「我が生涯に……一辺の………悔い…無し…ウッ。」
そう言うや否やガクリと項垂れるヴィンセント…お前は日本の武士か。
「「「ヴィンセントーーー!?」」」
俺とジャック、そしてアンジェの声が木霊する。こうして夕食という名のハンバーグ戦線は唐突な終わりを迎え、ヴィンセントの介抱へと移行していった。食い倒れたヴィンセントをなんとか自室まで運んで行き、ベッドへと寝かしつけておいた。起きたら胃薬でも持って行ってやるとしよう…。
やれやれ……無理し過ぎは良く無いんだぞ?
………一応、俺も胃薬飲んどくか。
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