白亜の間、再び
「っ…光が止んだ…?」
強烈な閃光を防ぐ為に翳した手を下げ、目を開いて辺りを見渡す。目に映る光景は先程までいた光輝く洞窟の中では無く……一面の雪景色だった。
「っ……ここは一体…?」
見知らぬ場所に焦り戸惑うも、とある記憶が俺の心に平静を取り戻させる。
……俺は此処を知っている。
エリア020戦線において夢の中で足を踏み入れた、あの時の光景とそっくりだ…。
あの時も吹雪の中だったが、今回もまた吹雪の中なんだな……つーか寒っ!
吹き荒ぶ吹雪で体温が一気に奪われる……このままじゃ凍死しちまう。なんとかして風を凌げる場所に……いや、そうか…これがあの夢の同じ場所なら…。
前にみた夢の記憶を頼りに、まっすぐある地点を目指して歩みを進める。凍える身体が歩みを拒むかのように軋み始めるが、そんな事は意に介さずただひたすらに進み続けた。
「……やっぱりな。」
進んだ先にあるのは、夢の中でもみたあの巨木。確かあの時はこうして近づけば──
予想通り、近付いた途端に光輝く巨木。眩い光が俺を包み込んだかと思うと、俺はあの白い空間へと辿り着いていた。
『……また来たの?』
白い部屋の中にポツンと佇む少女が、此方と問い掛けてくる。前にも会った、極彩色の長髪をもつ白いワンピース姿の少女だ。
「またも何も、呼んだのは君じゃないのか?」
俺の返答に目を見開き、ふるふると首を横に振る少女。どうやら違うらしい…。
『呼んだの、私じゃない。呼んだのは、世界。』
世界……?
「世界ってどういう事だ…?」
『今は言えない……。』
言えない、か……何か事情があるのだろう。
『なんで呼ばれたのかは私にも分からないけど…せっかく来たんだし、一つ教えてあげる。』
そう言うと少女は、手のひらに小さな光輝く石を生み出した………洞窟の奥で見た、あの鉱石だ。
「これは……」
『『ウィルコス』……意志を具現化し力へと変える接続を司る石。』
「『ウィルコス』…。」
『持ち主の意志に呼応して、その性質を変える……鏡みたいなもの。』
「鏡…。」
『世界の概念が生んだ、意志という強大な力を具現化する為の変換装置……それが『ウィルコス』…。』
聞いたことのない未知の鉱石だ……それに、『意志』を具現化する鉱石なんて、そんな事が可能な鉱石がこの世にあるのか…?
それに、何故この少女はこの石の事を知っている…?
そもそもこの少女は一体…?
『時間きちゃった……早いね。』
「っ…!」
少女の言う通り時間が来たのか、俺の身体が白い光に包まれ始める。
「待ってくれ、君は一体──」
『ほんとは駄目だけど……一つ助言。あなたはいずれ、自分を見つめ直す事になる。あなたが自分の事を自覚した時、止まっていた歯車が動き出す…。』
歯車…?自覚…?一体何を言っているんだ…?
『あなたは世界を動かす特異点……あなたの在り方が、世界の在り方を導くのだから。』
特異点……前にも聞いたが……一体どういう事なんだ?
俺は……俺は一体何なんだ…!?
『どうか恐れないで……その意志を、絶やさないで。』
少女のその言葉を最後に、俺は再び白い閃光に包まれた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「──っ!─────っ!」
誰かの声が聞こえる……よく聞こえないな…。
「ルトっ!──おいっ、メルトっ!!!」
「っ…!ジャック…?」
声の主はジャックだったのか……その表情には酷く焦りが滲んでいる様に見えた。
「しっかりしロ!何があっタ!?」
「だ、大丈夫だ……目が眩んで、そのまま気を失ってたみたいだ…。」
頭を押さえ、微睡む思考を振り払う動作をする。実際はそこまで微睡んではいないが、あの夢の話をジャックにする訳にもいかないからな…。
「本当に大丈夫カ…?」
「あぁ……問題無いよ。」
不確かな事を言って、これ以上心配を掛ける訳にもいかないしな。
にしても……俺自身の事、か…。
頭の中で少女の言葉がフラッシュバックする。あの子は俺が自覚した時が歯車の動き出す時だと言っていたが……自覚とは一体何を──もしや俺の正体か…?
記憶を失う前の、アザーライト採掘プラントでゴルドーに拾われるよりももっと前の事……なのか?
記憶を失ってからかなり経つが、未だに記憶が戻る事は無いし……この世界と俺の記憶に、一体なんの関係があるんだ…?
……そもそも、俺は一体なんなんだ?
何処から来たのかも、どういう人生を送ってきたのかも……記憶を失う以前の事は何一つ分からない…。
………駄目だ、思い出そうとしても何も思い出せない。思考が煮詰まって頭痛がしてきやがった…。
「メルト、お前本当に大丈夫か…?顔色が凄い悪いぞ…?」
「大丈夫、大丈夫だ……ちょっと目眩がしただけさ。」
心配そうに此方を見つめるジャックに若干心を痛めながらも、これ以上心配をかけないように誤魔化す。
「それより……この石から情報が流れ込んで来てな、この鉱石は『ウィルコス』っていう意志を伝える鉱石らしい…用途はよく分かんないけどな。」
「『ウィルコス』…?知らない名前だガ……情報が流れ込んで来たって、大丈夫なのかヨ…。」
「一瞬目眩がしたくらいで、特に変化は無いぞ。だから大丈夫だ。」
これ以上心配をかけないよう、今できる精一杯の笑顔で大丈夫な事を示しておく。多少疲労は滲んでいるかもしれないが、まぁその位なら許容範囲の筈だ。
「………分かっタ。ひとまず、サンプルを幾らか取って出口を探そウ。こんな場所、長居すべきじゃ無いしナ。」
「同感だ……んじゃ、サンプル採取といきますか。」
ジャックがコンバットナイフの下部で鉱石を叩き、俺がそれを袋で受け止めて採取する。本当は専用の密閉容器が良いんだが……閉じ込められているという状況下においては贅沢言ってられないのだ。
「よし、こんなもんか……それじゃ、出口を探すゾ。」
「あいよ。」
来た道を引き返し、分岐路のあった場所まで戻って行く。長く滑りやすい道を戻るのは正直キツかったが、なんとか分岐路のある場所まで戻る事ができた。
「はーっ、疲れたぁ…。」
「ゼェ…ゼェ……戻る方がキツいだろこレ…。」
俺もジャックも既に疲労困憊だ……一度休憩を取るべきか…?
『──ザザ───ザザザ──』
「ん?今何か……」
「っ!ジャック、通信だ!通信が入ってる!」
ノイズの様な音はヘルメットのイヤーマフから流れていたようで、かなり酷いノイズと共に誰かの声が聞こえてくる。
『ザザ──ちら─スヴェル3──ザザ─聞こえ──かい!?』
スヴェル3……ヴァネッサか!
「こちらスヴェル7、ノイズが凄いが聞こえるぞ…!」
『─ザザ─無事──ね─ザザ─ひとまず救援を──ザザザザザザ───プツッ』
「……切れちまった。」
「とはいえ、だ……ひとまず救援は来るはずだ、一度広場へと戻ろう。」
駆け足気味に来た道を戻り、30匹以上のヒュージ・ワームの死骸が転がっている広場へと戻る。息も絶え絶えに広場を突っ切り、崩落した入り口の前まで足を運ぶ。既に崩れた岩の向こうには人の声が聞こえてきており、救助に来てくれた戦団の誰かが向こうには居るようだった。
「こちらスヴェル7!此方の声が聞こえるか!?」
『っ…!メルトか!俺だ、モーリスだ!助けに来たぞ!!』
壁の向こうにいるのはモーリスか…!助かった、モーリスなら何とかしてくれる筈…!
『ちょいと待ってな!今この岩を退かすからよ!!』
退かすって……何をする気だ?このサイズの岩じゃ、人力で退かすのは不可能だと思うんだが───
『離れてろよー!今からふっ飛ばすからなー!』
「「は??」」
オイオイ待てよ……まさかモーリス…!
「ジャック!!!」
「アァ!!」
先程までの疲れは何処へやら、全力ダッシュで入り口から距離をとる。
俺は知ってる……この感じは爆破する気だと…!
──次の瞬間、先程までいた入り口が爆ぜた。
ドガァァァァァァァァァァァァァァン!!!!!!!
耳を劈く様な轟音と共に入り口を塞いでいた岩盤が弾け飛び、此処に来るまでに通った道と壁の向こうにいたモーリスの姿が露わになる。
……コイツこの崩れやすい洞窟内で、爆弾使いやがった…!
「おっ!二人共!無事だったか…!!」
姿勢を低くしていたジャックがゆらりと起き上がり、此方へと駆け寄ってくるモーリスへと近付いていく。
その目には、何やら危ない光が宿っていた。
「無事だったか……じゃねぇわこのボケナスがァ!!!!!!!!」
「──ゴファッ!?」
モーリスの腹にジャックの右フックが炸裂し、モーリスのデカい身体が宙を舞う。
……俺もジャックと同意見だぞ、モーリス…。
地下で爆弾使ってんじゃねぇよ…危ねぇだろうが。
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