深い地の底で
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今後とも『朧火の意志』をどうぞよろしくお願い致しますm(_ _)m 布都御魂
洞窟というのは見た目以上に広い事が多いものだ。狭く暗い道のせいで脳が勝手に規模を勘違いしてしまいがちだが、実際にはかなりの距離を進んでいるなんて事もザラにある。
この洞窟もその例に漏れず広大なようで、広場奥の横穴に入ってから既に30分が経過している。道自体が平坦な事もあって奥へ進むのは然程苦にはならないが、いかんせん細く、そして長い洞窟内をひたすら歩き続けるというのは中々に骨の折れる行軍となるのである。
ヒュージ・ワームと戦ったあの分岐点以来一本道であるお陰で迷子にならずに済んでいるが、これが幾つも道が分岐した洞窟だったらと思うとゾッとする。森林のように同じ所をグルグルと回り続けるリング・ワンダリングのようにならずに済んでいるのは、この洞窟に閉じ込められてしまった中での数少ない幸運といえるだろう……もっとも、閉じ込められている時点で幸運もクソも無いのだが。
「ハァ…ハァ…ジャック、まだ歩けそうか…?」
「……メルトこそ疲れきってんじゃねぇカ。一度何処かで休憩を取るべきだナ…。」
ジャックの言う通り、俺は既に肩で息をしてしまっている。例え普段の訓練で体力を付けていても、洞窟内……それも閉じ込められているという状況下においては、必要以上に体力を使ってしまうものなのである。
「ちょうど良い、この窪みで休憩しようゼ。俺も流石に疲れちまった…。」
「そうしよう…。」
横穴の一部窪んだ所に腰を下ろし一時休憩を取る。下手に何もない所で休むより、こうした窪みで休息を取る方が不足の事態に対応しやすいのだ。
「はーっ……つ、疲れた…。」
「流石に長時間洞窟内歩くのはキッツいナ…。」
「……の割には余裕そうに見えるけどな?」
汗だくで肩で息をする俺と違い、ジャックは涼しげな顔で休息を取っている……鍛え方が違うのだろうか…。
「んな事ねぇヨ……顔に汗をかきにくいだけで、スーツん中は汗ビッショリだゼ?」
そう言ってタクティカルスーツの足元にある排水用の水密ジッパーを開くジャック。ジッパーを開いた途端に中に溜まっていた大量の汗が流れ出し、洞窟内に小さな水溜りを創り出した。
「……本当だな。見た目以上に疲れてたって事か。」
「そーだゼ?実際、メルトが言い出す直前に俺から休憩を切り出そうとしてたんだヨ……実の所疲労困憊だったのサ。」
「……ならいっそ、此処で纏まった休息を取るか。こっからどれくらい掛かるか未知数だし、この先に休息を取れる場所があるか分からないしな。」
「賛成だゼ……休める時に休んじまおうカ。」
俺もジャックも背負っていたバックパックを下ろし、中に入っている水筒や携帯食料で消費した水分とエネルギーを補給する。携帯食料は持ち運びに便利なエナジーバーであり、これ一本で半日分程度のエネルギーを補給できる代物となっている。ちなみに1日分じゃないのは前線でエネルギー補給として食べた際に、後の夕食等でエネルギーが過剰になってしまうからなのだそうだ。基本的に落ち着いて食事が取れる事の多い戦団では、1日分のエネルギーバーは扱いに困るのだとか。
まぁ何事も程々が良いって事だな……エネルギーの取りすぎも考えものだと言う事だ。
ベリーやナッツが練りこまれた少し硬めのエナジーバーを齧り、水筒の水で喉を潤す。今回はヒュージ・ワームを殲滅してそのまま帰るつもりだったから食料はあまり持ってきていなかったのだ……温かい食事が少しばかり恋しいが、このエナジーバーも美味しい代物ではあるのでコレで我慢するしかない…。
……前線で温かい食事を取れるのは恵まれているのだと、改めて痛感するな…。
……まあいい、食事の寂しさはあずき飴で誤魔化すとしよう。
「……メルトお前、その飴よく食ってるよな。美味いのか…?」
「ん、これか?美味いぞ……食ってみるか?」
袋からあずき飴を取り出し、ジャックに渡す。ジャックは興味深そうに包装から取り出した飴を眺め、そして口の中へと放り込んだ。
「……美味いな、コレ。」
「だろ?日本から態々輸入してもらってるんだが……良けりゃ幾つか分けようか?」
「いや、遠慮しとくゼ。そんな事しちまったらメルトの分が減っちまうだロ?」
「別に大丈夫だぞ…?一月に一度、1キロ単位で補充してっから。」
「へぇ………キロ!?」
ジャックがやたらと驚いた顔をしている……そんなに変か?
「食い過ぎじゃねぇか…?いつか糖尿になんぞ?」
「安心しろ、ちゃんと摂取量は守ってる……それに糖尿になりにくい『あずき』飴の方だしな。あんこだったら糖尿まっしぐらかもしれんが…。」
「そうか……なら良いんだけどヨ。」
「念の為ノーザック医師にも確認はとってるから心配すんな……ま、気を付けるに越した事はねぇけどな。」
フォートレスにあるピウス・ホスピタルで医師を勤めるノーザック氏も、この飴の愛用者だ。……正確には俺が布教した結果愛用者になってしまっただけなんだがな…。
「にしても毎月1キロだロ?費用が嵩むだろうニ…。」
「定期便に入れば安く買えるぞ?銅貨8枚でお得に買えるからな。」
世界の貨幣が統一化され、シンプルかつわかり易い貨幣へと変わった現代において、銅貨8枚というのはかなりの安価と言える。パン一つが銅貨1枚…10Zであると考えると、本来銀貨1枚…100Z以上する物をお得に買えるのだ……俺みたいなタイプは入って損は無いだろう。
「……俺も定期便入ろうかな。」
──どうやら布教は成功の様である。
「他の種類も幾つかあるから、帰ったら色々教えるよ。」
「……ちなみにアルコール入りってあるカ?」
「…あるぞ。度数低めのヤツからキッツい奴まで何でもござれだ。」
「そりゃ楽しみダ……んじゃ、ちゃっちゃと帰るためにも探索再開と行こうかねェ。」
「あいよ。」
バックパックを背負い、フラッシュライトを握りしめて再び歩き出す。分岐路以来ヒュージ・ワームとは遭遇していないが、万が一もある…用心して進むとしよう。
休憩を取った窪みから暫く歩いていると、徐々に足場が悪くなってきたのが見て取れた。天然の洞窟だし別に違和感はないのだが、足場が悪いのはシンプルにやめて欲しい所ではある。
「おっと!……この辺は思ったより滑りやすいな。」
「気をつけろよジャック……洞窟内で滑って滑落とか洒落になんねぇぞ?」
「……だナ。」
念の為マカロフをホルスターに仕舞い、右手をフリーにした状態で滑りやすいエリアを通過して行く。もし滑ってマカロフが暴発なんて事になったらそれこそ洒落にならないからな。
「よっと……ん?何だ……光?」
「はっ?洞窟内でカ…?」
ジャックの言う通り、ここは洞窟内だ……地中深くに伸びる洞窟である以上、出入り口以外に光源となる光がある筈がない。もしかして出口か…?
「出口かもな……行ってみよう。」
本来なら出口の可能性に喜ぶべき状況なのかもしれないが、その感情を押さえつけるかのように、俺の直感がその可能性を否定し続けていた……なんなんだ、この感じは…?
既に滑りやすい地面も終わっている為、フリーだった右手で再度マカロフを引き抜いて警戒しておく。何があるのかは分からないが……ひとまず行ってみるしかない。
光の出処に向かって歩みを進めていると、上層付近にあったあの広場のように開けた場所に辿り着く。どうやらここが光の出処のようだ。
ジャックと共に足を踏み入れたその時、二人同時に息を飲んだ。
「「っ…!?」」
目の前に広がるのは壁一面にびっしりと突き出ている鉱石の山。その一つ一つが光輝いており、どれも青く澄んだ光を洞窟内に撒き散らしている。
「何だこりゃ……一面が光ってやがんのカ…?」
「……放射能って訳じゃ無さそうだな。」
ヘルメットに標準装備されているガイガーカウンターは無反応だし、どうやら放射能という訳では無いらしい。……つーかなんでヘルメットにガイガーカウンター付いてんだ。助かったけど。
「ミミズ共も……居ないみたいだナ。」
「だな……にしてもコレは一体…。」
色々と頭の中で思考を巡らせつつ壁から突き出た鉱石に近づく。注意深く手を触れてみるが、どうやら普通の鉱石同様、硬さを持つ鉱石の様で───
───触れた瞬間、鉱石の輝きが強くなり始めた。
「っ…!!!」
慌て手を離すが、光はその輝きを増していき……遂には俺を呑み込む程の強烈な光へと変化する。
「眩しっ…!」
光に目が眩み、思わず目を閉じて、手を顔の前に翳しつつ強烈な光に耐える。
──唐突に放たれた眩い光に、俺はただ立ち尽くす事しか出来なかった。
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