暗闇に包まれて
「どうするよ、これ…。」
崩れ落ち、入り口を塞ぐ様に積み重なった岩盤を見て呟く。崩れ落ちた岩はどれも巨大なものであり、人力でどうにかするのはほぼ不可能と言っても過言ではない状況であった。
「ひとまずコイツ等をどうにかしようゼ!退路がねぇ以上、コイツ等に退場願うしかねぇダロ…!」
「それも、そうだなっ!」
目前まで迫っていたヒュージ・ワームをサイドステップで左に回避し、側面から『スプラッター』で12ゲージ散弾を叩き込む。轟音と共に放たれた散弾がヒュージ・ワームの分厚い身体を意図も容易く引き裂き、内部に詰まったゼリーのような肉を体液と共に撒き散らす。
慣性でそのまま突っ込んで行くヒュージ・ワームを無視し、その後ろにいる別のミミズに向かって全力で駆け出す。手前にあった既に絶命しているミミズを思いっきり踏んづけて跳躍し、真上からミミズの脳天を『スプラッター』で吹き飛ばす。
「いよっと……後どれくらいだ!?」
一回転しつつ着地し、辺りを見渡す。散々狩りまくった甲斐もあってか殆どのミミズは絶命しており、残り数匹程度が死体の間を縫う様に這い回っているのみであった。
一度『スプラッター』をマグネットホルスターに預け、スリングに預けていた『AK-15』を取り出してマガジンを交換する。新しいマガジンを装着してコッキングレバーを引き、ホロサイトを覗き込んでジャックに迫っていたデカミミズに7.62mm弾をセミオートで叩き込む。
耳を劈くような鳴き声を上げながらのたうち回るヒュージ・ワームに、走って接近しつつ銃弾を叩き込み続ける。人体を容易く穿つ7.62✕39mm弾の猛威が人間よりも遥かにデカいヒュージ・ワームの身体を容赦なく穿ち貫き、体液を撒き散らさせつつ命を刈り取っていった。
「コイツでぇ……最後ダァ!!!」
『AK-15』を構えたジャックが最後に残ったヒュージ・ワームにフルオート射撃を敢行し、30匹以上いたヒュージ・ワームとの戦闘に終止符を打つ……どうやら無事殲滅できたみたいだな…。
「お疲れ、ジャック。」
「あぁ……メルトもお疲れサン。」
入り口を潜ってからノンストップで戦闘を続けていたせいで俺もジャックもヘトヘトだ……二人共肩で息をしてしまっているしな…。
「ひとまず何処かで休息を取ろう…。」
「そーだナ……壁際のあの辺りにしようゼ。」
ジャックと共に入り口に程近い壁際に移動し、壁に背を向けて腰を下ろす。バックパックからフラッシュライトを取り出してから暗視装置を解除し、灯りをつけてから一息つく。流石に暗視装置をつけっぱなしだとバッテリーが保たないしな…。
「灯りならコイツを使おうゼ。」
そう言ってジャックがバックパックからフラッシュライトと同じくらいの短い筒の様な物を取り出す。ジャックが上のツマミを捻ると筒の側面部が光りだし、あその周囲を明るく鮮明に照らし出した……どうやら小型のランタンだったようだ。
「随分と明るいな…。」
「自作した携行ランタンだゼ。小さい割にかなりの光量があって、尚且つ電池消費の少ない便利な代物ダ……まぁ試作品なんだけどナ。」
作ったのかよ……凄ぇなコレ。
「良いなコレ……俺も欲しい。」
「……部屋にもう一個あるからやるヨ。」
「マジ?よっしゃ…!」
休息ついでに世間話に花を咲かせつつ、ランタンで照らされた洞窟内を見渡す。流石に天井付近は照らしきれていないが、光の届く範囲だけで見てもかなりの広さだ……まぁあれだけ走り回れるスペースがあったんだし当然っちゃ当然か…。
「んで……こっからどうするよ。」
「そーだなぁ……ひとまず救援でも呼ぶか。」
そう言ってジャックはスマホを取り出して救援を呼ぼうと試みる。その間にフラッシュライトでワーム達が動き出さないか確認していると、ジャックが唸り声を上げ始めたので振り向く。
「どうした?」
「……悪いニュースと悪いニュース、どっちから聞きテェ??」
──どっちも悪いじゃねぇか。
「じゃあ……前者で。」
「おう前者ナ?……救援が呼べネェ。」
「……何故に?」
「原因は分かんねぇが……どーもジャミングが掛かってやがるっぽいんだよなぁ……この洞窟の性質なのカ…?」
俺もスマホを取り出して試しにヘンリクへ連絡を試みてみるが、繰り返し<Error>の文字が出るばかりで一向に繋がる気配が無いようだった…どうなってやがる。
「んじゃ救援は呼べねぇって事か……んで後者は?」
「……コレ見てくレ。」
そう言ってジャックが差し出したのは、先程まで被っていたフェイスガード付きのヘルメットだった。
「ヘルメットがどうかしたのか…?」
「よーく見てみろ……暗視装置の部分ダ。」
指示通りに暗視装置の本体があるヘルメットの側面を見てみると、黒い本体の部分に深々と突き刺さる白い物体が、暗視装置を思いっきり貫通してしまっていた。
「さっきの戦闘で最後の最後にデカミミズの捥げた歯がすっ飛んできてナ……頭を反らしたのは良かったんだがよりにもよって暗視装置のある部分にぶっ刺さりやがってヨ…。」
「怪我は無いのか…?」
正直暗視装置よりもジャックの方が心配だ。AKに取り付けたフラッシュライトよりもデケェ歯が飛んできたとなれば、その衝撃も凄いものだった筈だ。
「安心しろ、俺自身には傷一つねぇヨ。損害は暗視装置とそのアタッチメント部分だけだゼ……まぁ暗視装置は使い物になんねぇけどな。」
「……怪我が無いなら良いさ。」
暗視装置なんざ幾らでも替えが効くからな……怪我が無いのが一番だ。
「こっからはフラッシュライトで動くとしよう。こっからどれくらい時間が掛かるか分からない以上、暗視装置は節約しておきたいしな…。」
「そーだな……休息もこの位にして、一度入り口にでも行ってみるカ。」
フラッシュライトを左手に持ち、念の為マカロフを引き抜いた状態で入り口に近づく。どうやら入り口の上側が崩れ落ちたようで、崩れ落ちた岩盤の下側にはアーチ状になった入り口部分の岩盤が他の岩に押し潰された状態で横たわっていた。
「……近くでみると思った以上に隙間がねぇな。」
「辛うじて空気の通り道位はあるみてぇだが……流石にあの穴は通れねぇナ。」
「……此処にいても拉致があかないし、一旦奥に進んでみるか。」
「それしかねぇよなぁ……別の入り口がある事を祈るしかねぇカ。」
このまま待っていてもスヴェルチームの誰かが気付くまで時間が掛かるだろうしな……今はやれる事をやるしかない。
フラッシュライトを頼りに奥へと進み、崩落した入り口とは正反対の位置にある横穴へと足を踏み入れる。かなりの広さがあった先程までの広場と比べると狭い横穴だが、それでも天井に手が届かない辺りかなり大きな横穴の様であった。
「オイオイ、別れ道かヨ…。」
ジャックのボヤき通り、横穴は2方向に別れてしまっていた……どっちが出口とか分かんねぇぞ…?
「どーすっかな……ん?なんだこの音…?」
ズズ……ズズ……と、何かが這う様な音が洞窟内に響き渡る。音の発生源は……前から…!?
「っ、オイオイ!此処ですれ違いは無理だゼ!?」
右の横穴から胴体を地面に擦りつけつつ這い寄るヒュージ・ワーム。さっき散々倒したのに、まだ居やがったのか…!
フラッシュライトを持つ手とマカロフを持つ右手を合わせる、所謂『ハリス・テクニック』状態でデカミミズに銃口を向け、9mm弾を頭部に叩き込んでいく。しかし銃口から放たれた拳銃弾がデカミミズの頭部を直撃するものの、威力の弱い拳銃弾では満足なダメージとはいかず、先にマカロフに装填されたマガジンの弾薬が尽きてしまっていた。
「ちっ、流石にコイツじゃ無理か…!」
「メルト、ライト照らしとケ!コイツ借りるゼっ!」
そう言ってジャックは俺の背中にマグネットホルスターで仕舞われていた『スプラッター』を取り外し、セーフティを外して目の前のデカミミズに向かって散弾を容赦なくぶっ放した。拳銃弾と違い圧倒的な制圧力のある散弾がデカミミズの頭部を容赦なく吹き飛ばし、付近の岩肌にピンク色の肉片と体液を撒き散らしていく。
……暗視装置の時は分からなかったが、コイツ等やっぱりピンク色だったんだな。……気持ち悪っ。
暗視装置の視界では分からなかったグロテスクな視界に吐き気を催しつつ、マカロフのマガジンを交換しつつライトを照らし続ける。デカミミズは……流石に至近距離でショットガンの一撃を食らえば死ぬか…。
「ふー、何とかなったゼ。」
「ナイスだジャック……助かったよ。」
「つってもコイツの死骸で右ルートは塞がってんナ…。」
ジャックの言う通り、ヒュージ・ワームの死骸は横穴のほぼ全てを埋め尽くしており、流石にこの横を通り抜けて行くのは厳しそうであった。
「ひとまず左に進んでみるか…。」
「右は塞がっちまってるし、そうすっカ。」
塞がってしまった右のルートを放置し、残された左のルートへと足を踏み入れる。
そうしてフラッシュライトとマカロフを握り締め、まだ見ぬ暗い洞窟の奥へと歩みを進めていくのだった。
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