静かなる策謀
フューチャー級に積んで来た鋼板を甲板に固定し、艦通しを跨いだ長大な滑走路を作り上げる。ヴィンセント達が艦隊の相手をしているうちに、俺達作業班がこの作業を終わらせておく必要がある……だからこそこうして、3人がかりで滑走路の建設に精を出しているのだ。
本来は作業班であるメルトは、今ヴィンセント達と共に敵艦隊の迎撃に出ている。作業はもちろん大事なんだが、敵艦隊がここまで来ちまったら元も子もねぇからなぁ……ボヤいても仕方ねぇか。
『モーリス、こっちの作業は終わったゼ。』
「おう、お疲れさん!こっちも………よしっ、コレで完了だ。」
フューチャー級7隻を並べ、その上に鋼板を張った長大な滑走路がついに完成する。滑走路自体の長さは230mとカタパルト無しの艦載機が発着するには少しばかり短い為、後日電磁式のカタパルトを設置する予定だ。
『ひとまず今日の作業はコレで全部だったかい?』
「おう、今日はコレで終いだ。後はヴィンセント達や護衛艦隊の帰りを待つだけなんだが……おっ、噂をすりゃあ帰ってきたぜ。」
『──スヴェル2より作業班、敵艦隊の殲滅を完了した……そちらの調子はどうだ?』
ヴィンセントの『SB-18』が海上基地の滑走路に降り立ち、それに続くようにヘンリクやアンジェ、メルトの機体が滑走路へと降り立つ。
「こっちは今し方終わった所だ……カタパルトみたいな設備系に関してはまた後日だな。」
『ふむ、では駐留する艦を残して帰投するとしよう……総員、帰投準備。』
ヘンリクの指示で全員がフォートレスへと帰る準備を始める。ヘンリク達護衛班はそのまま帰るだけだが、メルトを含む俺達作業班は作業に使った器具なんかを持ち帰らなきゃなんねぇ……ホント、こういう出張作業は大変だぜ…。
『駐留する艦は基地のドックエリアに停泊せよ。後程タグボートを搭載した輸送艦が到着する為、これ以降の艦の停泊に関しては一任する。』
『はっ!』
海上基地にはひとまず、護衛艦隊として派遣された『ボリッシュ級駆逐艦』4隻、『AZL級フリゲート』が6隻程駐留する。今後基地を拡張して広大な港を建設するが、それまでは彼等がこの海上基地の防衛を担う事となる。
「んじゃ、帰るか。」
『おーう。』
気の抜けた返事をするメルトにコックピット内で苦笑いする。まぁ海上基地の建設作業と敵艦隊の迎撃の両方をやってるからな……流石に疲れてるか。
「メルトよぉ、疲れてんのは分かるが途中で海に落ちんなよ?新型機とはいえ海中じゃあただの鉄塊でしかねぇからな。」
『分かってるっつーの。流石にアナライザーで飛行中に寝たりはしねぇよ…。』
メルトの事だからちゃんと起きてるとは思うが、一応な……疲れは馬鹿しちゃいかんのだ。
『そーいえばさー、海中で動けるアナライザーっていないよねー?モーリス、そういうのって無いの?』
「水中で動けるアナライザーぁ?んなもん無いに決まってんだろ?」
『そうなのか…?』
疑問を投げかけるアンジェと不思議そうな声で真偽を問うメルト。まぁありそうな構想なんだし、その反応にもなるか……。
「無いっつーか、実用的じゃねぇんだよ。例えば海中に潜って移動するアナライザーがあるとしよう、こいつが戦闘するとなると海中から浮上して普通のアナライザーと同じ戦闘スタイルを取るか、水中でも使用出来る特殊な兵装を使用する必要性が出てくる。」
『ふむ…。』
「まず前者だが、浮上して戦闘するんであれば水中仕様でないアナライザーと同程度以上のスペックが必要になってくる。もし水中を移動して浮上したとして、その機体が水中仕様にした影響で鈍重だったら?水中から持ち出した兵装が浮上していきなり使えるか?とまぁ色々な問題が出てくるんでな……だったら普通のアナライザーを高高度から突入させた方が、遥かに現実的かつ安上がりなんだよ。」
『なるほど…。』
「んで後者だが……コイツに関しては純粋に生産が難しいんだよ。アナライザーが使用するようなサイズの兵装を水密性の高い代物にしようとするには、相当な精密加工が必要になってくる……どっかに隙間があるだけでそっから水が入って兵器が壊れるなんて話は、特殊用途の兵器においてはありふれた話なんだよ。」
『技術的に作れなくはないけど、コストと時間が嵩むって訳か…。』
「そういう事だ。同じ水密性の高いもんを造るってんなら、潜水艦を1隻でも増やした方が汎用性が高いって訳なのさ。」
メルトの言うとおり、今の技術であれば水中で活動できるアナライザーや兵器の製造は可能となっている。しかしながら世界中の何処を見てもそんなアナライザーが存在しないのは、それなりに運用するに値しなかった理由があるからなのだ。
『なるほどなぁ……まぁアナライザーの形状的に水中で活動するには向いてないか。』
「向いてねぇな。もし水中で何かしらの作業をするにしても、潜水艇みてぇなシンプルな奴のほうが小回りが効くしな……ってそういやアンジェがさっきから喋んねぇが……大丈夫か?」
『……ほへ?』
……アンジェの奴、理解できなくて頭がパンクしてやがんな…。
『あー要は水中だとアナライザーよりも潜水艦とかの方が向いてるぞって事だ。』
『…なるほど!』
納得までに間があったな……まぁいいか。
「アンジェは後で教本貸してやるから読め……そうすりゃちったあ理解出来んだろ。」
『えー、難しい本嫌い…。』
『……俺も気になるし、後で一緒に読もうぜ。』
『…そなの?じゃ読む!一人だと眠くなっちゃうんだよねぇ…。』
仲いいなコイツ等……最近よく一緒にいるし。ま、アンジェの事はメルトに任せておけばいいか。
『スヴェル1より各位、まもなくフォートレスに到着だ……着陸の準備をしておけ。』
お、もうすぐか……帰ったら海軍の新型艦とか考えてみるかねぇ…。
新しい案は、あればあるだけ良いからな。
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─ドイツ社会主義共和国、参謀本部長官執務室─
「エリア021にて建造中であった海上基地の妨害につきましては、失敗に終わったとの報告が入っております。」
参謀本部所属の士官が読み上げる報告を、執務室にある窓の外を眺めながら聞く、一人の人物がいた。
白い長髪に細く瞑られた糸目、長身ながらもスラリとした体格をしたその若い男性将校は、任務の失敗という悪い報告を聞いているにも関わらず笑顔を崩さない。いや、笑顔という表情を貼り付けていると言うべきか。
「そうですか、それは残念ですねぇ。襲撃後であれば防御を固めようとするのではと考えて切り崩しを掛けたのですが……敵戦力は如何程で?」
「脱出艇で生還した乗組員の証言によりますと、駆逐艦を含む艦隊と数機のアナライザーが配備されており、特にアナライザーは異質な練度であったとの事です。」
少しの逡巡の後、白髪の将校は質問を続ける。その顔には変わらず笑みが貼り付き、報告に来た士官ですら若干の薄ら寒さを覚える程であった。
「……そのアナライザーの中に、『竜の様な爪を持つアナライザー』はいましたか?」
「は、はい…巨大な竜の様な爪を持つ黒いアナライザーが、自分達の乗っていたフリゲートをその爪で引き裂いていったとの報告が上がっています。」
「やはりそうですか…。」
笑みを崩さず、されど空気を張り詰めた状態へと変える白髪の将校に、士官はゴクリと喉を鳴らす。
「さ、参謀総長殿には、心当たりがお有りで…?」
「えぇまぁ……君、『白雪の暴竜』という名を聞いた事はありますか?」
「……聞いた事があります。何でも、エリア020戦線において猛威を奮った、雪を纏った竜のようなアナライザーだったとか……まさか!?」
「えぇ、十中八九……そのアナライザーでしょう。エリア020戦線での報告は多くありましたが、やはりエリア021へと戻っていましたか…。」
将校は士官の方へと向き直り、居住まいを正してから指示を出し始める。
「『白雪の暴竜』について、情報を集めて下さい。もしかすれば『閃撃』の"ヘンリク・ニコルソン"と同様、我が国の総力を用いて相手取る必要が、あるかもしれませんので。」
「そ、それ程の相手なのですか!?」
「少なくとも、生半可な戦力で挑んで良い相手では無いでしょう……"イザーク・シュタインバッハ"の名で、『白雪の暴竜』についての情報収集を開始してください。これが巡り巡って、我が国の覇権を盤石なものとする礎となるでしょうから。」
「はっ!全力で情報収集に当たります…!」
「頼みましたよ……祖国に勝利を。」
「はっ、祖国に勝利を!」
報告に来た士官が退出し、執務室には白髪の将校……"イザーク・シュタインバッハ"のみが残される。
その顔には、変わらず笑みが貼り付いていた。
「……邪魔者は早々に始末しなければ、ね。」
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