176.聖王国保守派のクーデター
タダシ達が聖王国の聖都にたどり着いたとき。
神聖騎士団と教会の保守派が集結し一万もの規模となったクーデター軍は、聖都近くの巨大な砦へと集結して正規軍と睨み合っているところだった。
「アナスタシア!」
タダシは、現在は聖姫から聖女王となり、国を治めているアナスタシアの前に立つ。
銀髪の麗しき聖女王は、自らに付き従う聖騎士となった月狼族のルナとともに、タダシの前にひざまずく。
「タダシ様、私がいながらこのような失態……」
タダシは、慌ててアナスタシアの手を取って抱き起こす。
「いや、いい。お前の責任は、俺の責任でもある」
「タダシ様……」
アナスタシアの髪を優しく撫でるとタダシは、猫耳賢者シンクーに言う。
「それに、これはシンク―の作戦なんだろう」
「もちろん、全部想定のうちニャ。クーデター側の首魁と、話はついてるニャ―」
こっちについてくるニャ―と、裏口から砦に侵入する。
「アナスタシアもついてくるのか」
「はい、この国を治める者として見届けませんと」
まあいいか。
今回は出し惜しみはなしということで、一騎当千の最大戦力である帝竜達も付いてきてくれる。
それにタダシがいれば、むしろそこが一番安全とすら言えるので同行を許可した。
やはり、戦国時代の砦には隠し通路がつきものなのか。
他の騎士や兵士に見つかることなく砦の中央塔の最上階まで移動することができた。
そして、そこには今回のクーデターの首謀者であるマズロー騎士団長と、ダカラン大司祭が待っていた。
いや、保守派を代表するダカラン・カタランは、アナスタシア派と融和することで、ついに念願の枢機卿ともなったのだ。
タダシたちを迎えたダカラン枢機卿の顔は、やけに穏やかであった。
「よくおいでいただいた。アナスタシア女王陛下、ならびにタダシ王陛下。ぜひ、これを見ていただきたい」
そういって、ダカランはバルコニーから下を指差す。
タダシは、以前に一度ダカランを見ている。
その時は、熱情に燃える騎士マズローに反乱をそそのかされて迷った挙げ句、優柔不断の末にタダシたちに膝を屈した小人物というふうにしか見えなかった。
しかし、今のダカランは覚悟が決まっている男の顔にみえる。
バルコニーから下を見ると、そこには砦に密集している一万もの反乱者がいた。
みんな一応にざわざわと騒ぎ立てて、口々に聖王国を元ある姿に戻そうと叫んでいる。
タダシが言う。
「すごい数だな」
「私は、あなたにこれを見せたくて、今度のクーデターに協力したようなものです。神々の加護を受けし、タダシ王が起こした奇跡を見てすら、教会貴族や騎士の中にまだこれほど時代に抗している頑なな者たちがいる」
彼らの気持ちをわかってほしい。
できれば、慈悲を持って時代遅れの彼らを憐れんで祈ってやってほしいとダカラン枢機卿は言う。
そして、腕を組んだその指には、反神の軍師シェイドに与えられたらしい、禍々しき反神の指輪がはめられている。
その傍らにいる、騎士マズローの腕にも、反神の腕輪があった。
すでに、それがどれほど危険な罠かは承知しているタダシは叫ぶ。
「ダカラン、反神の軍師シェイドを裏切れば、その指輪や腕輪は爆発するぞ!」
そう言われても全く動じないダカランたちは、すでに覚悟を決めているようにみえた。
だからこそ、タダシは彼らを死なせたくはなかった。
それをダカランは、さっと手で押し留めて叫んだ。
「やれえ、マズロー」
「ハッ!」
マズローは、剣を引き抜くとまずダカランの指ごと指輪を切り落とし。
次に、自分の腕も、腕輪ごと切り落とした。
タダシが、止める間もない見事な剣さばき。
そして、聖騎士マズローはそれを拾い上げると、バルコニーより空へと投げた。
二人が、シェイドを裏切る姿勢を見せたのだ。
反神のアイテムは、ただちに反物質爆弾と化してあたりを爆縮させる。
「世界樹!」
タダシは、間一髪で世界樹の種を発動させて、激しい爆縮と爆風を食い止めた。
聖女王アナスタシアが叫ぶ。
「ダカラン! あなたは、下にいる者たちを殺そうとしましたね。なんということを、命をもっと大事になさい!」
断ち切られた指から血を流しながら、ダカラン枢機卿は表情を変えることなく。
指をくんで祈りを捧げて、静かにひざまずく。
聖女王アナスタシアは、悲痛な面持ちでそのダカラン枢機卿の指に、癒やしの魔法をかける。
「はい、アナスタシア女王陛下。古い伝統にこだわる我々保守派は、次の時代にはいらない存在だと思いました。シンクー殿に、この話を受けたときに、国内の不穏分子の数を減らすのに良い機会だと愚考いたした次第……」
ダカラン枢機卿は言う。
自分たちは、国のためを思ってやったこととはいえ、一度は女王に反旗を翻した裏切り者だ。
もはや、頑迷な自分たちが国のためにやれることはこれしかない。
ダカランたちは、自らを支持する保守派をすべてを潰す覚悟でこの場に臨んでいたのだ。
そして、それらを潰した自分たちも、その責任を取って死のうとした。
聖女王アナスタシアに魔法で傷を癒やされながら、聖騎士マズローも諦めたように苦笑して言う。
「しかし、決死の覚悟もタダシ王陛下に押し止められました。凄いお人だ。まさに、これこそ女神アリア様のごとき慈悲といえましょう」
タダシは、二人に静かに言う。
「ダカラン枢機卿、マズロー団長。今回は命がけで、敵の策略を打ち破ってくれてありがたかった。二人のこの国を思う命がけの思い、確かに受け取った」
この期に及んで何を言うことがあるかと、二人はただ静かに頭を下げる。
タダシは、続けて言う。
「だがな。以前にも言った通り、俺は考えの異なる人達とも融和して、新しい世を築いていきたい。二人にも、ここに集まっている保守派にも、生きてこの国を良くするための手伝いをして欲しい」
ダカラン枢機卿は、ひざまずいたまま、ヨロリと倒れた。
それを、隣の聖騎士マズローが支える。
どうやら死を覚悟していたので、死なないで済んだと思って、腰が抜けてしまったようだ。
誰だって、死にたいわけでも死なせたいわけでもない。
ダカラン枢機卿は、いつもの小人物そうな情けない顔に戻っていう。
「タハハ……。このような行動を持って示されては、かないません。タダシ王のその言葉を信じて、保守派の軽挙妄動を抑えるべく尽力いたします」
聖騎士マズローも言う。
「生きてこの身が役に立つというのであれば、今一度両陛下に死んだ気になってお仕えいたしましょう」
それを聞いて、タダシもホッとする。
良かった。
とりあえず今回は、一件落着……。
「……と、思わせるのが反神の軍師シェイドの策ニャー。まだ終わってないニャ!」
猫耳賢者シンクーは、タダシに注意喚起する。
「もしかして、やつはこの場にいるのか?」
猫耳賢者シンクーは、自らライフル銃を構えて狙う。
「あのシェイドの陰険な性格から考えて、どうせこの場でどうなるかじっと見てるニャ。全体が見渡せる位置となると、そこニャ! 一斉射撃!」
砦の最上階には、少し小高い場所に将軍や王が座る玉座が備えられてる。
そこに向かってシンクーがライフル銃を撃つ。
くわえて、他の護衛たちも一斉射撃する。
玉座の後ろから、笑い声が聞こえた。
「おいおい、毎回手荒い歓迎だな。まったく、聖王国の連中も自爆すらできん役立たずか。この大陸のものときたら……」
現れたシェイドが何かを言い終わる前に――。
「神竜一閃拳!」
神帝竜シュウドウの神速の一撃が、玉座ごとドーンッ! と、吹き飛ばして消滅させた。
まさか、もう倒してしまったのか。
確かに、悪辣な策ばかり弄するシェイドは、倒せるときに確実に倒しておきたい敵であるが……。
「本当に倒しちゃったのか?」
だけど、情報を得るためにも、最後に言いたいことくらいは言わせてやったらよかったんじゃないかなと思うタダシであった。
4月30日に、生産革命のコミック7巻が発売になります。
それにあわせて3章終わりくらいまで更新していきます。
聖姫アナスタシアが活躍するめちゃくちゃ面白いところです。
発売日前にこんだけ売れるんだって見せると、作品の応援にもなったりします。
コミックのご予約ぜひよろしくお願いしますm(_ _)m




