第63話 ファージの街決着戦 3
※今回は普段より長め&微グロ注意です
――カキンッ、カキンッ
焼け濡れた戦場に、火花が散る。
――カキンッ、カキンッ
もう何度目の打ち合いなるのか、身体には疲労が溜まっているし、魔力はとうに枯渇した。
魔力が枯渇してるから刀本来の『無効化の力』も出せないし、相手の一発一発が骨に響く。
魔王の戦闘スタイルは、聖属性を帯びた槍と大盾。魔王の姿のせいかもしれないが、魔王というよりゲームとかで出てくる聖騎士に類似している。
こちらの攻撃を大盾で防ぎ、すかさず反撃してくる。大技なんて使用せず、守りに徹する戦い方。
かといって慎重だけに収めることはない、これは戦いそのものにに敬意を払った奴の戦い方だ。
ゲームにおいては好感は持てるが、現実、しかも最悪な状態においてこんなに辛い戦いはない。
「せいッ!!」
「甘い」
攻撃を仕掛けるもことごとく盾に防がれ、すぐさまに槍が迫る。
刀を逆手に持ち直し攻撃を受け流し懐に入り込むもまた盾に弾かれる。
長期戦になればなるほど、こちらは不利だ。
そんなことは分かっている。
ただ魔力が枯渇している以上、肉弾戦で挑むしかない。
「正直、ここまで耐えるとは思っていなかったぞ雪。やはり貴様は、オレの予想を超えていくが、世の中はどうしても勝てぬ、理不尽がある。それが貴様にとってはオレだった。だが決して気を落とす必要なぞない、貴様は大罪の魔王を相手にここまで粘った、これは称賛されることだ。故にあの世でこの街の者たちが貴様を称賛に来るのを待っているがいい」
魔王の槍に魔力が集まっているのを感じ、咄嗟に距離をとる。
「さぁ三度目の答え合わせだ。白く輝く光は秩序を保ち、秩序を乱すものつまり汝を滅ぼす原初の魔法」
詠唱が始まると今までの比じゃない魔力が魔王の槍に集まって光を放つ、そしてその光は螺旋を描きながら一つの矢へと変貌する。
頭の中で警報が鳴り響く、あれを食らえば即、死が待っている。
「光よ、今ここに一筋となりて目の前の障害を貫け。そうこれは全てを滅ぼす一筋の光。《原初の光》」
避けようと足に力を入れたとき、それは放たれた。
音速を超え、光の速度となった巨大な矢、もう避けることは不可能、そのことを理解するよりも早く、右手が動いていた。
自分の体の反射、それすら気づかないままオレは強烈な光の矢に飲まれた。
……何が起こった?
焦げ臭さとツンと鼻を衝くこの鉄の匂いは血か?
意識があるってことは、何とか生きているみたいだな。
「我が魔法の原初の光を食らって意識を保っているとは……この化け物め。だが貴様の肉体は持たなかったみたいだな?」
肉体?
「見えていないのか? あぁ、あれほどの光を直視したのだからな。無事では済むはずがないか」
確かに瞼を開けている。だが、目の前に広がっているのは暗闇だ。
「貴様は我が《原初の光》を切った。光を切りおった。無事であるはずがないだろう」
切った?
「話すより見たほうが早いか。飲め、貴様自身で確認するがいい」
唇に液状の何かが当たる、この匂いは、回復薬か?
言われるままに回復薬を飲む。
最初は白黒映像として景色が映るが、徐々に見慣れた色彩が働く視力が戻ってくる。
「己の姿を見よ」
魔王の言葉に従い、自分の姿を見回す。
鎧は砕け、インナー剥き出しの姿。
左手には刀身の折れた黒龍刀。
そして、右手には……。
「うあわわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ――」
まだ引かない痛みよりもショックが大きかった。
「理解できたか? 貴様が今まで対峙していた存在がどれほど強大であったか、知ったはずだ、我との圧倒的に足りない力の差、理不尽差をな」
オレの首を持ち上げながら魔王が言う。
身体が感じる浮遊感を右側には感じない。
右腕の付け根から右手の部分をオレは失っていた。
「三度目は、我の勝利だ」
魔王がつぶやく。
そんなのどうでもいい。
とゆうか、もう何もかもどうでもいい
なんでこんな戦いに巻き込まれたんだよ。
なんでこんなことにオレは巻き込まれなくちゃならない?
「興味が失せた。せめてもの手向けだ、これから起こる悲劇を見る前に殺してやろう」
魔王がオレの首を手にかける。
どうやら今回はほんとに死ぬらしい。
自分の生死がかかっているのに他人事のように思える。
向こうの世界じゃ自分の死を感じ取る機会なんてそうそうない。
向こうの世界、オレのいた世界。
学校から帰って、ゴロゴロしながらマンガ読んだりゲームしたり、そんな生活を送れる日常に戻りたい。
休日は明と一緒に一日中ドラキラのパーティープレイするそんな生活に帰りたい。
帰りたい。
あぁ、そうだ。帰りたいんだよ、そうだよな、生きて帰るんだよ。だったらこんな所で死ぬ暇なんてねぇんだよ!!
諦めてたまるか。
それにオレが負けたら誰が、
街で戦っている修羅姫、負傷者を手当てしているツバサ、街の中心で結界をまだ張り続けているゲンブ。
それだけじゃない、街の外で戦っている。スザクにキツナ、ビャッコとヒョウ、帝国兵やバチョフ達。
みんな、この街のために死力を尽くして戦っている。
そうだった、この作戦はどこか一つでも戦線の崩壊が街の終わりを意味する。
戦っているのはオレだけじゃない。苦しいのはオレだけじゃない。
「ほぅ、目に活力が戻ったか。何故、そんな姿になりながらも我に逆らう、何が貴様をそこまで駆り立てる?」
「あぁ生憎、オレはまだこの世に未練たらたらな十代なんだよ。だからな魔王、オレはテメェに倒される訳にはいかんのよ」
「死にぞこないが、貴様に何ができる」
カタカタカタカタ
不意に左手を見ると震えていた。
魔王にいつ命を潰されかねない状態、まだ自分が知らぬ間に恐怖してるんだと思った。
だが違う、左手じゃない。この震えは左手で握っている刀が起こしているんだ。
カタカタカタカタカタカタカタカカタカタ
周りを見ると砕け散った鎧と右手に握っていた刀の破片や折れてしまった刀身が共鳴するかのように小刻みに震えている。
あぁそうか、この刀の特性を忘れていた。
『自己再生』だ。この刀は黒龍の生命力を引き継いでいたんだ。
ぐさっ
肉を裂く音が聞こえた。
右腕の付け根の部分に鈍痛が走る。
「えっ――」
見ると折れていた刀身が刺さっていた。
刺された個所から血がしたたり落ち、地面を赤く染め上げていく。
だがそれだけでは終わらない。
刺さった刀身はまるで意思があるかの如く、肩に食い込み、肉を裂きながら骨にまで到達する。
「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”――」
喘ぐような悲鳴を上げながら、痛みに耐えられずのたうち回る。
『ガチリ』とまるで何かに嵌る鈍い音がするまで刀身は進んだ。
すると黒龍刀は人の骨の形となり、オレの右肩の関節と繋がった。
肩から刀身を囲むように赤い繊維が伸びてきて筋肉を、筋肉ができたと思ったら皮膚を生成する。
腕が再生した。
『自己再生スキルEX』を取得しました。
『無効化スキルEX』を取得しました。
目の前にロゴが表示される。
刀がオレの体の一部になった。これにより、オレの体には黒龍刀と同じスキルが使えるってわけか?
まぁ要するに、人の姿をした化け物になったって訳だ。
「貴様に今一度問わねばならない、貴様は人間か?」
「さぁな、オレ自身何が起きたのかわからない。でもその質問に答えるとしたら、オレは化け物だ」
――チャキン
魔王の首に刀を立てる。
のたうち回っていて気付くのが遅れたが、左手には先程まで握っていた黒龍刀とはもはや別物といえる刀があった。
砕けた鎧も黒龍刀の修復に吸われたためか、刀身およそ一メートル越えの大太刀となっていた。
だが重さは不思議と感じない。むしろ程よい重さだ。
「アスモデウス様!!」
ウサギの伯爵が叫ぶ。
魔王はオレを投げ飛ばすと盾と槍をまた構える。
「気が変わった。さぁ、剣をとれ雪。四度目の答え合わせをしよう」
右手の感覚は正常。普段とさし変わりない。
鎧は砕けて精神身体共にボロボロ、一撃でも攻撃を受ければ恐らく死ぬ。
だからこちらも一撃で仕留める。
息を吸い込み、大地を蹴る。
一歩、二歩、三歩――今!!
大太刀を振りかざす、魔王もすかさず盾を構えるが――もう勝負あった。
大太刀が盾に触れた瞬間、大太刀は盾ごと魔王の左翼を切り伏せた。
すごい切れ味だ。黒龍刀じゃ傷一つつけることのできなかった盾をこうもあっさり切るなんて。
「アスモデウス様!!」
咄嗟にウサギの伯爵が、魔王の肩を持ち、オレから距離をとる。
翼を切っただけじゃ瀕死にまでは至らなかったぽいが、それでも十分なダメージは与えられたはずだ。
切った翼は黒い球になり大太刀に吸われた。
どうやら切ったものを魔力に変え吸収するのか。
「見事な一筋だった。我を切り伏せるとは、だからこそ惜しい。貴様が魔族に盾を衝く存在であるがためにこの街もろとも消し去れなければならないことが実に惜しい」
魔王が指を鳴らす。
すると森のほうで土煙が上がり、土煙の中から何かが起き上がる。
とてもでかい。
オレが召喚した水の巨人と同等くらいの大きさだ。
「あれは龍だ。正式には人工的に作り上げた龍の紛い物。されど龍の端くれである、あれが暴れるとなると少々骨が折れるぞ」
魔王がそう告げる。
「いいのか、オレにそんなこと言って?」
「構わぬ、どうせ貴様はあの龍の紛い物によって死ぬだろう。だが、仮にもし貴様がアレを打ち取ったのならば次は正式な戦いにおいて顔を合わせることになるであろう」
「正式な戦いだと?」
「ふむ、それは生き残ればいずれ分かる話ここで言うのは無粋だろう。此度の戦い、中々面白いものであった。さらばだ、雪よ。ウサギ、撤収だ」
「御意」
ウサギの伯爵が転移陣を展開し、魔王が戦いの前に座っていた椅子に腰かけた瞬間にオレの前から姿を消す。
魔王の様子から見てオレとの戦いは御遊び程度のレベルだったみたいだ。
正直、魔王とはこれきりで関わりたくないが、どうやらあの思わせぶりな口調これからも巻き込まれることになりそうだ。全く、先が思いやられる。
だが、ここで愚痴っても仕方ない。
魔王が去った今、残す脅威はあの龍の紛い物。
このでかい置き土産をどうしようか




