第60話 黒の凶星
目の前の光景に驚愕するしかない。
先ほどまでオレが苦戦を強いられていた相手に対しもう一人のオレは退屈そうに相手をする。
ウサギの伯爵の攻撃はまるでやむ気配を見せない。むしろ時間がたつにつれ過激により苛烈になった。
それなのに、何なんだろう。彼女の圧倒的な強さの秘密。
同じ自分でも、もう一人のオレが何者かは知らない。ただ、なぜか、彼女からは敵意はなく、彼女から感じるものはやさしい感情。まるでいるだけで温かくなる。そういう人柄なんだろう。
「おい、主。貴様はこんな野兎に遅れを取っていたのか?」
突然の声にオレの思考は戦いに戻される。
≪だとしたら?≫
「心底残念に思う。この程度の敵に苦戦をされていてはこの世界では生きていけないぞ。まぁ私がいる限り殺させはせぬが、私が表に出た際の反動は厳しいものだろう」
≪つまりオレが弱いと?≫
「あぁ、主と同じ人間種や亜人種はともかく、この世界の強者の大多数は魔族だ。そんな中を生きていくことができるか主よ」
何も言い返せない。ドラキラをプレイしている側の時のオレだったら、何か即座に言い返していたかもしれない。だが、現に先ほどまで死にかけていた身にとってそれは、それ以上に説得のある言葉で実感させる言葉だった。
この世界はゲームじゃない、プレイする側からプレイされるプレイヤー側の世界だということ、コントローラから刀へと武器を持ちかえたことに。
「まぁ今回は主の中の私という存在があるということに気付かせることができた。それだけでも貴様は一歩強くなった。知ることと強さは強く関連している。真の強者とは力と知恵を兼ね合わせた者だからな」
彼女はそういうとウサギの伯爵を払いのけ、その大きな漆黒の翼を広げる。翼を広げただけなのに、風圧で体勢を立て直していたウサギの伯爵は弾け飛ぶ。改めて見るとやはりデカイ。全長8メートルから9メートルくらいだろうか。その大きな翼を風に乗せ、竜巻に乗りどんどん上昇する。
「主よ、強者になりたければ、知恵をつけ、力をつけ、自身の限界を何度も超えよ。その先に私はおそらく私はいるのだろう。そしていつか私という限界を超えるのだな。ふむ、この力の片鱗をお見せするとしよう」
「ここらへんかな」と変身直後の視線と同じくらいの高さで止まると彼女は詠唱を始めた。
≪これは全てを終わらせる、これは全てのものから終焉と恐れられた。さぁ終わらせよう。この世界、この文明、今を生きる者たちに――≫
彼女が手を挙げると頭上に巨大な魔法陣が現れる。伯爵たちが魔物を送りだした魔法陣、あれも巨大だったが、あれよりも巨大で強力で膨大な魔力で練られた超巨大な魔法陣。
その中から出てきたのは――超巨大な隕石
≪終焉をもたらせ――黒の凶星≫
詠唱が終わり隕石が振り落とされる。まさに神の一撃と比喩することができるほどの一撃。
もはや一人単位ではなくではなく、この星全体に撃たれたかのような規模。さすがに伯爵クラスであろうと逃げられるはずがない。そのはずなのに――
「――ちっ、逃げられた。」
隕石が地上に当たる僅か数秒もない時点で彼女は舌打ちをした。
オレが舌うちに気付いた時、地上から物凄い轟音が響き、土煙りの噴煙がこの上空まで登ってきた。
これだけでもこの隕石の魔法の規格外さががわかる。いやもっとすごいのは規模、威力、とともにこれだけの魔法を可能にする魔力を誇る彼女。ほんとに何者なのだろう、もう一人のオレとは。
ん? あまりにも驚くことが多すぎて忘れていたが、地上にはファージの街がある。
そこにはオレの仲間たちが!!
「安心しろ。本来なら六発セットなんだが、今回標的にしたのはこの固有結界このものだった。故に影響があるのはこの結果以内だけだ。それにこの固有結界はこの魔法を耐えることはできないから、一発だけに限定したからな」
オレの心中を察して彼女が説明してくれる。
なら――
≪――じゃあ、逃げられたってどうゆうこと?≫
「少なくともあの伯爵クラスにはそんな力はなかった……伯爵クラスよりも上位種の魔族の仕業だ。忠告だ主よ。この固有結界は私の魔法の影響であと数刻もすれば壊れてしまうだろう。私は私の世界でしか力を振るうことができないわかるな」
≪壊れてしまうとどうなる?≫
「簡単だ。私は主の中で再び眠る、故にこの肉体の制御権は主に戻る。ここまではいい、問題は私の結界が壊れた後だ。主よ、結果の外には伯爵の上位種が待ち構えているとしたら、絶対に逃げろ。首輪の力を使えば何とか逃げ切ることは可能のはずだ」
――パリン。
遠くのほうでガラスが割れたような音が響いた。
「まずい始まった。結界の崩壊だ」
パリン、 パリン、 パリン、 パリン、 パリン、 パリン、 パリン、 パリン、 パリン、 パリン
パリン、パリン、パリン、パリン、パリン、パリン、パリン、パリン、パリン、パリン、パリン、パリン、
パリンパリンパリンパリンパリンパリンパリンパリンパリンパリンパリンパリンパリンパリンパリンパリン
音が近づいてくるにつれ、その全貌がはっきりと分かる。
まるでこの結界の中は、ガラス細工であったかのように割れていく。
地面にしろ、空にしろ、竜巻にしろ何もかもが割れていく。
「お別れだな。主よ、次ぎ会うときはもっと強くなっていてくれよ」
そう言って彼女の体に亀裂が入っていく、その亀裂からオレは弾き出される。
弾き出された際の衝撃でか、あるいは時間切れか、彼女の体はガラスみたいに割れた。
それはまるで彼女がこの固有結界という小さな世界の住人であったかのように見えた。




