第57話 最初の決着
侮っていた。
まさかキツナの切り札『藤鬼』もっても倒せないとは。
見た限りではキツナに外傷はないが、キツナが仕掛けたあの一瞬ロバが確かに動いた。
だが、肝心の攻撃の瞬間が見えなかった。
これはロバ、いや、伯爵クラスの魔族の認識を改めなければならない。
「いやぁ、危うく僕の能力が通用しなくなるところだったよ。すごいねこの子、僕がここまで追い詰められたのはほんとに久しぶりだよ」
「能力?」
「そんなことも知らずに僕と戦っていたのかい? 伯爵クラスともなれば力とは別に仕えている魔王様から一部力を共有させてもらえるんだよ。君たち眷属で言う、主の力を共有させてもらうのと同じ感じだよ」
力の共有か。
我も主から炎魔法の共有させてもらっているが、我の炎魔法をただ単に主の炎魔法と合わせ威力を向上させたくらい。
これほどの共有は異常だ。魔王の存在とはこれほどに脅威なのか。
「それにしても、豚を倒したくらいで随分と調子に乗ってるね」
「凄い嫌われようだな豚の伯爵≪・・≫は」
「プ、っハハハハハ。あいつが伯爵? おいおい冗談も程々にしてくれよ。あいつは貴族、しかも突進するくらいしか頭が回らないただの馬鹿さ」
なん、だと……?
我は伯爵クラスに負けたわけじゃなくて貴族に負けたのか。
嘘だ。
ならば伯爵クラスの実力は我らの想像以上。
我らに勝ち目などあるわけないじゃないか。
「そうだ。僕をここまで追い詰めた君達に教えてあげるよ。本当の魔族恐ろしさを」
そうロバが耳元でささやく。
なんて速さだ。反応できなかった。いや仮に反応できたとしてもにロバがから発せられるプレッシャーがそれを許さない。
――プチン。
髪を一本抜かれた。
「さぁ、いくよ。これが僕の能力、≪複製≫の持つ力さ」
ロバの手の中で抜かれた髪がどんどん膨張していく。やがて人一人分ほどの大きさになると急に膨張するのをやめ形を整形していく。
しかしこの形はまるで――
「出来栄えは中々だろう? 見た目だけでなく戦闘能力も同じ≪複製≫の能力の一つ|複製生物≪ドッペルマン≫さ」
「これはまた面妖な能力だな」
「あぁ魔王様に直接授けてもらった能力だからねぇ。ほら、君が使ってたユニークスキルも忠実に再現できているよ」
ロバがそういうと複製者生物の手に当たる部分から蒼い炎が噴き出す。
間違いない、これは我が炎、我が蒼炎。
「そうだ、折角だし賭けをしよう。君が僕の作った複製生物を倒したら僕は撤退しよう」
「我が負けたら?」
「この子と君は僕の|物≪オモチャ≫だ。死ぬまでこき使わせてもらうよ」
勝てるか?
我が同等の力を持つものに
否、これは勝たなければならない戦い。
「さぁショーを始めようか!!」
「ドンッ――」と空気が爆発する音と共に複製生物がロバの掛け声を合図に近づいてくる。
この異常な速さ、瞬歩か。我の複製なら使えて当然か。
だが、この程度ならまだ我の方が速い。
魔力を手に集中。
我は煙、姿を留めることなく、常に変化するもの。
『煙逆』
接触まであと半歩、この速度なら十分に仕留めれる。
グサ――
あばらのあたりに激痛が走る。
刺された。
武器の軌道上、煙逆で確実に防げていたはず。
|普通の生物<・・・・・>ならばの話。
今敵対しているのは、形が変幻自在に変わるもの。
要するにこの敵の武器は、刀ではなく体全体。
「流石だねぇ。直撃を食らう前に、後ろに下がったのか」
ロバが称賛を送る。
力づくで、複製生物を引きはがし距離を取る。
完璧に油断した。
見た限りでは、傷の方は深くない、が視界が霞む。これは毒か。
接近戦は不向き、それに、あの速度。
仮に魔法で遠距離から攻撃しても、あの速度では詠唱を行う前に追いつかれてしまう。
ZU……U……ZU……U。
なんだこの音は、?
複製生物から不気味な音が一定間隔で聞こえてくる。
この一定の間隔、呼吸か?
だとすると、いくら複製生物とは言え、根本的には我らと同じで呼吸を必要としているという事か。
まぁ、どこの器官で呼吸をするのか知らんが。
「何をてこずっている? 早くとどめを刺しなさい」
ロバが命令を下す。
複製生物が再び仕掛けてきた攻撃を後ろに飛びながら避けていく。
「速く仕留めろ。この木偶人形」
ロバが言葉を荒らげる。
何か妙に引っかかる。何故ロバは優勢なのにこんなに事を急かすのか?
ZOOOOO―――!!!!!
複製生物がひときわ大きな雄たけびを上げ、刀いや体の腕に当たる部分に蒼炎を纏わせ投げつけてくる。
なるほど、蒼炎は遠距離攻撃としても使えるようだ。
恥ずかしい話、自分の能力なのに相手の方が使いこなしているとは。
だが、やはり所詮は偽物に過ぎないな。
飛んできた蒼炎を刀ではじく。
熱くない、我が出す蒼き炎は灼熱をも超える熱を持つ。
「さて我の複製生物とやら、貴様の技は参考になったぞ。そのお返しだ、受け取るがいい本物の蒼炎を」
刀にありったけの魔力で作った蒼炎を纏わせる。
さぁ、食らうがいい。
「蒼き刃は全てを焦がす――蒼刃全焦≪そうじんぜんしょう≫、蒼月衝破≪そうげつしょうは≫!!!!」
蒼き巨大な炎の斬撃が、複製生物を燃やし尽くす。
あの生物は避けなかった。いや、避けることが出来なかったのだろう。
生物は、息が出来なければ生きていけない、あの生物もその枠に当てはまる。
だとすれば、単純だ。
相手の呼吸する場ごと燃やせばいい。
よってあの生物が行動を起こすために必要な酸素量を先に燃やしきった。
一種の賭けだったが、何とか勝てた。
「いやぁ、お見事です。素直に感服いたしました、まさかこんな無茶な方法で倒すなんて」
「約束は守ってもらうぞ」
「えぇ分かっていますよ。それにもうお嬢様がお怒りなので僕も失礼させて頂きます。次に会うときはもっと僕を楽しませてくださいね、スザクさん」
名前を呼ばれたとき鳥肌が立ったが、ロバは素直に魔方陣を描き帰っていった。
「伯爵クラスの魔族、彼の者たちとの力の差がこれほどとは……」
焼けた森の中でスザクは一人そう呟いた。




