第56話 それぞれの戦況
第一目線、ウサギの伯爵
第二目線、主人公
第三目線、キツナとなっております
私の横でアスモデウス様が怪訝な表情をなさる。
この顔は何か気に障ることが起きたのだろう。
「どうかなさいましたか、アスモデウス様」
「山羊共がたった今全滅した。同じく毒を持った特殊な連中もな」
え?
「そんな馬鹿な!! 向かわせた部隊の戦闘能力は中級魔族も手を焼く魔物ですよ」
あり得ない、あの魔物は中級魔族も手を焼く魔物だ。
しかも魔族ほどの戦闘能力を持つ種族ならともかく、相手は種族的にいうと一番の劣等種亜人。
あり得るはずがない、いやあり得てはいけないことだ。
「あぁ。俺も当初は所詮は亜人の街、いとも簡単に落とせると思っていた。だがな予定外のことが起き過ぎている。街を囲う外壁、東西南北全てにおいて未だに侵入したという報告がない、特に北の門にはベルフェゴールから借りたロバがいるといいうのにな」
言われてみれば確かに……。
予測では二時間もかからないと言われていた、なのにかれこれもう半日は立つ。
「私が行って確かめてきましょうか?」
「戯け、お前はここで見張りをしていろ。使いたくなかったが心臓を使う」
「失礼いたしました」
アスモデウス様はそう言うと懐から心臓を取り出した。
相変わらず美しい魔力の塊だ。
「あぁ、そうだ。ないとは思うが仮にもしこの場に勇者が現れたとしたら殺すなよ、あの方への手土産にする」
「心得ました」
アスモデウス様はそう言うと、ただの魔力となった迷宮の残骸にお向かいになさった。
◇
目標捕捉
魔力補充完了
3…2…1 発射
銃口から白い炎が放たれる。
もうこの光景を何度見ただろう。
放たれた二つの白き炎が、まるで意思のある生物であるかのように魔物を次々と燃やし尽くしていく。
大体一回打つたびに、三十体は仕留めているが魔物の数は依然として減る気配がない。
「もうぼちぼち休憩したいんだけど、これいつまで続くんだ?」
≪恐らく大元を叩かなければこの魔物どもの進軍は止まらないだろう。チッ、追加だ宿主。およそ二百メートル先に魔力が構成されている、魔方陣だ≫
「了解、ティターニア」
ティターニアが念話で知らせてくれる。
「大元の場所とかは分からないのか?」
《すまない宿主、私はどうも探知という行いは苦手でな》
≪主はがさつだからな。宿主よ任せろ、あの魔方陣から我が逆探知を立ててみよう。だから宿主と主は戦闘に集中しろ≫
「頼りにするよ、アトラス」
≪がさつは余計だ、アトラス≫
はたから見たらこの会話している状態は、オレがただの危ない人にしか見えないだろう。
だって仕方ないんだもん。こっちから念話を飛ばそうにも、アトラスとティターニアにはオレの言ったことがどちらに対してなのか判りにくいらしい。
《足元に気をつけろ宿主。毒樹人共が毒沼を生成しているぞ》
「問題ない蒸発させる――白炎」
地面から白い炎が噴き出る。
まるで設置型花火を見ているみたいだ。
まぁ燃えているのは導火線じゃなくて、毒樹人なんだけど。
《上空より大量のワイバーン来るぞ》
「着陸される前に、かたをつける」
ワイバーンに標準を定め、銃の引き金を引く。
KYUAAAAAAAAAAAAAAA――
ワイバーン達が密集して出現したため瞬く間に炎が燃え移る。
ワイバーンの翼を焼き、一匹また一匹と地面に落ちては燃えている。
中には落ちる前に綺麗に燃え尽きた個体もいるみたいだ。
《できたぞ宿主。だが問題が発生した。二つある、魔力の痕跡の存在が二つある……のだが》
アトラスからの報告が頭に響く。
だが何故か途中で言葉を濁す。
「どうした?」
《近くにな宿主の眷属がいてな。そのうちの一体と戦っている》
「場所は?」
《北の門だ》
スザクとキツナが行った場所か。
メニュー画面から、眷属の項目を見てみるが二人とも共に大丈夫だ。
だけど、相手は伯爵クラスの魔族。今は大丈夫かもしれないが油断はできない。
かといってオレが相手をしに行って、もう一人の伯爵クラスを放置するわけにもいかない。
「もう一体の居場所は?」
《森の先、迷宮のあった場所だ》
「近いな」
ここは……二人を信じよう
ただでさえ強い二人が今はさらにブーストアイテム「対魔のピアス」まで装備してるんだ。
そう易々と負けるはずがない。
「森に急ごう。今は魔物を送り出している魔族を仕留めるのが先決だ」
《承知、案内する》
◇
「スザク、そっちに行きましたよ!!」
「任せよ、蒼炎――クソッ、またか」
もう何度避けられただろう。
攻撃は絶対に当たるはずの軌道にあるのに当たる直前に避けられる。
かといって彼が私とスザクに攻撃に反応できているかと言ったら、否、反応なんてできていない。
だから私たちはロバを何度も追い詰めることが出来る。
じゃあなんで毎回追い詰めた瞬間に何度も避けられる?
分からない、別に私とスザクも手を抜いているわけでもない。
むしろ、追い詰めた時にこそ私たちの攻撃速度は上がる。
それを避けることが出来るのは恐らく雪様くらいのはず。
ですが、彼から雪様ほどの力は感じられない。
「なるほどねぇ。豚の伯爵が負けた理由がようやくわかったよ、そのアイテムどうやら僕らに対して不利な状況にするアイテムだね、君たちだろう? 豚の伯爵を倒したのは」
豚の伯爵――確かビャッコが手を出すことさえできなかった相手。
最終的には雪様にやられたらしいですが……。
「どうしてそう思うのですか?」
「君たちの攻撃速度及びにその連帯性。それが豚の伯爵が誇る超再生能力追いつけないほどのダメージを生んだんだろう」
「仮にそうだとしたら貴様の目的は何だ? 仇討ちか?」
スザクがロバに対して質問します。
確かに仇討ちだとしたら筋が通っています。
魔族はただでさえ数が少ないはずでしたので、同じ伯爵クラスの豚の魔族が殺されたから来た。
といったような理由が浮上してきます。
「いやぁまさか。僕あいつの事嫌いだったんだよ、臭いし、汚いし、人の言う事聞かないし、お嬢様のお菓子勝手に食べちゃうし。むしろ礼を言いたいくらいだよ」
「ますますわからんな。貴様の目的は一体なんだ」
「僕たちがこの街に来た目的は唯一つ。宣戦布告さ、僕ら魔族の最強の魔王が復活した。だからデモンストレーションにこの街を破壊しちゃおうってこと。あとは……っとここから先は教えてあげない」
スザクの問いに対してロバが不気味な笑みでそういいます。
宣戦布告……。
実に――
「――くだらない。そのためだけにファージの街を破壊したのですか?」
「確かに君たちにとってはくだらないことだろう。でも魔王様の復活には必要な儀式なんだよ」
必要な儀式ですか、増々くだらない。
「あなたには分かりますか、魔物どもの侵入で家族を失った人の悲しみ。大切なものを壊された人の受けた痛みをあなたたちは知ってるんですか?」
「しらないよ。そんなどうでもいいこと」
「知らないですか……。今宵、紅と藍は静かに絡み合い藤色の花を咲かす。紅に酔い、藍き暴虐を尽くせ藤鬼」
『DGARRRRRRSSSSSSSSSSSSS』
久しぶりに怒りました。
このロバはここで絶対に倒す。
「ラッシュです藤鬼,完膚なきまで叩きのめしなさい!!」
「VARAAAAAAAA」
藤鬼の無数の拳がロバを襲います。
だけど、まだです。
まだ、全然足りない。
こんなことじゃ全然、ファージの人たちが感じた痛みには及ばない。
「まだまだまだまだああああぁあああ」
行ける、あと一押しあれば完璧に倒せる。
「――おっと時間切れだね。それじゃ、ぼくはもう帰るから」
えっ?
何故、何故ロバがえっ?
なんで私の後ろに?
私の意識はそこで途切れた。




