54話 ファージの街総力戦 東の門 幕開け戦い
クレナに誘われてオレは今、クレナの祠の中にいる。
初めてクレナと出会った場所だ。
「ごめんね。こんな忙しい時に」
「いいさ、お前の方こそ大丈夫か? この街のゴーレムの魔力は全てお前につながっているんだろう」
「それは大丈夫だよ。オイラこう見えても、この街の守り神的な存在なんだよ。それに魔力とゴーレムはおよそ1000年分くらいの貯えがあるから全然心配しなくて大丈夫だよ」
「そうか」
それなら安心だ。
魔力切れを起こすんじゃないか一応、ポーションを持ってきていたがその心配はなさそうだ。
「それで雪、話っていうのはね、……戦ったでしょ伯爵クラスの魔族と」
豚の魔族が脳裏を駆け巡る。
思い出した瞬間、全身に鳥肌が立つ。
とても恐ろしかった、ただこの言葉に尽きる。
そして再度確認した、越えられない種族の壁というやつを。
レベルがカンストしていたのにも関わらず、ティターニアがいなければ負けていた。
「その顔を見る限り、やっぱり戦ったみたいだね。どう思った、伯爵クラスの魔族の存在を?」
「関わりたくないと思った、今後一切魔族と」
「それじゃ君たちの荷馬車に乗っているあの子も見捨てるつもりなの?」
あの子の事とはハクの事だろう。
この街に入っていた時点で気づかれていたのだろう。
ハク……オレは彼女をどうしたいんだろう。
「いいこと教えてあげるよ、近々とても大きな戦争が起こるだろう。規模としてはオイラ達が体験したような古の戦争に近いだろう。今回の魔族の襲撃はそれの序章でしかない」
クレナがそう言い放つ。
序章、アスラの街で見たあの戦争と同じ規模の戦い。
「戦争が始まったら、今よりももっと魔族との亀裂が大きくなる。ここ亜人領での彼女の扱いはまさに地獄だろう。そんな時、君に彼女を守るだけの力があるのかい?」
断言できる。
そんな力オレにない。
今のオレには自分の事だって守れる力なんてない。
「人間はこの世界で最も貧弱な種族だ。だけど弱者の戦い方がある。それは強い者の力を借りることだ。いいかい雪、今から言う事は唯一君が仲間を守ることが出来る力を得る方法だよ。」
そうしてくれなは間を空けて言った。
「古の龍を集めろ、そして君が今を生きる黒の英雄となれ」
黒の英雄、かつてこの世界を救った黒き英雄。
オレと同じ異世界人。
「さぁ時間がない。オイラはここから出ることが出来ない、英雄になる君に渡すものがある。かつて英が龍の力を引き出すために作った武器『龍具』預かっていたものを雪に託すよ」
そう言ってクレナは四個の指輪を差し出す。
それぞれ宝石の色が違う。
赤、青、水色、茶色、黄色。
鑑定しなくてもわかる。この指輪にはとてつもない魔力が秘められている。
「この指輪の中には、龍と契約せしもののみが使える武器が入っている。全てを焼き尽くす炎、どんな激流をも従わせる水、振るえば一面を銀世界にする氷、山をも創造できる岩、天を飛来する雷、さぁ新しい門出だ、君自身の冒険譚のね。新たなる英雄に幸があらんことを、雪……強制退出」
「えっ、ちょっ!?」
クレナがそう言い終えると、同時に凄まじい目眩が体を襲う。
あぁまたこの感じですか。
パタンッ
意識が途絶えるなか『巻き込んでごめんね』と何度も謝る僅かな泣き声が聞こえた。
◇
「兵長!! このままでは押されてしまいます」
「ええい、分かっておる、喋る暇があるなら手を動かせ!! ここが破られてしまったら前線の崩壊につながるぞ」
東の森から突如として現れた新手の魔物たちが兵たちを襲う。
「増援はまだかッ!?」
兵長と呼ばれた老兵士が叫ぶ。
「無理ですッ!! どこの持ち場も手が付けられな状況です、我々だけで持ちこたえるしかありません」
彼の部下らしき兵がそう答える。
状況は最悪、いつ崩壊してもいいと言えるほどの劣勢。
その状況を見て笑うものが一人いた。
「ハハハハハハハハ、無様だな。あれが千年帝国最強の守護部隊だと、笑わせる。貴様はどう思うウサギ?」
「ハッ、相手はアスモデウス様の華麗なる作戦に手も足も出ないようです」
「だろうな。何せこの世界で一番美しいと言われる男の作戦が美しくない訳ないだろう」
東の森の迷宮の入り口で豪華な椅子に座る魔族がタキシードに身を包む魔族に尋ねる。
口調や態度から椅子に座る方が身分は上なのだろう。
「折角来てやったのに水晶の力を使うまでもないとは」
アスモデウスと呼ばれた男が、赤い水晶を懐から出す。
「鉱石族の心臓は見事なまでに美しい。使わぬのなら使いたくはないのだが」
「ですが、豚を仕留めた者もいるので油断はできません。いくら大罪の魔王の貴方様でも」
ウサギがそういった瞬間、美しくとも残酷な魔力が辺りを覆いつくす。
「言葉を気をつけろ、ウサギ」
今の一瞬の出来事は全てこの男のせい。
色欲の魔王・アスモデウス。
七人いる大罪の魔王の一人。
「いいか? 魔王が負けることなどあってはならないし、あるはずのないことだ。もし同じようなことを次に言ってみろ。今度はお前がその右腕になる番だと思え」
「はい、アスモデウス様」
ポチャリ――ウサギの右腕が地面に落ちる。
ただ落ちたのではない。腐り落ちたのだ。
美しくないものを醜く変貌させる能力『色欲の魔法』の一部分である。
並大抵の魔法など足元にも及ばない魔法、禁忌の魔術。
「だが、貴様の忠告はこの俺を思っての事。その忠誠心はとても美しい」
「ハッ、恐縮でございます」
「まぁ、貴様を作ったのはこの俺だ。この程度ことできて当然なのだ。フハハハハハハハハハハ」
アスモデウスが高らかに笑う。
だがまだ彼は知らない。
およそ30分後には彼らに戦場を楽しむ暇など無くなるということを……。




