第40話 初の迷宮探索(7)
~雪たちがダーティワームと攻防を繰り広げているときのファージの街~
「ここが気持ちいいんですかマナツ?」
「ガウ!!」
「ああ!? こら、マナツ止めてください、くすぐったいですって」
もぅ、マナツのせいで服が涎だらけです。後でお風呂に入らないと。
青い空にゲンブさんが街を守るために張ってくれた木の結界、その中心とも言える街を覆うほどの大樹からの木漏れ日、平和そのものですね。ほんとに迷宮何かが近くになければ。
まぁここが平和だからこそ私はこうやってマナツのブラッシングができているんですけど。
「ツバサ、ここに居たんですね」
「あらゲンブさんどうかしたのですか?」
まぁゲンブさんのこの顔は大方何か分からない文字か理解できない魔方式の説明を求めてきたというところですかね。
「見てください。私が考えた魔方陣を」
「えッ、ゲンブさんが考えたんですか?」
「ええ。先日読んだサラクレネスの魔導書に描いてあった、遠距離通信魔法を音声だけでなく映像も入れればより通信しやすいではないのかと思い、少しいじってみたのですがどう思いますか」
すごい。この発想が出てくること自体がすごい。
やはりゲンブさんの知識の探求心感服します。
でもですね、そんな自慢げになっている時に大変言いにくいんですけど、、、
「その魔方陣、実はもう開発されているんです。サラクレネスの弟子たちがサラクレネスが亡くなってからおよそ三十年かけて」
「そ、そんな、この魔法もう開発されているんですかッ!?」
「えぇって、そんなに落ち込まないでください。彼らも三十年かけてようやく完成かけたんですから」
そう魔法というものはまず基本となる術式と術式を組み合わせていき作る物。
例えば、速読の魔法。これは書物などを読むときに私が使っている魔法の一つです。効果は地味ですがこれにもたくさんの魔法が使われています。
集中力を向上させる術式から自分が得る情報量を上げる術式、また疲労を軽減させる術式など色々な術式を取り入れて初めて魔法が完成します。
もちろん発想を出し合い、その術式を作り上げるには膨大な時間がかかります。
およそ一つの呪文ができるために必要と言われる時間は約四十年。
だからすごいんです。
ゲンブさんがたった数日で改造したというこの魔法、見る限りかなりの複雑な術式を取り込んでいます。
この術式は恐らくサラクネスも真似することはできないでしょう。
天才とはまさしく彼のような者を指すのでしょう。
「ガルルルルル」
「ん? どうしましたマナツ」
マナツが突如うなり声を上げ出します。
「これは…ずいぶん異質な。早急にキツナに報告を入れないと」
「はい?」
「恐らくですが敵です。私とこの街を張る結界は魔力で繋がっています、故に見えるのです。この木が見た景色が、この異質で不快感を覚える魔力が」
景色が見える?
「ツバサ、冒険者ギルドに行ってください。早くしないと主様の迷宮攻略に支障が出てくるかもしれません」
◇
――同刻冒険者ギルド
「はいは~い、カレー七人前出来ましたよ。キツナそこの冒険者さんに持って行ってくださいな」
「分かりましたビャッコ。しかし量が多いですね、カガト手伝ってください」
「はぁ、やはり連絡が着きませんか」
「カガト?」
どうも先程の調査から帰って来てからカガトの様子がおかしいです。
何というかあたふたしているというか、心ここにあらずです。
まぁ何か考え事があるみたいなら、カレーは私が運びますか。
《念動力》
「うおぉ、カレーが飛んできやがった!!」
「空飛ぶカレーだ」
クフフ、驚いていますね皆さん。
さてとお困りのカガトの相談にも乗ってあげましょうかね。
「なんじゃ、若いの何か困りごとか。このオキナが何なら相談相手になってやろうか?」
お爺さんに先を越されてしまいましたか。
まぁ、私よりも長生きしているお爺さんの方が良いかもしれませんね。
亀の甲より年の功ともいいますね。
「貴方はギルドマスター。冒険者とは関係ないこの聖騎士の悩みも相談に乗ってくださるのですか?」
「あぁこのギルドの中に居る限りお主はギルドの仲間そのものじゃからな」
「ならお言葉に甘えて、先程から帝国と通信が取れないのです」
通信?
確かカガトが先程使っていた懐中時計のような形をした魔法道具でやっていたことですかね?
「迷宮の影響によるものか?」
「いえ、先日は連絡出来ていたのですが先程から取れなくなりまして」
「通信機の故障じゃないのか?」
「だといいのですが……」
「何じゃまだあるのか?」
「最後の通信の時、帝国から異質な魔力を探知したと報告を受けました」
カガトとギルドマスターが深刻そうに話し合っています。
それにしても異質な魔力ですか……。雪様達に影響がなければいいですけど。
「大変ですっ!! キツナはいますかッ!?」
ギルドの扉が勢いよく開きます。開けたのはツバサです。
それにしても息切れが半端じゃないですね。走ってきたのでしょうか。
「どうかしましたか? ツバサ」
「大変です!! 外壁の付近に魔物の軍団が現われました。早急に対策を打たなければファージの街は終わります」
先程までは賑やかに食事を楽しむほどの余裕があったギルドに戦慄が広がります。
なるほど、雪様が最初に言っていたタイムリミットとはこの事ですね。
「ゲンブはどこですか?」
「念には念をということで結界の魔力を強めに行っています」
「そうですか」
ひとまずは安心ですね。
ゲンブの結界が早々敗れるはずがない。ですが守るだけというのもなんですね。
「ゲンブさん曰く、一つだけずば抜けて異質な魔力を持つ者が迷宮に向かっているらしいです」
ほほう、親玉はそいつですか。
しかし迷宮に向かっているのなら雪様の支障になりかねませんね。
街の周りは魔物ばかり、その中を迷宮までを駆け抜ける高い俊敏性、そして魔物群れを蹴散らし前進できる突破力。
自然と迷宮まで駆除しに行くのは私とビャッコになりますね。
しかしファージの街を守るように雪様からの命がある。
仕方がありませんね。
「ビャッコ迷宮に向かい雪様の邪魔者を排除してきなさい」
「はいは~い、承諾しました。」
「ビャッコさん私もお供させていただきます。隊長たちへ危険が迫るのなら居ても立ってもいられません」
そう言って手を上げたのはカガトです。
しかし、カガトのレベルは……700!?
確か先程までは400代でしたはず、何が起きたのですか!?
「行ってもよろしいですか?」
カガトの瞳が青く光を放ちます。
冷たいようでどこか荒々しいオーラを持つ瞳を。
例えるなら音も無く獲物に近づき仕留める獣です。
魅了の効果がないのに何故か、カガトの瞳から目が離せなくなります。
「いいでしょう」
ビャッコが私の代わりに答えます。
これがプレッシャーというものなのでしょうか。
カガトに見つめられた時、微かに冷や汗をかいてしまいました。
「ビャッコ大丈夫ですか?」
「安心してください。カガトは弱くありません、微かにですがカガトからは主様と同じ匂いがしますし」
雪様と同じ匂いですか。
……というかビャッコいつ何処で雪様の匂いなんて嗅いたんですか?
そもそも同じ匂いってまさか、
「ビャッコまさか、雪様とあんなことを……許さない」
「何か誤解してませんか? 私が言っているのは魔力が少し違うということですよ」
私としたことが危うくビャッコを亡き者に変えてしまうところでした。
カガトについて気になることはありますがとりあえず全て考えるのは後にしましょう。
まずは目の前の問題を解決しなければ。
「それでは二人とも、迷宮の方は頼みます」
「承知しました」「任せてください」
とりあえず雪様の方はこれで問題ないでしょう。
さてと、この魔物の軍勢どう対処いたしましょうか。




