第34話 初の迷宮探索(1)
「いいか、この迷宮は他の迷宮と訳が違う。正直に言おう諸君らは最悪の場合命はないと思え。だから常に冷静の状態を保ってくれ、俺はお前たちの死体を見るのは嫌なんでな。絶対に生きて帰るぞ」
『『オオオォォ』』
朝から森全体に暑苦しい叫び声が響き渡る。
先程叩き起こされた身としてはうるさいばかりだ。
察していると思うがオレ、スザク、修羅姫とバチョフ率いる第八部隊の火属性を得意とする魔術師が総勢40人ほどが昨日キツナが見つけた迷宮の入り口に集まった。
人数が人数の為ただでさえ息苦しい空間にバチョフが死亡フラグを吐いたせいで、部隊の士気は上がる。
昨日の夜は遅くまでハクの誤解を解くのに時間をかけてしまった。
ただでさえ寝不足なのにこの暑苦しい集団はきつい。
「主よ。ほんとにアレを連れて行って大丈夫なのか?」
隣に居るスザクから声をかけられた
アレとは修羅姫のことだろう。
先程から少し浮かれ気味だ。
「釘は刺しとくけど見てやってくれ。お前が見ていれば安心だから」
「承知した。しかし常にとは無理と思うぞ」
「その辺も含めて忠告しとくよ」
「頼むぞ」
なんだかんだいってスザクは修羅姫のことを可愛がっている。
だから心配なのだろう。
あんな浮かれ気味で足を滑らせないか。
「雪、迷宮攻略だよ!! 何か宝とか眠っているのかな?」
正直朝からこのテンションは少しついていけない。
適当に「あるんじゃないかな」等と返事を返しつつ本題を伝える。
「修羅姫、あまり浮かれ過ぎるなよ。下手したら死ぬかもしれないよ」
あえて『死ぬ』の言葉だけは重く言い放つ。
別に脅しているわけではない。
今回の迷宮に修羅姫を連れてきた理由は修羅姫の修業が大きな理由だ。
しかも迷宮に出現する魔物の平均レベルは修羅姫よりも少々高い。
ゲームならレベル上げに最適なスポットだが、もし修羅姫自身のミスでオレやスザクのフォローが間に合わなかった時必要になるのは、冷静な判断力。
そのため今回オレとスザクがフォローするのは必要最低限だけ。
だから少し緊張感をもって臨んでほしい。
「分かってるよ。僕自身アスラの街での出来事から気をつけて行くつもりだよ」
急に声のトーンが落ちた。
修羅姫は修羅姫なりにあの出来事を気にしているのだろう。
さすがアスラの街では軍隊長を任せられるだけある。
なら問題はない。必要最低限のフォローはスザクと全力で挑むことにしよう。
「では、召喚の儀を行う。カガト全員に携帯術式を」
バチョフからの命令でカガトが魔方陣が描かれた折り紙サイズの紙を配り始めた。
「これから何をするんだ?」
オレ達に紙を配りに来たカガトに聞く。
「今から精霊の力を借りて斥候部隊を作ります。この紙は召喚陣が描かれているのでこの紙に魔力を送り込むだけ一時的にですが自分の分身、魔力で作られた生物『精霊』を呼び出すことができるんです」
カガトからの説明だと生み出した精霊はいわばもう一つの自分。
精霊が見る景色は自分の目にも反映され、精霊に命じることと魔力を供給することによって魔法を扱うこともできる。
その精霊たちだけで斥候部隊を形成するらしい。
中々ファンタジーだ。
「この紙に魔力を流すだけで生み出せるのか?」
「はい。この紙の魔方陣は一時的に精霊界とこの世界を繋ぐゲートだと思ってくださればいいと思います」
さっそくスザクが試すみたいだ。
他の魔術師が召喚した精霊を見る限り、精霊とは霊体みたいだ。
形は人によって違う。虎の形をした精霊もいれば、ドラキラなどにも出現する妖精の形もいる。
バチョフ以外の精霊がオレンジ色なのは魔術師の属性が関係しているのだろうう。ちなみにバチョフは薄緑色だ。
これは本で読んだことなのだが、この世界の生物には生まれつき得意な属性と不得意な属性があるらしい。
例えば修羅姫は火魔法は得意だが水の魔法は使えない。
これは種族によって産まれ持つ属性は決まっていることなので覆すことのできない事実。
だが例外もある。
――再設定。自分の眷族にしかできないこと。
再設定により眷族の姿、属性や強さ等を変化させることができる。
それともう二つ。
一つはヒョウやキツナのようなイレギュラーな魔法を使える存在。
もう一つはこの世界では極稀にしか生まれない属性を持たない存在。
属性をもたない存在は属性の影響を受けやすい。
多分だが、オレもその分類に入るだろう。
「ピヨ」
ん?
「ピヨピヨ」
目の前にオレンジ色のヒヨコ(?)がいる。
何で?
「わぁ、初めて見たよ。精霊の具現化」
精霊の具現化?
何だそれ?
「雪知らないの? 普通の精霊は隊の皆みたいに半透明な霊体だけど、召喚する人の魔力によっては肉体を持つ精霊もいるんだ。まぁ具現化にはとんでもない魔力量が必要になるけどね」
このヒヨコ(?)はスザクの魔力でできた分身。
つまりスザクはヒヨコ。
「ブフォ!」
「主、笑っておるだろうッ!! 止めろ!! そんな憐みを剥けるような目でこっちを見るなッ!?」
おっといけない、吹き出してしまった。
「でもどうするんだ。そんなヒヨコに斥候は任せられるのか?」
「確かにそうだよね」
スザクはオレと修羅姫の意見に苦渋の顔をし一言。
「我自身が斥候部隊になろう」
「アホナンデスカ?」
こうしてオレの異世界初の迷宮探索が始まった。




