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黒の英雄譚 ~漆黒の女帝~  作者: 涙目 ホクロ
職人の街 ファージ
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第28話 ファージの街(6)仮題

ここはどこだろう?

私は何をしていた?

思い出せない。思い出せない。思い出せない。何も思い出せない。

えっと私は誰だ?

そもそも私に名前などあったのか?


「ようやく気がついたようだな。気分はどうだ?」

どうやら私はこの人に助けてもらったらしい。

「えっと貴方は?」

「ヒョウだ。二日ほど眠りっ放しだったぞ」


二日間も?

私に一体何が起きたんだろう。


「まぁいい。何か食べるか? 主が作り置きを作っていてな」

そういってヒョウさんは私にお湯に浸かった米を手渡す。

「これは?」

「確か主がお粥と言っていたな。見たことない料理だが主いわく、体調を崩した時や病み上がりに食べる料理だそうだ。まぁ毒は入っていないだろう」


私はヒョウさんからお粥を受け取ると恐る恐るそれを口に運ぶ。


「おいしい。優しい味わいですね」

「それは良かった。主に伝えておこう」


私がお粥をゆっくり咀嚼してゆくのを見届けると少し微笑んでこう告げた。


「それにしても驚いたぞ。まさか亜人領で魔族と出会うなんてな、しかもまだ子供の」


ヒョウさんの一言で初めて私は自分の姿を見る。

白くて糸よりも細い長い髪。

必死にスプーンを握っている小さな自分の手。


「私は魔族と呼ばれる種族なのですか?」

「これは驚いた。自分が何に属する生き物なのか分からないのか?」

「ええ。何も分からないんです。いや正確には思い出せないという感じでしょうか」

「記憶喪失というやつか。まぁ人喰い植物に襲われていたくらいだしな、まぁそのうち思い出すだろう」

「人喰い植物ですか?」

「あぁ、まぁ主はそれを調味料として見ていたがな」


ヒョウさんが苦笑いを浮かべつつそう告げる。

それにしてもヒョウさんが主と呼んでいる人物は相当な化け物かもしれない。

いやよく考えたら私を助けたことも食べるためだということもあり得る。


「ん、何をそんなにおびえているんだ?」

「私は食べてもおいしくないですよ。むしろ骨だけで味は淡白です。絶対まずいです!!」


私が青ざめて言っことに対しヒョウさんは笑いながらこう言う。


「安心しろ。別にお前を食ったりはしない保護しただけだ」


どうやら食べられる必要はないらしい。

良かった。


「そういえば名前も思い出せないのか?」

「はい。そもそも私に名前などあったかどうかあやふやで……」

「そうか。よほどショックな出来事があったんだろうな」


ヒョウさんが私に同情してくれる。

ほんと何ですべて忘れてしまったのだろう?


「まぁ名前がないのは不便だ。どうだここに居る間はハクと名乗らないか?」

「ハクですか?」

「あぁ、その白い髪から取った。単純だが憶えやすいだろう。それに記憶を失くした少女を見捨てることなど出来ぬからな」

「あの大変言いにくいことですが、こんな身元も分からない私を置いてくれるのですか?」

「何を言っているお前は子供だ。子供はそんなこと気にするな」


そういってヒョウさんは私の頭をなでる。


「それになハク、ここにいる輩のほとんどが変わり者だ。龍に魔獣、半獣に天馬、阿修羅族そして化け物じみた人間。今さら記憶を失くした魔族が加わったとしても何も驚くことはない」


ヒョウさんはまた大きな手で私の頭をなでる。

何故かこの人に頭をなでられると安心する。


「しかし、目を覚ます機会を失敗したな。今滞在している街はつい最近に魔族の被害を受けてしまってな、魔族に対する警戒心が特に強い。だから外をうろつかぬようにな」

「魔族とは悪なのですか? だとしたら私は迷惑じゃ……」


――ペチンッ。

頭を軽く叩かれた。


「さっきも言っただろう。お前は子供だ、何も心配するな」

「ですが、悪だとしたら」

「地方にもよるが、魔族とは確かに悪い印象の方が多い。しかし、魔族が起こす魔法によって救われる者もいる。どれ少し昔話をするとしよう」





たしか西の大地を旅していた時に聞いた話だったか。

干ばつで苦しんでいた村があってな、そこには魔法使いも居なくてなただ滅びを待つだけだった。

そんな村にある日、旅をしている魔族の女が訪れて食料を求めた。

当然ながら村人も自分の食いぶちを繋ぐのがやっとの状態だったため、魔族の女を見捨てた。

ただ見捨てるだけなら良かったが、女は魔族というだけで神への生贄として磔にさてしまってな。

当時の村人はこれで雨が降ると思っていたらしい。

磔にされて二日目の夜だったか。

その村に住む少年が夜中に抜け出してな、魔族の女にこんなことを言いにいった。


『魔族の魔法は強大だと聞く、その魔法を僕に教えてくれ』


すると魔族の女はこう答えた。


『それはできない、魔族の魔法は人間に影響が大きすぎる』と。


しかしこの少年も頑固者でな、魔族の女にこう言った。


『神は僕らの村を見捨てた。だから僕は僕自身で道を切り開く』


この少年の両親は干ばつの影響の深刻な食糧不足により、餓死寸前の状態だった。

さてここで女は考えた。少年の願いを見つける方法を。

そして思いついた。


『私と仮契約しないか?』


仮契約とは本来の主の肉体に印を埋め込み主自身を強くする契約とは違い、主の魔力の一部と一心同体となりその魔力に永遠の服従を誓うことをいう。

つまり魔族にとって仮契約とは一番の辱めであり、惨めな行いだった。

しかし少年は契約に対する肉体は出来上がっておらず、魔族の女も磔にされ二日間飲まず食わずの身だったため魔法を使おうにも魔力も体力も限界に達していた。

故に力を持たない少年は魔族と契約した。

魔族は魔族で少年の魔力として少年の中に生き続けることになった。

そして少年は転向を操る奇跡の魔術師として村の英雄となった。







「それでしたら魔族の女は損をしたわけではないのですか?」


だってそうだ魔族の女はなぜ自分を磔にした村の人たちの役に立とうとしたのだろう。


「これは我の憶測なのだが、当時は黒龍と黒の英雄の戦争直後の出来事だった。だから女は黒龍が生み出した魔族は世界からひどい差別を受けていた、だから女はせめて魔族の印象を良くしようとして散ったのではないか? それに魔族の女が旅をしていたこともそれが目的なら辻褄が合うしな」

「なるほど。確かにこの話を聞くと魔族は悪とは限りませんね」

「だから我が言いたいのはな、世界にはこのような魔族もいる。それにここに居る輩は誰かが道を外そうとした時は気付いてくれる者ばかりだ。だから記憶が戻るまでの間はここに居ろ」


ヒョウさんはまた私の頭を撫でる。

そして私はその撫でられ方に安心感を憶え、気付かぬうちに眠りに落ちていった。

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