第25話 ファージの街(3)仮題
今回は雪視点ではありません、修羅姫さんです。
誤字、脱字などがあれば報告してくれたら嬉しいです。
雪と分かれた後、僕はキツナさんとゲンブさんと一緒に領主の屋敷に訪れていた。
「この屋敷どこかおかしいですね?」
「おや、キツナもそう感じますか? 実は私も先程から違和感を感じていたんですよ」
二人は屋敷から何か感じるらしい。
僕は特に何も感じないけど……。
「修羅姫様、ここからは異様な気配を感じます。私とゲンブがついて居るので心配はいりませんが、万が一ということもありますのでご注意ください」
キツナさんが僕に忠告してきたが万が一という可能性はないだろう。
なにせキツナさんは師匠から聞いた話によると雪の眷族の中で最強クラスに当たるらしい。
またゲンブさんは師匠もしくは師匠以上の強さを持つとも言っていた。
師匠以上だ。師匠もただでさえ常人離れしているのに……。
「どうかいたしましか? 修羅姫殿」
「何でもないよゲンブさん。それよりも早く中に入ろう」
僕は屋敷の扉をノックする。
しかし中からは誰か出てくる気配がない。
「おかしいですね、雪様が言うには領主の屋敷からは生体反応があったらしいのですが」
「実際に入ってみたらわかることでしょう。おや、扉にカギがかかっていますね」
そう言ってゲンブさんは木製の扉に手をかざし「腐れ」と一言つぶやいた。
すると木製の扉はみるみる腐っていき、白蟻にでも喰われたようにボロボロになった。
そしてゲンブさんが再び扉に手をかざすと扉はいとも容易く崩れ落ちた。
「さぁ行きましょう」
笑顔でそう言うゲンブさんを筆頭に僕とキツナさんは屋敷に入って行った。
屋敷の中に入ると二人の言っていた意味がようやく分かった。
昼間だというのに光を拒むかのように閉ざされたカーテン、ほのかに匂う血の匂い。
前に来た時はおしゃれなアンティーク家具にガラス製の大きなシャンデリアがあったロビーだったのに。
今ではその面影すらない。
「おやおやようやくお出迎えのようですね」
キツナさんの一言で僕は我に返る。
どうやらいつの間にか囲まれていたらしい。
それにしても魔物の種類にゾンビやスケルトンが多い。
「修羅姫殿、気付かれましたか? 彼らの着ている衣服に」
ゲンブさんの言うとおりゾンビやスケルトンの衣服をみてみる。
執事服や甲冑、メイド服。多種多様だが大抵の領主が雇っている使用人たちの服装だ。
「皮肉なものですね。死してなお仕えるべき主人にこんなことにされるとは、同じ仕える者のせめてもの情けです」
キツナさんは帯に挿していた扇子を広げ一言、
「出てきなさい。紅鬼、藍鬼」
すると扇子に描かれていた二匹の鬼の絵が扇子から飛び出て、鬼たちはその巨体からはあり得ないスピードで魔物の蹂躙を始めた。
これで分かった、彼女が最強の眷族だといわれる理由が。
召喚魔法は下級精霊を呼びだすだけでも多量な魔力を消耗する。
しかしキツナさんが召喚した生物は次元が違う、それも二体同時に。
その分魔力を多く消費し、精神の負担は増加するはずなのにどうして?
どうしてキツナさんはあんなに澄ました顔でいられるんだろう?
「それはですね、キツナが今怒っているからですよ」
「怒っている?」
「はい。キツナは気持ちが高ぶると魔力が身体から無尽蔵にでてくる特異体質なんです。それに紅鬼、藍鬼を召喚する時は本当に怒りを覚えている時だけなんです」
「だけどゲンブさん、キツナさんが抱いている怒りは誰に対しての怒りだい?」
「それはもう分かりますよ」
どうやら魔物の殲滅が完了したらしい。
するとロビーの階段から拍手をしながら下りてくる魔族がいた。
「いやぁー、凄いね君。僕が用意した駒達をいとも簡単に全滅させちゃうなんて」
「貴方はファルウ様ですか?」
「おっ、久しぶりだねぇー、修羅姫ちゃん。蔵鬼は元気にしてるかい?」
信じたくなかった。
ファルウ様は民思いで正義感が強い領主様だ。だから蔵鬼さんを始めとした各地の領主様達から武器の生産を任されたり、民もそれに答えようとする彼が中心の街。
それが僕の知っているファージの街だ。
なのに何故
「何故、魔族に落ちたりしたのですかっ!!」
「そんなの決まっている、圧倒的な力の差を見せつけられたらだよ。君は知っているかい? 伯爵クラスの魔族の強さを、目の前で勇敢に立ち向かっていった兵たちがことごとく簡単に目の前で死んでいく絶望的な状況を知らないだろう。そんな時魔族に言われたのさ、『貴様を信じる者すべてを手にかけろ、さすれば貴様だけは見逃してやる』と悪魔の囁きだということは頭では理解していたさ、でも気付いた時には遅かったのさ僕は自分の家族から使用人全てを殺していた。それからなんだよ、無性に喉が乾くんだよ。特に君たちみたいな可憐な女性を見ると喉が渇くんだよ」
激情に駆られたようにファルゥ様は牙を剥き出し僕をめがけて跳躍する。
しかしファルウ様が僕に届くことはなかった。
なぜなら藍鬼が向かってくるファルウ様を撃ち落としたからだ。
「全く哀れな人ですね。貴方は上に立つ者の器じゃない」
「貴様に何が分かるッ!? 僕の、僕の――」
「僕の何ですか? 貴方は自分が生きたいが為に貴方を信じた者の命を奪った。自分が危なくなったら信じた者を見捨てる、上に立つ者としてはあまりにも臆病。またこの行為は貴方が死ぬまで背負わなければいけない決して許されない罪です。それに貴方の気持ちは私もよく分かります。かつて私自身も雪様に会うまではただの化け物でしたので。その罪を受け入れることができないのなら貴方に生きる価値はない。だから選択肢を用意しました、選んでください。罪と向き合い生きて行くか、それとも今全てを捨てて楽になるか」
ゲンブさんが後ほど分かるよと言ったことがようやく分かった。
キツナさんの怒りは過去の自分に対しての怒りだ。
キツナさんはファルウ様を昔の自分に重ね合わせているんだろう。
「なお後者は楽に死ねるとは思わないでくださいね。貴方が犯した罪の痛みをゆっくりじっくりと貴方に味あわせながら私が殺します」
笑顔でそう告げるキツナさんにファルウ様は薄く笑みを浮かべると、元の姿に戻った。
いや正確には自分の持てる力で強制的に抑えているといった感じだろうか、命を削って。
「――僕には罪と向き合っている時間はないみたいだ。時期にこの身体は僕の制御が効かなくなる。その前に君に頼みがある、僕を殺してくれ。魔族の玩具になり民を苦しめるくらいなら、僕は僕の罪を受け入れ消えることにするよ」
「本当にそれでよろしいのですか?」
「ああ。さぁ早く、僕が意識を保っている間に」
「分かりました。紅鬼、藍鬼、本来の姿に戻ることを許可する」
キツナさんがそう言うと紅鬼と藍鬼が一体化していき白装束を着た藤色の髪をした鬼女となった。
「鬼女よ、この者の犯した罪をこの者肉体に刻みこみ、この者を滅ぼせ」
キツナさんの命令に頷くと鬼女はファルウ様に近づきファルウ様の耳元で何か囁いた、そしてファルウ様は前のめりに倒れた。
「よかったですね、鬼女が出たということは貴方は一瞬で死ねたはずです。私はこれから貴方を殺した罪を背負っていきます。ですので安心してお眠りください」
僕が理解できたことはキツナさんが召喚した怪物が即死魔法を使いファルウ様を殺した言うことだ。
どちらにせよ、もうファルウ様が魔族になった時点で亜人領の法律で終身刑ということは確定していた。
だから、自分の大好きな街で死ねただけファルウ様は幸せだったかもしれない。
死をもたらす魔法、それは術者自身の身を蝕む古代魔法の一つ。
今はその代償がキツナさんを蝕んでいるんはずなのに彼女はなぜ平然を保てるのだろう。
「それはキツナの代償は殺した者のことを一生覚えていることで肉体的代償はないからですよ。ですが、表情に出さないだけでだいぶ堪えていると思いますよ。彼女自身はもう何度もあの光景を見てきているので」
ゲンブさん教えてくれたが、僕にはまだ少し難しいことだった。
「さぁゲンブ、修羅姫様、早く手掛かりとなる物を見つけて雪様達と合流しましょう」
キツナさんの一声で僕たちは屋敷の中を探索してみたが結局収穫はなかった。




