第24話 ファージの街(2)仮題
すこし長めです。
街の中心の広場から少し離れた丘の上にその祠はあった。
よく日本で見る神様などを祀ったりしている典型的な祠だ。
アトラスの話では祠で友人が待っているなどと言っていたが丘の上には人いや、猫や犬といった動物すら見当たらない。
不気味すぎるほどの静寂。正確には避難しているという認識が正しいのだろうが、こうも静かだと街から人が一人残さず消えたという発想になってしまう。
早くこの街で何が起きたか知りたいのにこれでは聞き込みといった情報収集すらできない。
それ以前に荷馬車を降り広場まで行くまでそれなりの距離があったのだが、通りには誰もいなかった。
とりあえず今はアトラスの言う友人を待つしかできないか。
◇
……あれから一時間くらいたった。
アトラスは待っていると言ったが待合人はまだ来ない。
それによくよく考えてみるとアトラスは大昔の龍、その友人となるとやはり時間にルーズなのだろうか?
「失礼だなー、オイラはそんなに年をとってないよ。それにオイラは元武器商人だから時間には厳しいよ」
この声は初めてツバサに会った時のテレパシーで会話した時に似ている。
頭に直接話しかけられているという感じだ。
「どこに居る?」
「オイラはずっと君の後ろに居たよ。君が気付かなかっただけで」
反射的に後ろの祠を見る。
「そう、オイラはこの中に居るよ」
俺は思い切って祠の扉を開ける。
すると視界が眩み俺は祠のなかに吸い込まれてしまった。
「この祠はオイラが許可した人しか入れないようにしているんだ。英の世界の部屋をモチーフにして作ったんだ」
祠の中七畳ほどの広さがある和室だ。しかもちゃんと掛け軸もある、ただ書かれている字が「一日五食」といのが少し残念だ。
多分空間拡張魔法で作られているのだろう。
だがまだ声の主は現れない。
「掛け軸をめくってみなよ。オイラはそこに居るから」
俺は言われた通り掛け軸をめくってみる。
すると厳重な四角い扉が隠されていた。
そしてこの扉は俺が手を触れると重々しい音を立てて、ゆっくりと開いた。
扉が開いてまず感じたのは熱風、そして赤々と燃えたぎる紅蓮の炎。
「やぁ、初めまして。ファージの街の守り神として祀られているクレナだよ」
クレナの見た目は南国の衣装を着た少年だといったところだろうか。
女性寄りの顔つきの為か、この薄着の格好だと少しだけ羞恥心が込み上げてくる。
だが場所が場所の為薄着になるのも仕方ないだろう。
なんせ掛け軸の向こう側は溶岩に浮かんでいる岩石の孤島なのだから。
「君が俺を呼んだのか?」
「そうだよ。本来ならオイラが祠に行くべきなんだけど、何せ今ティタさんが盗られちゃったから魔力が足りないのよね」
「ほう、その理由を我に聞かせてもらおうかクレナ」
「アトラスいたの?」
「ああ、相変わらずここは熱いな。祠に戻るぞ我の魔力を供給してやる」
アトラスのおかげで先程の落ち着いた和室に戻ってこれた。
やはり日本人だからか和室に居ると落ち着く。
今度荷馬車の一部屋を和室に改造してもらおう。
「でだ。先程のティターニアが盗られたとはどういうことだ?」
「少し長くなるけどいいかな?今からおよそ四週間のことだよ」
◇
ファージの街は、この日職人祭って各地から腕利きの職人が集まりその腕を競い合うお祭りがあったんだ。
勿論お祭りだからってファージの街自身警備を緩めていたわけじゃないよ、むしろ警備を強めていたくらいだったし。それに大会出場者や珍しい道具を売りに来た人たちには検問を行ったりもした。
ティタさんもティタさんで普段張っている結界も強めてくれていたし。
だから安心してオイラとティタさんは祠の中から街の様子を微笑ましく見てたんだ。
「今年も盛況だね。ティタさん」
「そうだなクレア。年々参加者も増えてきているし、この分だと今年も大盛況で終わるだろう」
ほんとに平和そのものだった。
職人祭のメインステージである各地の職人が作ったアイテムを競い合うときまでは……。
ある職人が作った迷宮製造機が出てきた。
正直この発明には僕も驚いた。
なんでも迷宮のがモンスターを作り出すことは勿論、そのモンスターたちのレベルやアイテムのドロップ率等も自分たちで設定できるダンジョンという世紀を驚かせる発明になるはずだったんだ。
この発明の次に出てきた発明だったかな。
命ある者を悪魔に変えてしまう魔法道具が出てきたんだ。
転生魔法に分類される行為や発明は神の禁忌に触れる。
神の禁忌の代償は凄まじく、かつて国が一つ滅んだくらいの危険性を持つ。
ティタさんはこの魔法道具を早急に破壊するために外に出たんだ。
でもこれが罠だった。
龍は新しく作られた世界のルールで本来の力が出せない。
故にティタさんは全盛期の十分の一位の力しか出せなかったんだ。
まぁ十分の一の力でもティタさんは上級クラスの魔族とは戦える強さを持つんだけどね。
「ちょっと待って何でそんな強さを誇るドラゴンが負けたんだ?」
「居たんだよ。会場に一人だけ上級クラスより一つ上の存在が」
俺の質問にクレナが答えてくれる。
上級の上……魔王か。
「――伯爵クラスか。でも何故だ? 奴らは基本魔族領から出てこないはずだが」
「察しが悪いねアトラス。ディザスターが何らかの方法で蘇ったからに決まっているじゃないか」
どうやら魔王ではないらしい。だが
「すまん。状況がよく分からないのだが」
「そうだな。宿主には知る権利があるかもしれない」
「かつてディザスターが作りだした七人の化け物それが魔族の起源。特にこの七人の魔族を大罪の魔王と呼び、大罪の魔王が作った十四人の魔族を伯爵クラスと呼ぶんだ」
魔族の階級はこうなるらしい。
大罪の魔王>伯爵クラス>上級魔族>中級魔族>下級魔族
下級魔族でも街一つ壊す力を持つらしい。
最も下っ端でこの力である。
「まぁ今回の件に関しては平和ボケしたオイラとティタさんの完璧なミスだった」
「それでティターニアはどうなった?」
「祠から出てきた瞬間に伯爵クラスの魔族に魔封石に封印された」
「今はどこに居る?」
「少なくとも街の中にはいないよ。魔力を追跡しようとしても街外れにできた迷宮から出る魔力のせいで揉み消される」
ん?
ふと思ったのだが、何故そもそもファージの近くに迷宮ができた?
「それは裏切り者が関係してくるよ」
「裏切り者?」
「そもそもなぜ千年帝国から直接魔力をもらい発動している結界が伯爵クラスの魔族を探知できなかったのか、もう分かるよねアトラス」
「魔力回廊の接続が切られたということか」
「そしてこんなことをできる奴は一人しかいない……領主だ。しかも魔族落しちている」
領主だとっ!?
「なぁクレナその領主はまだ館の中に居るのか?」
もし居るとしたら修羅姫達が危ないかもしれない。
「うん居るね。でも安心しなよ、伯爵クラス魔族はもういないから」
「魔族落ちといっても所詮は偽物だ。宿主の眷族たちならば一振りで仕留めてくるだろう」
「話を戻すよ。その後の街のことだけど」
◇
ティタさんが捕まった後、魔族に転生させる魔道具が発動した。
そして運悪く転生されてしまったのが迷宮製造機を開発した職人だったんだ。
オイラもここから地上に潜伏させていた迎撃用ゴーレム40体を使って魔族落ちした職人に応戦したんだ。
だけど、後ひと押しのところで伯爵クラスが介入してきて逃がしてしまった。
しかも逃げた先は街外れに迷宮製造機で作られた迷宮の中、オイラのゴーレムは街の中で動かせることしかできないんだ。
だからゴーレム経由で街の人たちに迷宮攻略隊を編成させいざ突入させようとしたその時、迷宮生物が迷宮から沸き出てきたんだ。
それにより攻略隊はほぼ壊滅状態になり、一部の迷宮生物は感染型の毒を持っていたみたいで帰ってきた攻略部隊から街中に毒が感染していったんだ。
さらに外側も内側に傷ついていたファージの街に追い打ちをかけるがごとく迷宮生物の襲撃、まぁこれはオイラがゴーレムで何とかしたけどね。
「なぁクレア。今の話を聞く限りお前が祠から出て、ゴーレムと一緒に迷宮を攻略した方がいいんじゃないか?」
「そんなことできたらオイラだって『陽焔の火術師』を継続していたさ。これは英との約束であり契約なんだ、だから絶対に破ることはできない」
「街が、住む人々がこんな姿になってもかッ!! お前は悔しくないのかよ?」
「悔しいよ、悔しくてたまらないよ!! ティタさんが攫われて、街を滅茶苦茶にされても何もできない自分が」
「だとしたらどうする、自分で何もできないのなら次はどうする?」
「次?」
「ああ、次だ。自分の力が及ばないのなら自分一人で何もできないのなら」
どうやらクレナには俺の言いたいことが分かったようだ。
「どうか、君たちの力を貸してほしい。そしてティタさんを絶対に助けて」
クレナは今まで我慢してきた分の大粒の涙を流して俺に伝えた。
俺はアトラスと顔を合わせる。
『宿主が決めろ』と念話をアトラスは飛ばしてきた
「ファージの街の今回の件。確かにこの漆黒の女帝が引き受けた!!」
「お願い。ティタさんを、この街を助けて」




