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元魔王先生のスパルタ勇者塾  作者: 浦賀やまみち
第八章 蠢動

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第47話 都市落とし(?)メアリーさん




「ま、まさか、デュラハンっ!?」



 もしかして、知り合いだろうか。

 その女性を見るなり、アドソンさんは目を丸くして叫んだ。



「いえ、メアリーさんです」



 でも、名前が違う。

 私は首を傾げながら訂正を入れる。


 ゾンビ退治の途中、私はとても変なものを見つけた。


 服装はどこにでもいそうな普通の村娘。

 彼女は転がる自分の頭を追いかけ、拾っては首に乗せ、また落として。あっちへ、こっちへ右往左往していた。


 見かねた私が、足元に転がってきた頭を拾ってあげた、その瞬間。

 猛烈な勢いで襲いかかってきた。


 だが、ゾンビの中で異質な存在の彼女が気になり、懸命になだめてみると、名前を教えてくれた。

 但し、声は出せないらしく、土の上に指で文字を書いて。



「馬鹿だ、馬鹿だとは思っていたが……。はぁぁ~~~……。」



 レイモンドさんが沈みかけた夕空を仰ぎ、わざとらしいため息をついた。

 その大げさな仕草に、私の胸の奥にカチーンと火がつく。



「何ですか、それは! 私、まだ何も言ってないのに!」



 思わず声を張り上げる。


 だけど、レイモンドさんは私をちらりと見て、ただ面倒くさそうに片目を細めた。



「言わなくても、分かるんだよ」



 その冷ややかな視線に射抜かれ、自然と右足が一歩下がった。

 レイモンドさんは口の端を歪め、皮肉げに笑う。



「お前のことだ。どうせ、『助けたい』とか言うのだろ?」

「ぐっ……。」



 反論しようと口を開いたけど、言葉が出てこない。

 図星を突かれて、喉がつまる。



「だったら、教えてやる。そいつはデュラハンだ」

「だから、メアリーさんですって」



 私はむっとしながら言い返す。

 だって、本人がそう書いていたのだから間違いない。



「種族名だ! 名前じゃない!」



 レイモンドさんが頭をガシガシかきむしり、声を荒げた。

 ようやく私は自分の勘違いに気づく。メアリーさんは『ゾンビ』じゃなかったのか。


 言われてみると、出会った時からメアリーさんはゾンビにしては愛嬌があった。

 転がる自分の頭を慌てて追いかける姿なんて、ちょっと心が和んでしまったくらいだ。

 普通のゾンビはもっと血生臭くて、おどろおどろしいのに。



「あーーーっ! 面倒だ! おい、坊主! お前が教えてやれ!」

「では……。デュラハンとは、アンデッドの上位種にして、極めて危険な存在。

 その出現は死を予言するとされ、時には一つの都市を滅ぼすほどの災厄をもたらすことから、『都市落とし』と呼ばれております」



 アドソンさんが頷き、一歩前へ出た。

 まるで先生が授業を始めるみたいで、思わず背筋が伸びる。



「と、都市落とし……。なの?」



 だが、その仰々しい異名を聞いても、どうしても結びつかず首を傾げる。

 視線を向けると、メアリーさんは必死にぶんぶんと首を横に振り、その勢いでぽろりと頭を落とした。



「あっ!?」



 慌てて拾おうとした拍子に、足で蹴ってしまう。

 転がる頭を追いかけていく姿は、とても『都市を落とし』には見えなかった。



「その恐ろしさが幾つもの記録に残っています。首無しの黒き禍々しい鎧を纏う騎士だったと」



 しかし、アドソンさんはなおも淡々と語り続けた。

 その声は静かでありながら、背筋を冷たくさせるほどに重かった。



「鎧……。着てませんよね?」



 ちらりと見ると、メアリーさんは転がった頭をようやく抱きとめ、胸にぎゅっと押しつけてホッとしているところだった。

 黒き鎧どころか、ただの村娘ワンピースである。


 多分、私より一つか、二つ下の年齢。

 肌の色が不気味なほど青白く、ワンピースの首元が血で真っ赤に染まっている。その二つさえ目を瞑れば、どこにでもいそうな村娘にしか見えない。



「きょ、巨大な馬に乗り、その蹄の音を聞いただけで、人の心は砕け!」



 それでも、アドソンさんはなおも語り続けた。

 掲げた右拳は力強く震え、言葉にさらに熱を帯びていく。



「馬、いませんよ? ……いる?」



 周囲を見回しても、それらしい姿はどこにもない。

 頭を抱えて戻ってきたメアリーさんに尋ねると、両手で首の上に乗せた頭を押さえながら首を傾げた。


 そして、何かを思い出したように左掌に右拳をポンと叩きつけた。

 直後、『ピューーーッ!』と甲高い指笛が響き渡る。


 遠くから、パカラパカラと蹄の音が近づいてくる。

 沈みかけた夕日を背に、逆光の中から黒い影が現れる。



「ヒヒーン!」



 それはメアリーさんの前で立ち止まり、前足を高々と掲げて宙を掻いた。

 いななきが響き渡る。


 黒い仔馬だ。正直、思わず頬が緩むほど可愛い。

 嘶きだって、アドソンさんが語る恐怖の響きなんかじゃない。

 『ねえねえ! 褒めて! 遊んで!』と言いたげに、甘えているにしか感じない。



「ニャニャっ!? 可愛いニャ!

 ニャーの里は馬がいっぱいいたんだニャ! ほ~ら、ニャっしっしっ!」



 タリアさんが素早く飛びついた。

 今さっきまで一人で砂遊びしながら棒倒しをしていたのをあっさり放り出し、仔馬の眉間をこちょこちょと掻きまくる。



「ヒッヒッヒッーン!」



 仔馬は大喜びだ。

 普段は自分の足が届かない場所を掻かれて、嬉しそうにタリアさんへ顔を擦り寄せる。

 『もっと、もっと!』とせがむように、目まで細めている。



「ニャニャ! 競争だニャ! ニャーに勝てたら、もっとやってやるニャ!」

「ヒヒーン!」



 やがて、タリアさんと仔馬は夕日に向かって駆けていった。

 それを呆然と見送り、やっぱりメアリーさんは『都市落とし』なんかじゃないと確信した次の瞬間。



「し、しかし、この禍々しさは……。

 か、神は天にあり、勇気は胸にあり、信仰は足にあり! わ、我の前に立ちふさがる邪なるものを退けよ!」

「ちょっ!?」



 現実を受け入れないアドソンさんが、いきなり暴挙に出た。

 フレーズからして、明らかに魔術であり、目をギョッと見開き、慌てて振り返る。



「タ、ターンアンデッド!」



 だが、時既に遅し。

 アドソンさんの身体が淡く輝き、突き出した右掌から放たれた光球が、真っ直ぐにメアリーさんを撃ち抜いた。


 メアリーさんはまるで落雷を受けたかのように激しく発光すると、パタリと倒れる。

 頭がころころ転がり、目はバッテン。全身から煙をプスプスと上らせる。



「何をするんですか! いきなり酷いじゃないですか!」

「そ、そんな馬鹿な……。わ、私程度のターンアンデッドで、デュラハンがこうもあっさり……。」

「まあ……。元がただの村娘だからな」



 慌てて私はメアリーさんに駆け寄る。

 転がった頭と倒れた身体、どっちを先にするか迷って、とりあえず頭を抱き上げて非難した。




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