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元魔王先生のスパルタ勇者塾  作者: 浦賀やまみち
第七章 集う四人

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第46話 ゾンビ村とファーストキスの罪




「さて、どうするんだ?」



 レイモンドさんが、わざとらしく話題をひっくり返した。

 空気を変えるというより、かき混ぜて遊んでいるみたいだ。


 私の視線は、自然とレイモンドさんのニヤニヤ笑いの口元に吸い寄せられる。


 当然、思い出してしまった。

 アドソンさんが意識を取り戻す前に、強引に奪われた、ファーストキス。


 ぶわっと頭に血がのぼる。むかっ腹が立って仕方ない。



「アオニャン、どっちからやるニャ?」



 同志、タリアさんも一緒らしい。

 勇ましく鼻息をフンフンと吹きながら、いきなりシャドーボクシングを始めた。



「なら、私は右から」



 今の私たちには怒りのぶつけどころが必要だった。

 もちろん、ゾンビに変わり果ててしまった村人たちに対する哀れみはある。

 でもそれ以上に、胸の奥にたまったイライラを発散させないと、今夜は眠れそうにない。


 下手したら、夢の中でレイモンドさんの顔にパンチをお見舞いしてるかもしれない。


 それにゾンビは放っておけない。

 冒険者ギルドの初心者必修の講義で聞いたことがある。


 ゾンビは動きは鈍くて、力も弱い。


 でも、感染する。

 生きてる人の温もりを求めて噛みつくらしい。

 噛まれたら最後、そいつもゾンビになる。冗談じゃない。



「な、何を仰るのです! い、今の話を聞いていなかったのですか!

 こ、ここまで御足労をお願いしたのは私ですが……。こ、ここは引き返して、正式に冒険者ギルドの方へ依頼を!」



 アドソンさんは泡を食いながら必死に止めてくる。

 あの村を変貌させた理由が、人智を超える魔法だって知れば、怖気づくのも無理はない。


 しかし、私たちにはレイモンドさんがいる。

 私たちじゃ到底わからなかった魔法を、魔法と見抜いて、しかもこの余裕っぷり。


 きっと、何か対抗手段を持ってるんだろう。

 そう思うと頼もしい。


 でも、ファーストキスを奪った大罪は、一生許してあげないけど。



「くっくっくっ……。逆だ。

 あの村はもう、生者を引き込み、死者を呼び寄せる蟻地獄。

 夜を越えるたびに戦力を増して、やがては堅牢な城になる。

 だからこそ、まだ日が浅い今がチャンスなんだよ。……くくっ、簡単な答えだろう?」

「で、ですが……。」

「なら、教えてくれ?

 ギルドが討伐隊を組織してここに来るまで、何日かかる?

 五日後か? 十日後か?

 まあ、一ヶ月も経ったら……。動物やモンスターもゾンビ化して、ちょっとした地獄絵図だぞ?」



 レイモンドさんは意地悪だ。

 アドソンさんはレイモンドさん初心者だから、完全に押し黙ってしまっている。俯きながら肩をブルブルと震わせて。


 分かる。凄く、凄い分かる。

 私だって、最初はそうだったから。



「決まりニャ! アオニャン、どっちが多く倒せるか競争するニャ!」

「いいですよ! ちょうどむしゃくしゃしてましたし! 負けませんからね!」



 なんにせよ、あの村を救うのは決まった。


 並べて立てられた丸太の壁が囲む村の出入口は東西にふたつ。

 タリアさんは西の門へ、私は東の門へ。茜色に染まる麦畑を迂回して、それぞれ歩き出す。



「お前ら、少し待て」



 しかし、十歩も歩かない内に、レイモンドさんが呼び止めた。

 振り返ると、腕を組んで真面目な顔。



「もう一度、言うぞ?

 今、あの村に生者は一人も居ない。全員、既に死んでいる。相手が子供であろうとためらうな」



 すぐに分かった。

 レイモンドさんは私とタリアさんを呼び止めたが、その言葉は私に向けられたものだ。


 そう、モンスター相手には本気を出せても、人間相手には本気を出せない私に対する忠告だった。


 ゾンビは生ける屍。

 変貌してから日が経つにつれ、肉は腐り落ち、皮膚は剥がれて、最終的に骨だけとなって、スケルトンに成り果てる。


 だが、村の惨劇はまだ日がそれほど経っていない。

 なら村人たちの姿は、まだ生前を保っているだろう。



「……はい」



 やっぱりレイモンドさんは優しい。

 忠告されないまま村へ突入していたら、きっと私は迷い、ためらっていたはずだ。

 そう思うと、胸がジーンと暖かくなる。



「この俺に下らん面倒はかけさせるなよ?

 噛まれたら、今度はお前らがゾンビに……。いや、そっちの場合は化け猫か?」



 だが、その矢先。レイモンドさんはニヤニヤと笑い出した。

 それも余計な一言まで付け加えて。



「ニャニャっ!?」



 言うまでもなく、タリアさんは激昂した。

 特に逆立った尻尾なんて、天に突き立っている。



「タリアさん、行きましょう! あんな人、放って!」

「ニャっ!」



 私とタリアさんは、今度こそ村へ向かう。

 後ろでレイモンドさんが腹を抱えて笑ってるのが聞こえる。


 ここで振り向いたら負けだ。絶対に。



「彼女達……。なぜ、不機嫌なのですか?

 出会った時から、そうですよね? 知らず知らずの内、何か気に障るようなことをしたでしょうか?」

「ふっ……。お前、歳は幾つだ?」

「28でございますが?」

「だったら、察しろ。女という生き物は機嫌が悪くなる日が月に数日あるものだ」



 しかし、十歩も歩かない内に、私は振り向いた。



「違う!」

「うぐっ!?」



 すぐさま駆け戻り、そのままレイモンドさんのにやけた顔に、右ストレートを叩き込んだ。

 ふと見れば、アドソンさんが跪き、顔を真っ赤にして、聖印を切りながら神に懺悔してる。



「違うってば!」

「ぶべっ!?」



 だから、私はその背中に思いっきり蹴りを入れた。




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