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元魔王先生のスパルタ勇者塾  作者: 浦賀やまみち
第七章 集う四人

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第45話 禁忌の代償




「残念だが、あの村はもう駄目だな。お前の仲間も生きてはいまい」



 レイモンドさんがそう言い切った瞬間、私は息を呑んだ。


 先ほど問答無用で殴り倒してしまったあの巨漢、アドソンさん。

 しかし、意識を取り戻した彼はすぐに土下座し、『是非ともご助力を願いたい!』と悲痛な叫びを上げた。

 気絶させてしまった負い目よりも、その切実さの方が胸を強く締め付け、私たちは断ることなどできなかった。


 アドソンさんが命がけで切り拓いた森の道を逆に辿り、休む間もなく走り続けた。


 ようやく鬱蒼とした森を抜け、開けた空間に出た瞬間。

 私もタリアさんも安堵の息をついた。


 夕焼けに染まった麦の穂が風に揺れる。その穏やかな光景に、アドソンさんの訴えた惨劇なんてとても信じられず、胸の重さがふっと軽くなる気がした。

 しかし、麦畑の向こうに小さな村の姿を目にした途端、レイモンドさんは大きく吸った息を、重い落胆の溜息へと変えた。



「それはどういう意味で?」



 すぐさま問い返したアドソンさんの目は、鋭く険しかった。


 彼は火の神を信奉し、村々をめぐる巡回使だという。

 一箇所に留まることなく、広い世界を歩き続けているらしい。


 彼の話では、前方に見える村はかつて訪れたことがあり、どこにでもある小さな村で、働き者ばかりだったという。


 だが、その村人たちが、アドソンさんと仲間たちに襲いかかってきた。

 しかも、アンデッドの一種『ゾンビ』へと変わり果てて。


 仲間たちは、この危機を伝えるためにアドソンさんを逃がした。

 命がけで走り続け、ついに私たちと出会った。


 それを思い出しただけで、胸が痛む。

 命がけであんな過酷な道を駆け抜けたのに、レイモンドさんは無情な言葉を投げた。アドソンさんの反応は当然だった。



「魔法が使われた形跡がある」



 その言葉に、私は息を呑んだ。

 レイモンドさんは腕を組み、忌々しげに村を睨みつけている。その横顔は背筋が寒くなるほど冷たかった。



「なっ!? ……ま、真にございますか?」



 アドソンさんも息を呑んだ。

 けれど、タリアさんだけは首を傾げて、不思議そうに私たちを見ていた。


 まだ旅が私とレイモンドさんの二人きりだった頃、道中の暇つぶしに、彼がふと話してくれたことがあった。


 魔法とは、場所や地脈、月の満ち欠けなど複雑な条件を要する秘術。

 魔術が世界を変化させるすべなら、魔法は世界を捻じ曲げるほうである。


 その難度は神話級と呼ばれ、超一流の魔術師でさえ手に余すほど。

 かつて見せてくれた盗賊たちのアジトを囲んだ壁も、アンデッドの軍勢を呼び寄せた召喚も、あれですら伝説級に過ぎないという。


 興味に駆られて、かなり遠回しに質問してみた。

 すると私をこの世界に呼んだのは、まさしく魔法なのだと知らされた。



「見苦しい……。酷く歪で、中途半端なものだ。

 そのせいで地脈は断たれ、土地そのものが力を失っている。二年か、三年も経てば、この一帯は荒野と化すに違いない」



 レイモンドさんが冷ややかに吐き捨てる。

 かつて彼は、魔法を芸術と呼び、究極の美だと語っていた。


 私の目には分からない。

 だが、レイモンドさんの目には、村が醜悪そのものに見えているのだろう。



「ここが……。荒野に?

 ですが、レイモンド殿! あの村には、魔術の心得を持った者など一人もいないはず。それなのに……。なぜっ!?」



 アドソンさんの声には必死さが滲んでいた。

 だがレイモンドさんは、まるで興味もないかのように肩をすくめ、ただ静かに指を差した。



「そこまでは知らんよ。だが、あれを見ろ。坊主なら、あれが何なのかが解るはずだ」

「あ、あれはっ!?」



 茜色に染まった空を仰ぐと、ひとつの小さな発光体が浮かんでいた。

 その周囲へ、幾つもの朧な白い光が吸い込まれるように渦を描き、不吉に揺らめいている。

 

 それがとても忌まわしいものだと、私は直感で気づいてしまった。

 タリアさんが私の腕を無言で掴んだ。互いに顔を見合わせ、血の気が引いているのを悟る。



「この麦の育ちを見る限り……。あの村は、豊かな地脈の通り道にある。

 そして、三日前は新月……。術者は村人たちを贄に捧げ、死者の復活を願ったのだろう」

「そ、そんなっ!?」



 アドソンさんは絶句した。


 死者の復活、その響きに胸の奥が氷のように締め付けられる。

 それはまさしく魔法、世界の法を捻じ曲げる禁忌。


 それでも人は決して諦めず、求め続ける。

 行き着いた果てが、この災厄だ。



「今、あの村に生者は居ない。居るのは、死者だけだ」



 レイモンドさんの言葉が冷たく突き刺さる。

 アドソンさんは天を仰ぎ、頭を抱えて慟哭した。



「おお、神よ! これも試練だと仰るのですか!」



 胸が締め付けられ、私はただ唇を噛むしかなかった。




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