表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元魔王先生のスパルタ勇者塾  作者: 浦賀やまみち
第六章 虎族の娘

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

42/59

第39話 ありがとうの重み




「さあ、お前で最後だ」



 レイモンドさんが魔術で開いた、揺らめき渦巻く黒いゲート。

 その深淵の先はモテストの街へ繋がっており、女性たちは新たな一歩を踏み出した。

 両手いっぱいの銀貨と銅貨を胸に。


 多分、あれだけあれば、慎ましく暮らしたら五年は保つ。

 レイモンドさんはぶっきらぼうに『迷惑賃だ』と言ったが、人生をやり直すための資金としては大きすぎる。


 だって、彼自身は盗賊たちが貯めこんだ財貨を奪うために、ここへ来たはずなのに。

 それなのに、どうしてこんなに優しいんだろう。


 現金はもう残りわずか。

 広場にはまだまだ色々と山積みになっているけど、あんなかさばる品々を街まで運べるわけがない。


 必然的に、レイモンドさんの取り分は少ない。

 そして、その少ない取り分も、残る最後のひとりの両手に乗せた時、きれいになくなってしまった。



「どうしたの? 怖くないよ?」



 だが、少女はじっと立ったまま俯いて動かなかった。

 確かに、ゲートの見た目は、誰だって足がすくむくらいの不気味さだ。

 少しでも不安が和らげられるように、私は膝を曲げて少女の目線に合わせ、できるだけ柔らかく微笑んだ。


 彼女は盗賊のボスに囚われていた少女。

 日本でいえば、小学生三年生か、四年生くらいだろう。どう見ても、中学生には届いていない。


 世の中にはそういう性癖があるのは知っていた。

 でも、盗賊のボスの家の奥にいたのを見つけた時、愕然となった。


 まるで、このアジト一番の宝物みたいに、大事に大事に隠されて。

 どんなに着飾られて、高級な調度品に囲まれていようが、彼女がどんな目に遭っていたかは、光のない瞳がすべてを物語っていた。


 ましてや、レイモンドさんの姿を見た途端、服をのろのろと脱ぎ始めた。


 その姿に私は息を呑んで立ち尽くした。

 レイモンドさんに至っては、ただ無表情に無言のまま部屋を足早に出て行き、隣のボスの自室の品を手当たり次第に投げつけた。

 我にかえった私が止めに入らなければ、部屋ごと魔術で焼き払っていたかもしれない。



「ん、特別だ。他の奴らには内緒にしとけ。ラストワン賞だ」



 レイモンドさんが懐から取り出した指輪を、少女の両掌に載った山のような銀貨と銅貨の上へと落とす。

 私は右手で口を塞ぎ、思わず『あっ!?』と漏らしそうになった声を、なんとか飲み込んだ。


 何故ならその指輪は、財貨を検分したとき、レイモンドさんが真っ先に懐へしまった品だったからだ。

 レイモンドさん曰く、こんな盗賊たちのアジトにはあるはずもない、高性能なマジックアイテムらしい。


 しかも、それひとつで城が建つほどの価値があるとか。


 そんな品を、レイモンドさんはぶっきらぼうに渡した。

 男性に強い忌避感を持っているだろう少女に、触れることなく。


 そっと落とした仕草に、私は不器用な優しさを感じた。



「ぷっ!? なにそれ。素直じゃありませんね」

「う、うるさい! お、お前は黙ってろ!」



 私は思わず笑いがこぼれてしまい、慌てて両手で口と鼻を覆う。

 するとレイモンドさんが、声を裏返しながら怒鳴った。


 だけど、そのやり取りに少女は顔をようやく上げる。



「ぁりが……。」

「んっ!?」

「ありがとう! お兄ちゃん!」



 泣き顔の中で、ほんの一瞬だけ、花がほころぶような笑みを見せた。

 そのままゲートの深淵へと飛び込み、あっけなく姿を消してしまった。


 完全に不意を突かれた。

 多くの女性たちを送り出したけど、中には『どうして、今更!』と罵っていた人もいた。


 そんな中で、感謝の言葉をくれたのは、彼女ひとりだけだった。


 レイモンドさんが目を大きく見開いて、動きを止めた。

 私が微笑みながら『良かったですね』と声をかけようとした。まさにその瞬間。



「ぐぅっ!?」



 レイモンドさんは突然、膝をついた。

 表情が急に強張ったと思うと、額を右手で鷲掴むように押さえ、苦しそうに身を震わせる。その姿に、私の心臓が強く跳ねた。



「だ、大丈夫ですかっ!?」



 慌てて駆け寄り、同じように膝をついて支える。

 レイモンドさんの様子は尋常じゃなかった。頭痛に苦しみながら、虚空を見つめているようで。



「エ、エリザ……。シャ、シャーロ……。」



 うわ言のように、聞き覚えのない名を繰り返す。

 私はただ見守るしかなかった。


 やがて、ふっと彼の表情が落ち着き、荒い呼吸の合間にかすれた声が漏れた。



「……大丈夫だ。問題ない」



 その言葉とは裏腹に、彼は今にも倒れそうなくらい力なく見えた。

 それでも私の手を借りて立ち上がろうとする姿が、どうしようもなく痛々しくて、見ていられないほど切なかった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ