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ボッチの僕、イケメンの俺  作者: リディア


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第56話 戻す準備、隣にいる理由

朝の教室。

窓から差し込む秋の光が、埃をキラキラと反射させながら俺の机の上で揺れている。

いつもと同じ風景。

けれど、眼鏡の向こうに見える世界は、昨日までとは少しだけ色が違って見えた。


視線は、まだある。

けれど、それは前のように俺を切り刻む「刃」じゃない。


「……おはよう、白石」 「あ……おはよう」


隣を通りかかるクラスメイトに声をかけられ、俺は顔を上げて答えた。

目が合う。

けれど、もう逸らさない。

相手は一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに「おぅ」と普通に笑って自分の席へ向かった。


ただそれだけ。

けれど、その「普通」が、今の俺にはたまらなく誇らしかった。

逃げなくても、世界は壊れない。

むしろ、向き合うことで世界は少しずつ優しくなっていく。


二時間目と三時間目の間の休み時間。

俺は廊下の片隅で眼鏡を外し、目薬を差した。

前なら、一秒でも早く「盾」である眼鏡をかけ直していたはずだ。

けれど、今は――。

裸眼のまま、ぼやけた世界に身を置いてみる。


「白石くん」


不意に、すぐ隣に誰かが立った。


「……美咲」


眼鏡をかけないまま、彼女の声のする方を見る。

至近距離。

美咲が少しだけ目を見開いて、それから春の陽だまりのような顔をして笑った。


「その顔、やっぱり大好き」

「……廊下だぞ。変なこと言うな」

「だって本当だもん。独り占めしたいけど、今の悠真くんは隠しておくのがもったいないくらい素敵だよ」


美咲が楽しそうに笑う。

俺は熱くなった頬をごまかすように眼鏡をかけ直したが、前髪は――直さなかった。

少しだけ、目元が覗くほどに分かれたまま。


「……行こうか」

「うん!」


二人で教室に戻る。

手は繋げない。

けれど、二人の間に流れる空気は、誰が見ても「特別」な近さを持っていた。




昼休み。

真琴がニヤニヤと「獲物」を見つけるような顔で、俺の席にやってきた。


「白石くん。文化祭のクラス企画、そろそろ決まりそう?」

「いや、まだ候補を絞ってる段階だよ」

「そっかぁ。楽しみだねぇ」


真琴が、俺の顔を覗き込んで意地悪そうに笑う。


「何がだよ」

「だって、文化祭ってさ。逃げ場も隠れ場所もないでしょ? クラス全員で動くし、誰がどこで写真撮ってるかわかんないし」


俺は、一瞬だけ身体を硬くした。


「……隠し通すのは、無理だろうな」

「でしょ? 絶対、バレちゃうよ」


真琴の言葉を、隣にいた菜月が静かに、けれど力強く遮った。


「でも、もういいんじゃない? 隠さなくても」

「え……?」

「白石くん、もう『大丈夫』な顔してる。誰に何を言われても、今のあなたなら揺るがないでしょ」


菜月の真っ直ぐな眼差し。


俺は、自分の中に芽生えた小さな「強さ」を、彼女たちに見透かされているのだと悟った。


「……ありがとう。そう言ってくれると、心強いよ」



放課後。

帰り道。

校門を出て、人目が少なくなった街路樹の道で、俺たちの指先が絡み合う。


「悠真くん、最近変わったね」


美咲が俺の手をギュッと握り締め、上目遣いに見上げてくる。


「変わった、かな」

「うん。すごくいい意味で。前よりも、肩の力が抜けてる気がする」


俺は立ち止まった。

視線が怖くなくなったわけじゃない。

過去の傷が消えたわけでもない。

けれど、隣に彼女がいて、背中を押してくれる友達がいる。

その事実が、俺の臆病な心を「楽」にさせていた。


「……前の俺も、好きだと言ってくれたよな」

「うん。大好きだよ」

「でも、今の俺の方がもっと好きって、言ってもらえるように頑張るよ。……君がいるから、俺は元の俺に戻れる気がするんだ」


美咲が、花が綻ぶように笑った。


「うん。ゆっくりでいいよ。どんな悠真くんでも、私が一番近くで見てるから」



翌日のホームルーム。

担任が教卓を叩いて文化祭の話を始めた。

「企画、決めるぞ。喫茶店かお化け屋敷か、多数決だ」


クラスが、一気に盛り上がる。

俺は、少しだけ緊張していた。逃げ場のない祭典。

けれど、もう隠れる気はなかった。

美咲が隣で微笑み、真琴が後ろから俺の肩を小突く。

菜月が小さく頷いている。


「白石、お前はどう思う?」


クラスメイトが、自然な調子で俺に意見を求めてきた。


「俺は……みんなが楽しめるなら、何でも協力するよ」

「お、白石。意外とノリいいじゃん!」

「そうかな。……やるからには、成功させたいしな」


俺も、笑った。

眼鏡の奥で。

分かれた前髪の下で。

かつての俺が、少しずつ、けれど確実に息を吹き返していく。


文化祭まで、あと少し。

怖くないと言えば嘘になる。

けれど、もう逃げるための理由は探さない。


美咲がいて、仲間がいる。

一人じゃないから、俺はもう自分を隠さなくていいんだ。

少しずつ、ゆっくりと。


本当の「白石悠真」を取り戻していく。


窓の外に広がる、抜けるような秋の青空。

文化祭の足音が、もう、すぐそこまで響いていた。

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