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ボッチの僕、イケメンの俺  作者: リディア


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第53話 味方だって、言っていい

登校中、駅から学校までの緩やかな坂道を歩きながらスマホを確認する。

美咲からの『おはよう、今日も頑張ろうね』という短いメッセージ。

真琴からの、ふざけた猫のスタンプ。


いつもの朝。

けれど、俺の胸の奥には鉛のような重りが居座っていた。

春野さんの「黙ってる条件はある」という言葉。

何を、いつ、どこで突きつけられるのか。

俺は無意識に自分一人で解決しようと、思考の迷宮をさまよっていた。


「……おはよう」


教室に入ると、微かに視線が集まるのを感じる。

過剰反応かもしれない。

でも、この肌を刺すような空気の圧は、確かにそこにあった。




放課後。

机の上のプリントを鞄に詰めていると、不意に影が落ちた。


「白石くん、ちょっといいかな?」


顔を上げると、桜井さんが腕を組んで立っていた。


「……何かな、桜井さん」

「帰り道、一緒に行かない? 菜月も呼んであるから」


美咲は今日、委員会で遅くなる。

断る理由はなかった。


「……ああ、わかった」

「よし、決まり! 行こ!」


桜井さんがニカッと笑い、俺の背中を強引に押す。

校門を出てしばらく歩いた公園の横。

桜井さんと中村さんが、俺を挟むようにして歩幅を合わせた。


「ねえ、白石くん」


桜井さんが、いつもの軽い、けれど逃げ場を許さないトーンで切り出した。


「最近、ちょっと一人で背負いすぎじゃない?」


「……え?」

「美咲を守るつもりで、また一人で勝手に『壁』作ってるでしょ」


図星だった。

心臓を直接指で突かれたような衝撃に、俺は足が止まった。


「……何の話だ」

「春野さんのことだよ」


隣を歩いていた中村さんが、静かに、けれど真っ直ぐに俺を見た。


「美咲から聞いた。何か、困らされてるんでしょ?」


隠せていたつもりだった。

けれど、彼女たちには筒抜けだったらしい。


「……別に、大丈夫だよ。俺がなんとかするから」

「大丈夫じゃないから、そんな顔してんの」


真琴が、俺の肩をポンと叩いた。


「顔に出すぎ。眼鏡の奥、死んでるよ? 相当疲れてる」


俺は言葉を失った。

反論しようにも、喉の奥が引き攣って音にならない。


「……そこ、座ろうか」


菜月が促し、俺たちは公園のベンチに横並びで座った。


夕暮れ時の静寂。

子供たちの遠い歓声が、どこか現実味を欠いて聞こえる。


「……中学のとき」


俺は、重い口を開いた。

自分の過去を、美咲以外に話すのは初めてだった。


「俺が良かれと思って目立ったせいで、一人の女の子が傷ついたんだ。俺が前に出たせいで、彼女はもっと酷いいじめに遭った」


二人は、黙って俺の告白を受け止めている。


「だから、隠したんだ。俺という存在が誰かの毒にならないように。目立たず、関わらず、誰にも見られないように……」


「それさ、」


桜井さんが、深く溜息を吐きながら空を仰いだ。


「百パーセント、白石くんのせいじゃなくない?」

「でも、俺の行動がきっかけで――」

「違うよ」


中村さんが、俺の言葉を優しく、けれど断固として遮った。


「悪いのは、その子をいじめた人たち。もっと言えば、その空気に乗っかった周囲の人たちだよ。白石くんが目立ったから悪い、なんて……そんなの、ただの八つ当たり」


その言葉が、硬く閉ざされていた胸の奥に、スッと染み渡っていく。


「……でも、怖いんだ。また同じことが起きて、美咲が巻き込まれるかもしれないと思うと」

「じゃあ、一緒に守ればいいじゃん」


桜井さんが、あっさりと言い放った。


「一人じゃなくて、みんなで。あんたが一人で盾にならなくても、私たちがいるでしょ」

「みんな……?」

「そうだよ。美咲だけじゃない。私たちも、白石くんの味方なんだから」


桜井さんが笑い、中村さんが静かに頷く。


「一人で背負うなんて、私たちのこと信用してない証拠だよ? 寂しいこと言わないで」

「……」

「逃げ道、塞いであげる」


中村さんが、微かに悪戯っぽく微笑んだ。


「もう一人で抱え込めないように、私たちが周りを固めるから。悪い意味じゃなくね」


俺は、二人を交互に見た。

桜井さんの、屈託のない明るい笑顔。

中村さんの、理性的で温かい眼差し。


味方。

チーム。

友達。


中学のあの日以来、自分にはもう二度と手に入らないと諦め、俺の辞書から塗り潰していた言葉たちが、今、熱を帯びて鮮やかに蘇ってくる。


視界が、不意に熱いもので滲んだ。


「……ありがとう。本当に……ありがとう」


声が、少しだけ震えた。

桜井さんが俺の背中を、景気づけるように力いっぱい叩いた。


「当たり前でしょ! 友達なんだから!」


帰り道、三人で並んで歩く。

さっきまでの重りが、少しだけ軽くなった気がした。


「で、文化祭どうするの?」


桜井さんがニヤニヤしながら聞いてくる。


「隠し通すの? それとも、ついに白石悠真を『解禁』しちゃう?」


「……わからない。でも、もう俺一人では決めないよ」

「合格!!」


中村さんが満足げに頷いた。


「美咲と相談して。私たちは、全力でバックアップするから」


夜、美咲からのLINE。


『真琴たちと、お話しできた?』

『ああ。……話せてよかった。助かったよ』


すぐに既読がつく。


『よかった……。私も、これでやっと安心できる』

『ありがとう、美咲。……おやすみ』

『どういたしまして。おやすみなさい、悠真くん』


スマホを置き、大きく息を吐いて天井を見上げる。 窓の外は暗い。けれど、俺の心には確かな灯火ともしびが灯っていた。


一人じゃない。

守るというのは、一人で盾になることではなく、手を取り合うことだったんだ。

文化祭まで、あと少し。

俺は、ようやく彼女の隣に立つ準備ができた気がした。

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