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群青のアウトル  作者: しゅん
9/15

抑えた感情と小さな命

この作品はフィクションです。

実在の人物や団体とは関係ありません。


 シシリア皇女なら誕生日を祝うパーティーは、一週間かけて行われる。成人のお祝いも兼ねた今回の誕生日はかなり特別なものだった。


シシリア「ルシェ」


 ルシエルの名前を呼んで、手を差し出した。その手を受け取るように優しく握った。


シシリア「倒れたって聞いたけど、大丈夫なの?」


ルシエル「えぇ、少し疲れていたみたいです。」


シシリア「そう。パーティーでは倒れないようにね。」


ルシエル「少し寝たので問題ございませんよ。」


 ニコッと笑って微笑んだルシエル。そうしてそのまま彼女をエスコートしながら会場に入った。

 パーティーの会場にはたくさんの人がいて、たくさんの注目がルシエルとシシリアに注がれた。豪華な緑色のドレスを着たシシリアは全員の視線を掴んだ。


『シシリア皇女様だ。なんとお美しい。』


『“豊穣の女神“の名に相応しい緑のドレスがよく似合っていますね。』


『隣にいるのはブージェ家のルシエル公子様ですね。』


『とってもお似合いだわ。』


 腕を組んで歩く2人を見て、会場にいた貴族達はうっとりとした視線を向けていた。誰もがお似合いだと祝福を言葉にする。そんな中、こんな話も飛び交った。


『お二人は婚約関係にあるという話しでしたが、シシリア皇女が成人された今、ご結婚されるんだろうか?』


『しかし、何故あのブージェがわざわざ王族と結婚するんだ?』


『シシリア皇女殿下があの美貌を気に入ったって話だろ?』


『だとしても、リベロフ陛下もバロナン様も何故それを許したんだ?これでは貴族の力の均衡が偏ってしまう。』


『あの2人の間に子供ができてみろ。その子供がロワだった時、ブージェの子供が皇帝になるかもしれない。』


『そうなれば、カリスティエッタの姓ではない者が皇帝になるということか?』


『そもそもブージェの始まりは、初代皇帝陛下の血族だぞ?元々力の強いブージェが、王族と結婚すれば、それこそ王族と同等の力を持つことになる。』


『リベロフ陛下はそれをわかっていて、ブージェ家にシシリア様を嫁がせることを許可したのか?』


『ブージェ家は王族の影のような存在だったというのに…』


『次のロワの存在がない今、リベロフ陛下が勇退したのちの後継をどうなさるおつもりなのだろうか?』


『それを今ここで論じても意味がない。我々は我が王に従うのみだ…』


『しかし、これで、ブージェにはいよいよ誰も逆らえないな。』


 ルシエルとシシリアの入場を見ながら、静かに拍手するバロナン。その口元は少しだけ笑っているようにもみえた。


 会場の中心まで来た2人に、リベロフが杖をつきながら歩いてきた。そして、シシリアとルシエルと少し言葉を交わした後、シシリアの肩を抱き寄せて話し始めた。


リベロフ「皆の者、我が娘であるシシリアを祝うために、集まってくれたことを感謝する。今日ここで皆に伝えておきたいことがある。」


 ワッと視線が集まった。


リベロフ「シシリアとブージェのルシエルは婚約関係にあることは皆も知っている事実であろう。このパーティーの最終日、シシリアが生まれた日に2人の結婚式を執り行う。」


ルシエル「…。」


シシリア「ふふふっ」


 驚く声と2人を祝福する拍手が会場を包んだ。ルシエルはただ笑顔を貼り付けて立っていた。


リベロフ「皆、是非、2人を祝福してやってくれ。」


 それからパーティーが始まった。ルシエルはシシリアの横で笑顔を貼り付けていろんな貴族と言葉を交わす。そんな時間がしばらく続いた。


シシリア「ルシェ、少し疲れたから私はちょっと席を外すわ。」


 雰囲気が少し落ち着いてきた頃、参加者たちは思うままに過ごしていた。リベロフも少量の薄めた果実酒を飲みながらそんな雰囲気を眺めていた。


ルシエル「はい、僕も少し休んできます。」


シシリア「また倒れないようにね。しっかりしてね。」


ルシエル「はい。」


 シシリアはリベロフに少し挨拶をしてから会場を後にした。そして、ルシエルはそれを見送った後、会場から少し離れたテラスに入った。


ルシエル「はぁ…」


 ため息をつくルシエルの背後に、レイが現れた。


ルシエル「どうしたの、レイ。」


レイ「お疲れではないですか?何か飲み物をお持ちします。」


ルシエル「いいや、大丈夫だよ。具合も悪くはない。」


レイ「…ご無理はなさらずに。」


ルシエル「ん。ありがとう。」


 そのままレイはどこかにいなくなった。


 外は月が天井に登っていた。綺麗な満月だった。星が散らばっている中で大きく輝く月をぼーっと眺めていた。何故か昔から月を眺めると心が落ち着いた。


ルシエル(このままシシリア皇女と結婚したら、僕はどうなっちゃうんだろう。)


 そんなことを考えながら燦々と輝く月を眺める。すると、そこに一羽の鳥が飛んできた。それは、鳥の姿をしたカルファだった。


ルシエル「ようこそ。待ってたよ。」


カルファ「ピッ」


 今朝、アレンから【贈り物にも相応しい、青色のドレスがある】と返事が来ていた。カルファはそれを購入する為にアレンと会う日程を知らせに来た。


カルファ(夜だからかなんだがこのメスオス、顔色が悪いな?大丈夫か?)


 ルシエルに手紙を渡した後、カルファは手紙を読んでいるルシエルを下から見上げていた。


カルファ(依頼が重なって、徹夜で船動かしてたときの疲れたアレンとおんなじ顔してやがる。そうだ!)


 まだルシエルが手紙を読んでいるというのに、カルファはどこかに飛んでいってしまった。


ルシエル「あ。行っちゃった。…返事いらないのかな?」


 特に返事を返す必要はなさそうな手紙だったので、ルシエルはカルファを呼び止めなかった。アレンの手紙を懐にしまって、ルシエルはテラスにある椅子に座った。


ルシエル(アレンはドレスまで取り扱ってて手間が省けた。いろいろ気になるところはあるけど、アレンと出会えたのはかなりラッキーだったな。)


 そんなことを思いながらぼーっと空を見つめていると、膝に何かが溜まった。ピッと声がして見ると、カルファが戻ってきていた。その嘴には何かを咥えていた。


ルシエル「何それ。」


 手を差し出すとカルファはルシエルの手にそれを置いた。枝に赤い木のみが二つついていた。


ルシエル「これは…パナケイアの実?すごいね、どこから見つけてきたの?」


 カルファが持ってきたのは、薬の調合にも使われる木のみである。過去には万能薬とも呼ばれた木の実である。


カルファ(疲れてんだろ。それ食えば良くなるんだぜ。)


ルシエル「ありがとう。君は優しいね。」


 少し、目頭が熱くなった。鳥にまで心配されるなんて、自分はどんな顔をしているんだろうと思った。


カルファ「ピッ」


 カルファはルシエルの膝の上で丸まった。その小さな命の温かさが膝の上から伝わってきて泣けてくる。


ルシエル「嫌だな……」


カルファ「ぴ?」


ルシエル「……ははっ、嫌だね。」


 声に出さなかった感情を声に出すと、自然と涙が溢れてきた。カルファはそれに驚いて、ルシエルの肩に移動した。頬に寄り添うように丸くなって座った。


カルファ(たくっ…イヒルは世話が焼けるな。)


 ルシエルが何に対して嫌だと言っているのかはわからないが、カルファは悲しい顔をしている人を放ってはおけない性分だった。

 



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