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群青のアウトル  作者: しゅん
7/15

記憶に蔓延るナイトメア

この作品はフィクションです。

実在の人物や団体とは関係ありません。


 ルシエルは夢を見ていた。

 夢は記憶を整理する脳の働きによるものだという。夢で見るものは、その日経験したことや過去の経験から記憶に根付いたものであることが多い。


 つまり、今、ルシエルが見ているのもは何処かで経験した何かであるということ。


ルシエル「…ここは?」


 月のない夜。テラスの窓が開いていて、そこから強い風が吹いていた。レースのカーテンが激しい風に吹かれて、荒れ狂うように揺れている。

 部屋の中心には天井付きの大きなベッドが置かれていた。何処かで見たことがあるその部屋の様子。だが、何処だったのかは思い出せない。


 ベッドの上には女性が眠っていた。女の顔にモヤがかかって見えなかったが、体つきや服装からして、それが女であるということは理解できた。

 その女が誰なのかは知らない。だが、なんとなく目の前にいるのが不愉快だった。


?「ルシエル。」


ルシエル「!」


 突然声をかけられて、ルシエルが振り返る。そこには誰かが立っていた。だが、また顔にモヤがかかっていて、誰なのかを判別できなかった。だがおそらく、そいつは男だろうと思った。


?「何…してんだ?」


ルシエル「え?」


 再び寝ている女の方に顔を向けると、女の体の腹や胸には、無数の食事用のナイフが刺さっていた。女の着ている真っ白なネグリジェが真っ赤に染まっていた。


ルシエル「わぁっ…!!!!」


 ルシエルは驚いて腰を抜かした。


?「…お前がやったのか?」


ルシエル「僕じゃないっ!!!ちがう!!!」


 いつのまにか周りにはたくさんの人がいた。全員の瞳がルシエルに向けられている。


ルシエル「違うっ!!!僕じゃない!!!!」


 そう言っても、周りにいる人間たちはルシエルに対して、疑いや軽蔑の目を向けている。それが、怖かった。訳のわからない状況に動揺して、ルシエルはそのままパニックになってしまった。

 呼吸が荒くなり、胸が苦しくなる。この記憶はいったいなんなのか。正常な思考ができなくて、ぐるぐると目の前が回転していくような感覚に陥った。


?「ルシエル」


 そっと冷たい手に目を覆われた。何も見えなくなったが、不思議とその冷たさと声に安心した。


?「大丈夫だ。」


ルシエル「はぁっ…はっ…はぁっ…はっ…」


?「お前は何も見なかった。そう“書き換えろ”。」


 それだけ聞こえて、プツンと電源が切れたように夢が終わった。そして、気がつけば目の前にレイがいた。


レイ「ルシエル様っ!!!」


 心配そうな顔をしたレイ。そっと目を開けたルシエルは目から涙が溢れていた。

 体を起こしてあたりを見渡すと、ベッドの上に寝かされていたようだった。外はまだ明るい。昼過ぎくらいだろうか?


レイ「お加減はどうですか?何処か辛いところはありませんか?突然倒れられたのは覚えていますか?」


ルシエル「……あぁ。」


 シシリア皇女と会って、ドレスの色を指摘された。シシリアが自分に向けた目が、何かと重なって見えた。その目を見た瞬間、動悸がして目の前が霞んだ。

 記憶の奥にある知らないトラウマ。吐いてしまうほど、ルシエルの記憶の根源に何かがへばりついている。


ルシエル(あの夢は…一体…)


 ベッドに眠る女性も助けてくれた謎の人物も、ルシエルには身に覚えのない人物だった。ただ、夢の舞台になっていたあの部屋だけは何処かで見覚えがあった。


ルシエル「…。」


 でも、よく思い出せない。


レイ「本当に大丈夫ですか?」


ルシエル「うん。大丈夫だよ。」


 寝ている間、かなりうなされていた様子のルシエル。その様子を見ていたレイはかなり心配していた。

 泣きそうな顔をしてルシエルを見つめるレイを見て、ルシエルは軽く笑うとレイの頭を撫でた。


ルシエル「心配かけてごめんな。本当に大丈夫だよ。」


レイ「…何かありましたら、いつでもお声がけください。私がそばにおります。」


ルシエル「ありがとう。レイ。」


 レイはブージェ家の騎士団所属だが、ルシエルの言うことしか聞かない。ルシエルに対する忠誠心が誰よりも厚い騎士である。


レイ「…そ、それと、子供扱いはおやめください。」


 ルシエルに頭を撫でられて、嬉しい反面少し照れ臭かったレイは顔を赤くしながら目を逸らした。


ルシエル「はははっ…ごめんごめん。レイは弟みたいなもんだからついね。子供扱いなんてしてないよ。」


レイ「…弟だなんて」


ルシエル「僕が兄だと嫌?」


レイ「そ、そうじゃありませんっ…!…そう思っていただけるのは、光栄です…。」


ルシエル「そう?あまり嬉しそうじゃなさそうだけど?」


 目を逸らすレイの顔を覗き込むルシエル。顔が近くて、レイは顔を背けた。ルシエルは不思議そうに顔を傾けていた。


 ルシエルの顔は女性のように美しい。そんな美しい顔に近づかれると、忠誠を誓った主人とはいえドキドキしてしまうのである。


 ルシエルから距離を取った後、レイは一つ気になることをルシエルに聞いてみることにした。


レイ「あの…ルシエル様。」


ルシエル「なんだ?」


レイ「……あの、失礼な事をお聞きしますが、ルシエル様にはご兄弟がいらっしゃるのですか?」


ルシエル「兄弟?」


 倒れる前にルシエルは、ぼそっと「兄さん」と呟いていた。レイが知る限りルシエルに兄弟はいないはずだった。だから、ルシエルのその言葉が気になった。


 ルシエルはレイの質問の意図が全く理解できなかった。ルシエルはブージェ家の一人息子である。兄弟なんてものはいない。


ルシエル「何言ってるんだ?レイ。」


レイ「…。すみません。」


 レイはそれ以上何も聞いてこなかった。何故、ルシエルに兄弟がいると思ったのか不思議だったが、ルシエルはそれ以上レイには何も聞かなかった。


レイ「お体は大丈夫ですか?」


ルシエル「うん、問題ないよ。ありがとうレイ。」


レイ「…ルシエル様。ご無理はなさらず…」


ルシエル「あぁ。」


 ルシエルはベットから降りると、新しく用意された服に着替えることにした。着替えながら倒れる前の事を思い返していた。

 

ルシエル「そうだ、皇女のドレスを探さないと…」


レイ「緑色のドレスでは気に入らなかったようですね。」


 着替えているルシエルに背を向けて立っているレイ。背を合わせたまま2人は会話を続けた。


ルシエル「……そーね。僕の瞳と同じ色のドレスじゃなきゃ満足しないみたいだ。」


レイ「…どうするおつもりですか?」


ルシエル「昨日、面白い商人に会ったんだ。お礼もまだだしね。ちょうどいい。」


レイ「面白い商人…ですか。」


 ルシエルは小さなベルを取り出した。リーンと綺麗な音を鳴らした。


ルシエル(与えられた猶予は一週間なんて言ってたけど、最後のパーティーに間に合わせるには、5日の間に用意しなきゃいけない。アレンはまだカリスティにいるだろうか。)


 


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